2014年5月4日日曜日

福島原発 汚染水問題 先行き不透明

 河北新報が福島原発汚染水問題について、「二つの切り札 先行き不透明」と題して、凍土遮水壁の建設計画と放射性物質トリチウムの処理が足踏みしている問題を取り上げました。
 
 まずトリチウムですが、これは水を構成する水素原子が放射能を帯びたもので、水と物性が違わないために従来の水処理技術(=塩類:金属イオン除去)では対応が出来ないものです。
 従ってその処理方法については全く見通しがないというのが実情です。
 
 凍土法については、東電を監視する「原子力改革監視委員会」のデール・クライン委員長(元米原子力規制委員会委員長)も、最近、「凍土法が最良の選択肢との確信が持てない。意図せぬ結果が生じないか心配だ」と語った※1ように、多くの専門家たち凍土壁の採用自体と効果に対して疑問の声をあげています。
※1 2014年5月2日元NRC委員長が凍土壁に懸念 福島原発 汚染水問題 
 
 凍土法は、これまでトンネル工事という小規模で比較的短期間の間だけ止水を要する、というようなケースで用いられていた工法で、福島原発のような規模で行った実績はありません。
 地下水の止水法としは、地下鉄工事などでごく普通に行われている、種々の確立された工法があります。それなのになぜか鹿島建設が提案した、この極めて特殊で実績のない工法が採用されたのでした。
 
 凍土壁の維持には膨大な電力を必要とし、事故で給電が停止した場合には当然止水効果はゼロになります。また現在も大きな余震が多発しているなかで、凍土壁が果たして強度的に地震に耐えるものなのかも疑問視されています。
 止水壁完成後に内側の汚染水濃度がどのレベルに到達するのかは不明ですが、止水壁が破損すれば直ちに地下水を汚し海を汚染することは明らかです。
 
 遮水壁をめぐり先般の検討会で、規制委安全性や実効性を慎重に審査する方針を示し※2ことに対して、資源エネルギー庁は「これまで規制委も加わって計画を検討してきたのに、ここに来て待ったをかけるとは」と、不満を隠さないということですが、500億円の国費と貴重な時間が全く無駄になるかどうかの瀬戸際に、そんな大人げのないことを口にする感覚が理解できません。
※2 2014年5月3日凍土遮水壁の認可 結論再び持ち越し 
 
 いまはあらゆる疑念に対して真剣に検討することが何よりも重要です。自分たちの面子が何よりも大事ということでは、それこそ大変な事態を招きかねません。
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福島第1原発、汚染水問題 二つの切り札 先行き不透明
 河北新報 2014年5月4日
 福島第1原発事故の汚染水問題で、解決の切り札とされる凍土遮水壁の建設計画と、放射性物質トリチウムの処理が足踏みしている。遮水壁は安全性を疑問視する原子力規制委員会が認可しておらず、トリチウムは処理方法が決まらない。先行きに不透明さが増している。
 
 遮水壁をめぐり、規制委は4月下旬、建屋への地下水流入の抑制量や地盤沈下の可能性などについて質問する文書を東京電力に提出。東電は2日の規制委検討会で回答したが、規制委は安全性や実効性を慎重に審査する方針を示し、認可の見通しは立っていない。
 遮水壁は、汚染水増加の原因となる地下水流入を止める抜本策と期待されている。東電による規制委への認可申請が3月上旬と遅れたこともあり、6月予定の着工には黄信号がともる。
 
 経済産業省資源エネルギー庁は「これまで規制委も加わって計画を検討してきた」と強調し、ここに来て「待った」をかける規制委に不満を隠さない。規制委は「われわれがどこに注目しているかは、これまで検討の場で明らかにしてきた」と反論する。
 
 トリチウムの処理はさらに困難を極める。汚染水を浄化する多核種除去設備ALPS(アルプス)でも取り除けない上、除去技術も未開発だ。
 政府の汚染水処理対策委員会の専門家チームは4月下旬の会合で「海洋放出」「大気放出」などの方法と、「そのまま」「希釈」「分離」の3パターンを組み合わせた16の選択肢を示した。
 会合では、エネ庁側が、規制基準も踏まえ絞り込みができないか規制委に打診。規制委は「現行の規制では『希釈して海洋放出』『希釈して大気放出』しかない」と応じた。処理策についての結論は先送りした。
 
 政府は凍土遮水壁に加え、地下水の供給源となる雨水の浸透を防ぐ敷地舗装やタンク増強を実施すれば「トリチウム以外の問題は2020年度末までに解決できる」と強調する。だが、凍土遮水壁という「入り口」と、トリチウム処理という「出口」がともにふさがっているのが現状だ。
 
[凍土遮水壁]
 第1原発1~4号機建屋の周囲約1.5キロの地中に管を入れて冷却剤を循環させ、凍った土で地下水の流入を止める。来年3月の凍結開始を目指している。
 
[トリチウム]
 半減期は約12年。弱いベータ線を出す。過去の核実験や原発排水でも大量に放出されている。主に水として存在する。生体への影響は放射性セシウムの約1000分の1。