電力会社が青森市に相次いで関連事業所を計画したことをめぐり、原子力関連施設が立地する青森県むつ市、東通村、大間町、六ケ所村の経済団体が反発を強めています。
これまで県内で電気事業関連で誘致された企業は15社16事業所に上り、776人の雇用が図られましたが、むつ下北地域では2社3事業所にとどまっています。
原子力関連施設の稼働停止や工事中断などで地域経済が疲弊する中での軋轢です。
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電力会社の相次ぐ青森市進出に原子力立地地域「軽視」と反発
産経新聞 2018年8月26日
「もっと立地地域のことを考えてほしい」-。電力会社が原子力行政に直接、関係のない青森市に相次いで関連事業所を計画したことをめぐり、原子力関連施設が立地する青森県むつ市、東通村、大間町、六ケ所村の経済団体が反発を強めている。東日本大震災以降、施設の稼働停止、工事中断が長期化し、地域経済が疲弊する中、“お膝元”を無視したような動きに不満が鬱積している。 (福田徳行)
◆「相談なし」に不快感
県内では平成28年度以降、中部、関西両電力が青森市にコールセンターを、7月9日には東京電力ホールディングス(HD)が青森市に電気料金の事務処理を行う事業所を開設することを表明した。これらはすべて電力会社の営業やマーケティング部門などを後方支援する「バックオフィス業務」を担う会社だ。
これに不快感を示したのが4市町村の経済団体で組織する「青森地域エネルギー施設立地商工団体協議会」(会長・其田桂むつ商工会議所会頭)だ。
同協議会によると、県内で電気事業連合会の仲介で誘致された企業は、これまで15社16事業所に上り、776人の雇用が図られた一方で、むつ下北地域では2社3事業所にとどまっているという。
中部、関西両電力はともかく、東電は日本原子力発電と共同出資してむつ市に設立した「リサイクル燃料貯蔵」が運営する使用済み核燃料中間貯蔵施設や東通村に東通原発の建設計画がある。下北半島に東電の施設があるにもかかわらず、立地地域を軽視するような今回の東電の青森市進出に対し、4市町村の経済界の堪忍袋の緒が切れた格好だ。
7月12日、県庁を訪れた其田会長は、応対した佐々木郁夫副知事に対し、立地地域への相談なしに調整を進め、他地域への誘致に至った経緯をただすとともに、下北地域への企業誘致、新たな産業・雇用創出への取り組みを要請した。
「立地地域以外へ誘致したことは県と我々との信頼関係に反する行為で断じて容認できない。少しでも、むつ下北地域への誘致は考えなかったのか」
◆進まぬ雇用・地域振興策
こう詰め寄った其田会長に対し、佐々木副知事は「東京電力HDは人員の確保、オフィス環境などを勘案し、勤勉で粘り強い県民性で立地を決めたと聞いている」と話した。すかさず、其田会長は「それならむつ下北でも良いのではないか」と再度、不満をぶつけたが、佐々木副知事は「事業展開、戦略があるのだろう。事業者には地域振興策の一層の充実を求めたい」と応じた。
遅々として進まない雇用、地域振興策に対して、明らかに不満顔の其田会長と、県の考えに理解を求めるしかない佐々木副知事。両者の表情には置かれている立場の苦しい事情が透けて見えた。
同協議会副会長の川村寛・東通村商工会長は「経済が疲弊している」と厳しい現状を吐露し、種市治雄・六ケ所村商工会長も「原子力事業が停滞する中で安全性の確保と信頼関係の確保が重要。県と立地地域が連携して事態打開を図っていくべき」と述べた。
「通り一辺倒で期待した回答ではなかった。立地地域を考えるならば相談があってしかるべき。上から目線だ」
不満を述べた其田会長には立地地域がないがしろにされているのではないかとの疑念が拭いきれない。
むつ下北地域は、紆余(うよ)曲折を経ながら国のエネルギー政策に協力してきた経緯がある。地域振興策を求める自治体には“原子力マネー”目当てなどと揶揄(やゆ)する風潮もあるが、歴史を顧みれば全くの的外れと言うほかない。国の根幹を成すエネルギー政策は、地域の理解と協力がないと進まないということを国、事業者は改めて真摯(しんし)に考える必要がある。