漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」掲載の「美味(おい)しんぼ」で、福島原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出す描写があった問題で、福島県は12日に県のホームページに反論を掲載するということです。
県民からは「県として抗議すべき」という意見が寄せられているということで、双葉町は発行元の小学館に対し「町民だけでなく、県民への差別を助長させる」との抗議文を送ったということです。
また石原伸晃環境大臣は「専門家によって、今回の事故と鼻血に因果関係がないと既に評価されている。不快だ」と語りました。
武田邦彦氏は、専門家は軽度の被曝の鼻血と、重度の被曝の鼻血の差を知っている(=重度の被曝で骨髄に損傷を受けると出血する)のに、(骨髄に損傷がないからとして)原発事故と鼻血には因果関係がないと言って、軽度の被曝と鼻血の関係を否定するのはおかしいとしています。
まず、なぜ被爆者の鼻血について触れることが「町民だけでなく、県民への差別を助長させる」ことになるというのでしょうか。被曝した人々の中に鼻血を出す人が沢山いたことは、この問題が起きるかなり以前からインターネットには沢山載っていました。
武田氏が述べるように、また双葉町の前町長の井戸川氏が実体験で言うように、軽度の被曝で鼻血が出るというのは事実です。事実を述べることが何故差別になるのでしょうか。
要するに被曝に関することについて語ることは、その一切が差別になるという考え方のようです。
福島県やその近くで被曝の心配を口にすると、『非国民』に近い扱いされるとも言われます。
体調の不良を医師に訴えても、まず絶対的に被曝との関係は否定されるということです。
それで福島県民の被曝問題が解決するのでしょうか。勿論そんなことはありません。ひたすら隠蔽を続けようとする国や県の幹部たちには都合はいいのでしょうが、それでは事態は深刻化する一方です。
既に通常の100倍以上の頻度で発生している児童の甲状腺がんは、県によっていまだに福島原発事故とは関係ないとされています。
二本松市の年間死亡者数は、前年に比べて20%以上も増大したそうです。
その現象はチェルノブイリの事故によって、その後ウクライナやベラルーシの人口が大減少したことと酷似していますが、そうしたことは一切公表されていません。
繰り返しますが、事態を隠蔽していても何も改善されません。
国の隠蔽姿勢にこのまま県や町が追随していていいのでしょうか。
+中日新聞 5月13日 記事を追記
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(福島)県がHPに反論掲載へ 「美味しんぼ」鼻血描写問題
福島民友ニュース 2014年5月11日
小学館の「ビッグコミックスピリッツ」掲載の漫画「美味(おい)しんぼ」で、東京電力福島第1原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出すなどの描写があった問題で、県が12日に県のホームページに反論を掲載することが10日、分かった。12日に発売される次号と、先月28日発売号の内容を踏まえた見解を示す予定。
県によると、同作品が及ぼす社会への影響を踏まえ、抗議の意思を示すとともに、県としての見解を示し、正しい理解を求める。県民からも「県として抗議すべき」という意見が寄せられているという。
同問題をめぐっては、同原発が立地する双葉町が小学館に対し「町民だけでなく、県民への差別を助長させる」との抗議文を送った。
ショート論評 「鼻血」問題に見る日本人の魂の喪失
武田邦彦 2014年5月10日
あるマンガに福島の被曝地帯で鼻血が多かったという内容があり、これに対して、こともあろうに大臣が「不快だ」と言い、地元が「差別」と言って、漫画の作者を非難した。まさに現代の社会「悪者が良い人をバッシングする」という典型例である。
まず第一に、軽度の被曝によって鼻血がでたのは事実であり、小学校でも記録されている。原発事故直後、子供も大人も鼻血で悩まされた。50歳の男性が今まで人生で一度も鼻血を出さなかったのが、大量の鼻血が突然出たのでびっくりした人など、枚挙にいとまがない。
これは、重度の被曝で骨髄に損傷を受けて出血するのとは原因も現象も違う。それなのに、御用学者は事実を認めずに、インチキを言ってごまかそうとしている(専門家は軽度の被曝の鼻血と、重度の被曝の鼻血の差を知っているのに、知らないような説明をしている)。
第二に、漫画に登場した「鼻血がでた」と言っている前町長は、「実際、鼻血が出る人の話を多く聞いている。私自身、毎日鼻血が出て、特に朝がひどい。発言の撤回はありえない」と言っている。またさらに石原伸晃環境相がマンガに不快感を示したことについて「なぜあの大臣が私の体についてうんぬんできるのか」と厳しい。
それよりも何よりも、福島原発事故が起こり、汚染状態も時々刻々と変化しているはずだし、森林の状態がどうなっているかも気がかりだ。田畑の汚染、セシウムの沈下速度、ストロンチウムの存在、セシウムの再飛散など、私たちが子供や自分自身の健康を守るためにどうしても必要なデータである。
さらに農作物、加工品、魚貝類、乳製品などの汚染や、海で潮干狩りをしたり、海水浴をしたりする危険性、はるか遠くの海やハワイなどをどのぐらい汚染したか、どれをとっても大切なことだ。
私は事故直後から、起こってしまったことは仕方がないが、原子力関係者は深く反省して、国民が必要なデータを力を合わせて発表していきたいと呼びかけたが、むしろ今回の鼻血のように、「隠す方向」=「野蛮な社会」へと進んでいる。税金で研究している国立環境研究所などはいったい何をしているのか?
もし、隠さなければならないほど原発や被曝が怖いなら、原発の再開などありうるはずもない。「風評」の専門家は「風評が起きるのはデータ不足から」と言っているが、風評を作り出しているのは、政府、環境省、自治体、そしてマスコミであり、国民は情報が提供されれば正しく冷静に判断するだろう。
今回の鼻血の件も「悪人が善人をバッシングする」と言う現代日本の悪弊が表面化した一つの例になった。今、甲状腺がんは100倍とされ、思春期の子供の急性白血病が増加していること、二本松市の死亡者数が20%以上も増大していることなど、日本人として関心を持たざるを得ないことが起こっている。
私たちは何のために政府を雇い、国立研究機関にお金を出しているのか。データを出す必要がないというなら、なぜないのかについて誠意をもって説明してもらいたい。
+
「美味しんぼ」登場の医師 「すべて事実。抗議は被災者に失礼」
中日新聞 2014年5月13日
「綿密な取材を受けた」
小学館の「週刊ビッグコミックスピリッツ」の漫画「美味(おい)しんぼ」に「岐阜環境医学研究所長」として実名で登場し、原発事故や震災がれきと鼻血の関連性を指摘している元岐阜大助教授の松井英介医師(76)=岐阜市=は12日、本紙の取材に「すべて事実。実際に異変を感じている人たちがいる」と主張した。福島県や大阪市などの抗議には「〝事実無根〟というのは、その人たちに失礼だ」と反論した。
放射線診療が専門。福島県双葉町に依頼されて2012年度から町の放射線アドバイザーとして年間数十日、町内に滞在し、多くの被災者から「鼻血が突然出る」「せきが止まらない」「体がだるい」などの症状を聞き取ったという。
「美味しんぼ」の原作者の雁屋哲さんと昨年末に出会い、4カ月にわたり「綿密な取材を受けた」と強調。問題の漫画を「子どもたちが読んで、自分の体の仕組みや放射線に関心を持ってほしい」と話した。