福島原発事故以前の原発損害賠償法(原賠法)では、電力は賠償額1200億円分の損害保険料の積み立てをすれば済みました。そのため政府は2011年の事故後に急遽原賠支援機構を設立し、そこが賠償金をいったん肩代わりし、後に東電に請求する仕組みになりました。
この措置は福島事故に限定されたものであり、原賠支援機構を設立する際に、一般の原発事故に対する賠償制度については「1年をめど」に見直すことになっていました。
しかしそれから7年が経過したにもかかわらず、今回の見直しでもそれは手つかずとなりました。その理由は明らかで、賠償金(具体的には電力の損害保険金)を合理的な額に増額すると、保険料が大幅にアップして原発の発電コストを大幅に押し上げることになるからです。
まさに原発の発電コストを低く見せるための欺瞞に他なりません。
「原子力ムラ」はこうまでしても、原発の利権にしがみつこうとしている訳です。
「原子力ムラ」はこうまでしても、原発の利権にしがみつこうとしている訳です。
信濃毎日新聞の社説を紹介します。
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(社説)原発賠償制度 リスクに備えぬ無責任
信濃毎日新聞 2018年8月14日
原発事故に伴う賠償制度の見直しを進めている政府の専門部会が報告案をまとめた。
今後の事故に備え電力会社に用意が義務付けられている賠償金(賠償措置額)を現行の最大1200億円に据え置くことになった。
東京電力福島第1原発事故では8兆円を超す賠償が発生している。事故が起きれば巨額の賠償が必要になることは明らかで、当初は引き上げる方向だった。
賠償金は、原子力損害賠償法(原賠法)に基づき保険や政府補償でまかなう。引き上げは電力会社と政府の負担を大幅に増やす可能性がある。電気料金の値上げや財政負担への世論の反発を恐れ、政府も電力会社も消極的だった。
政府は原発の再稼働を進める方針だ。事故への備えが不十分なまま原発の運転が続くことになる。考慮すべきリスクに目をつぶり国民への説明を回避する姿勢は、無責任と言わざるを得ない。
東電は、福島事故によって原賠法の枠組みでは賠償責任を果たせない事態に陥った。急場をしのぐ策として事実上国有化し、政府が原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて資金援助している。
原発を持つ東電以外の大手電力が一部を負担する電力会社の相互扶助の仕組みも導入し、どうにか対応している。電力自由化で各電力会社は競合相手となっている。いつまで足並みをそろえて支援を続けられるか疑問がある。
機構設立時、賠償負担の在り方について検討が必要との指摘があり、関連法の付帯決議が原賠法の見直しを求めていた。現行法の賠償の政府補償契約が2019年末で終わるため、それまでに法改正する必要がある。政府は秋の臨時国会に賠償金を据え置いた改正案を提出する方針だ。
見直し論議では、電力会社の賠償負担に上限を設けない現行の「無限責任」を維持するか、一定額以上は国が責任を持つ「有限責任」に切り替えるかも焦点となった。電力業界は有限責任への変更を強く求めたが、世論の批判を意識し、無限責任を維持した。
電力会社に無限責任を負わせる一方で、負担の大きさから必要な備えを確保することもできない状態に陥っている。
政府と電力会社はこれまで、原発は比較的安価なエネルギーだと強調してきた。賠償制度見直しの困難は、事故のリスクを考えると割に合わないことを示している。備えを含む負担について筋の通った仕組みが作れないのなら、原発から撤退すべきだ。