福島原発事故で全町民が避難している楢葉町の松本幸英町長は、住民の帰町時期を判断するに当たり、計13回の町政懇談会を開き町民の声を聞きました。その結果は、町民の悩みは大きく分けて、除染の効果、(福島第1、第2)原発の安全性、賠償の3点に集約され、町長たちが危惧していることとほぼ一致しました。
町は最短で2015年春に本格復興期に入りたいとしていますが、町民には放射線や生活環境への不安などから早期帰町に慎重な声も沢山あります。特に懇談会では放射線への不安が噴出しました。
復興計画の15年春の帰町は現実的ではないとする声が大きいなか、町は3月に決めた帰町判断の考慮要件:「除染の効果」「交通インフラ」「買い物環境」など24項目について一つ一つ丁寧に検討し、総合的に帰町を判断するということです。
松本町長は、「手順を踏んで町民の声を聞いたことで、国との協議でも強く意見を主張できる」とも話しています。
楢葉町の帰町(の判断)に向けた本格的な取り組みは注目されます。
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帰町時期、難しい判断 課題を総合的に検討 楢葉町長
河北新報 2014年5月8日
福島第1原発事故で全町避難している福島県楢葉町の松本幸英町長が5月下旬、住民の帰町時期を判断する。4月21日から計13回の町政懇談会を開き、町民の声を聞いた。町の第2次復興計画では、最短で2015年春に本格復興期に入るが、町民や議会には放射線や生活環境への不安などから早期帰町に慎重な声も多い。「町政史上、最も重要な局面」(青木基議長)との声も上がり、難しい政治決断が迫る。
<悩みと危惧一致>
「だいぶ腹は固まってきた」。2日、福島県いわき市で開いた最後の町政懇談会後に松本町長が語った。
「町民の悩みは、私たちが危惧していることとほぼ一致していた」と説明。「除染の効果、(福島第1、第2)原発の安全性、賠償。大きな課題はこの3点に集約される」と総括した。
楢葉町が3月に策定した帰町計画は、判断の考慮要件として「除染の効果」「交通インフラ」「買い物環境」など24項目を挙げた。松本町長は「一つ一つ丁寧に検討し、総合的に帰町を判断する」と言う。
町が懇談会で示した資料では要件を満たしたと受け取れる評価も多い。
「除染の効果」は、町が設けた検証委員会の報告として「希望する人は帰還し、居住が可能」「継続的な除染や防護対策が必要」と記した。
国直轄の除染は3月に終了したが、懇談会では放射線への不安が噴出した。水源である木戸ダムの湖底の除染を求める意見も強い。町は「国に徹底した対応を求める」との姿勢を示した。
帰町のため避難指示が解除された場合、精神的賠償は原則1年で打ち切られる。加えて、不動産の賠償額は避難指示期間で変わる仕組みだ。
<15年は非現実的>
町議の一人は「帰還の準備や賠償などを考えれば、復興計画の15年春は現実的ではない」と指摘。50代男性は「家を修理するにも大工が足りない。除染廃棄物の仮置き場もたくさんある。原発の状態も不安だ。避難時のあのつらさはもう味わいたくない」と言う。
早期の帰還を促す政府は4月1日、田村市都路地区の避難指示を解除した。川内村東部地区についても早ければ7月下旬に解除する方向で検討している。楢葉町関係者は「一部が避難区域の田村、川内と違い、楢葉は今も全町避難している。全く機能していない町に帰る初のケース。町をどう取り戻すか、非常に難しい」と解説する。
懇談会では「国のペースに乗せられず、慎重に判断すべきだ」との声も出た。徹底した除染や賠償の運用は、町単独で解決できる問題ではないだけに、帰町判断の内容は単に時期を示すだけではない可能性もある。
松本町長は「時間がたつほど失う物は大きい」と述べる一方、「言葉を選んで判断したい。手順を踏んで町民の声を聞いたことで、国との協議でも強く意見を主張できる」と話している。