反原発の理論的リーダーのひとりである広瀬隆氏が、5月21日に大飯原発の運転差し止めの画期的な判決を出した福井地裁の樋口英明判事に対して、激励の手紙を出そうと呼びかける文書を発表しました。
判決文を哲学的かつ科学的で反論のしようのないものであると高く評価したうえで、今後樋口判事には、電力会社や国がマスメディアを通じて、さまざまな形(特に人事面など)で強大な圧力を加えるはずなので、国民はそれを監視していく必要があると述べたうえで、同判事に激励の手紙を出そうと呼びかけています。
文書の後半では、判決文で、広瀬氏が特にすぐれていると感じた箇所が列挙されています。その部分は判決文の要約とも位置づけられます。
27日のブログ「日々担々」に掲載されたので、以下に転載します。
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広瀬隆さんより 福井地裁の樋口英明氏に激励の手紙を出そう
日々担々 5月27日
全国のみなさま広瀬隆です
5月21日、福井地裁が、まことに哲学的かつ科学的な、反論しようのない原子力発電所の危険性を指摘した判決文を書いて、大飯原発3・4号機の運転差し止めを関西電力に命じました。
これは一電力会社である関西電力に対して命じられた判決ではありません。日本全土のすべての原発の運転差し止めを命じた内容です。
この見事な判決文を書いた裁判長の樋口英明氏には、今後、電力会社と国家および週刊誌などのメディアを通じて、強大な圧力が、さまざまな形で、特に人事面などで加えられるはずです。しかしこの判決の内容はすべて事実に基づいているのですから、高裁でも最高裁でも、この事実を隠蔽することはできません。勝てます。
日本のテレビと新聞は、この判決文に書かれた厳粛な事実を、これから自分たちの調査によって実証し、自らの言葉で国民に対して何度も説明し、理解させる義務があります。日本政府を追及する義務があります。だが、彼らは今後もそれをしないでしょう。彼らは、ジャーナリスト精神を持っていないからです。運転差し止め判決が出たという、中身のないニュースしか報道しないのです。
だから、私たち国民が、この事実を伝えあってゆかなければなりません。
これを見過ごしては、樋口英明氏が守ろうとしてくれた私たちの生命の存在価値がありません。
急いで、下記に激励の手紙を出そうではありませんか。みなさまの周囲の多くの人にも呼びかけてください。
宛先 樋口英明氏 〒910-0019 福井県福井市春山1-1-1 福井地方裁判所
民事部
手紙の封書の表書きには、「激励」、「判決に感動」、「全面的支持」など、みなさまの手紙の文意を示す一言を宛て名の横に書いたほうがよいと思います。はがきでもよいです。その手紙が裁判所に全国から山のように配達されれば、世の中の空気は変ります。私たち国民の良識が先手をとりましょう。
判決文のなかで、特にすぐれていると私が感じた点を挙げておきますので、みなさまが手紙を書かれる時の参考になさってください。
○個人の生命、身体、精神および生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制化においてはこれを超える価値をほかに見出すことはできない。
○福島原発事故においては・・・原子力委員会が福島第一原発から250キロメートル圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討した(これは2011年3月11日から2週間後の3月25日に、原子力委員会委員長・近藤駿介が250キロメートル圏内の住民避難の可能性について緊急事態の警告書を出したことを指摘している)。この250キロメートルという数字は緊急時に想定された数字にしかすぎないが、だからといってこの数字が直ちに過大であると判断することはできないというべきである。
○原子力発電所は地震による緊急停止後の冷却機能について外部からの交流電源によって水を循環させるという基本的なシステムをとっている。1260ガルを超える地震によってこのシステムは崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり、メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないことは被告(電力会社)において自認しているところである。しかるに、我が国の地震学会においてこのような規模の地震の発生を一度も予知できていないことは公知の事実である。
○我が国において記録された既往最大の震度は岩手宮城内陸地震における4022ガルであり、1260ガルという数値はこれをはるかに下回るものである。岩手宮城内陸地震は大飯(およびすべての原発立地地点)でも発生する可能性があるとされる内陸地殻内地震である。この既往最大という概念自体が、有史以来世界最大というものではなく近時の我が国において最大というものにすぎない。(よって)1260ガルを超える地震は大飯原発(およびすべての原発立地地点)に到来する危険がある。
○福島原発事故の原因について国会事故調査委員会が地震の解析に力を注いできたが・・・その原因を将来確定できるという保証はない。(まして事故の渦中にあっては、複雑きわまりない防護システムを機能させようとしても、放射能放出を未然に防ぐこと自体が不可能である、という説明)。
○関西電力(およびすべての電力会社)は、基準地震動を超える地震が到来することはまず考えられないと主張する。しかし・・・現に、全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が平成17年(2005年)以後10年足らずの間に到来しているという事実を直視すべきは当然である。・・・これらの事例はいずれも地震という自然の前における人間の能力の限界を示すというしかない。
○この地震大国日本において、基準地震動を超える地震が大飯原発(およびすべての原発)に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。このような施設のあり方は原子力発電所が有する本質的な危険性についてあまりにも楽観的といわざるを得ない。
○使用済み核燃料は本件原発(およびすべての原発)においては原子炉格納容器の外の建屋内の使用済み核燃料プールと呼ばれる水槽内に置かれており、その本数は1000本を超えるが、使用済み核燃料プールから放射性物質が漏れたときこれが原子力発電所敷地外部に放出されることを防御する原子炉圧力容器のような堅固な設備は存在しない。(この危険性を実証したのが、福島原発事故における4号機の使用済み核燃料プールからの放射能大汚染の危機であった・・・という説明。)
○本件(およびすべての原発の)使用済み核燃料プールにおいては全交流電源喪失から3日を経ずして冠水状態が維持できなくなる。我が国の存続に関わるほどの被害を及ぼすにもかかわらず、そのようなものが、堅固な設備によって閉じ込められていないままいわばむき出しに近い状態になっているのである。
○コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原子力発電所の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。
福井地方裁判所民事部第2部
裁判長裁判官 樋口英明
裁判官 石田明彦
裁判官 三宅由子