福井新聞が「大飯原発運転差し止め判決」の背景等を報じています。
最高裁は福島事故後の2012年1月に、全国各地の裁判官を集めて原発訴訟をめぐる研究会を開きましたが、そのときにそれまで審理が国の手続きの適否判断が中心だったことを反省し、今後は安全性をより本格的に審査しようとする改革論が相次いで出されたということです※。
※ 2012年8月31日「原発訴訟の審理が改善される可能性が」
福島事故後16件の原発訴訟が提起されていますが、福井地裁の判決はその第1陣に当たるものでした。
樋口裁判長は「学術的議論を繰り返すと何年たっても(裁判は)終わらない」と述べて、争点を絞り込み審理を着実に進めました。原発運転差し止めの審理をどのように進めるべきかについて、確固たる信念を持っていたように思われます。
その結果提訴から1年半という従来に比べれば短期間で判決を下しましたが、1年半あれば十二分に審理が出来ることもこれで示されました。従来の所要期間があまりにも(=いたずらに)長きに過ぎたということです。
全国の殆どの原発訴訟に関与してきた河合弘之弁護士は、「一審判決を覆すのは理論的に不可能」と語っています。判決にはそれだけの迫力と論理の透徹性があります。司法もご他聞に漏れず、上(=中央)に近づくほど原発の安全・必要神話に漬かっていると言われる中で、控訴を受けた高裁がどのような判決を下すのか注目されます。
この判決を受けて、全国の訴訟に携わる弁護士およそ150人が、23日、東京で集会を開き、「判決の指摘を受け、国は原子力政策を根本から見直すべきだ」と訴えました。
集会では弁護団の連携を強め、今後も各地で訴えが認められるよう取り組むことなどを確認しました。
大飯判決日の21日に出された日弁連会長の声明も併せて紹介します。
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大飯原発判決、司法の姿勢転換点か 福島原発事故後、審理に改革論
福井新聞 2014年5月23日
大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働に向け原子力規制委員会の審査が続く中、司法から「運転は認められない」との判断が突き付けられた。2基の危険性、構造的欠陥を指摘した福井地裁判決の影響を探る。
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東京電力福島第1原発事故を受け、原発の危険性を訴えてきた住民の思いを司法がくみ上げた。関西電力大飯原発3、4号機運転差し止め訴訟の原告側は、主張がほとんど認められた判決に勢いづき、上級審での勝訴確定へ全力を挙げる決意だ。
福井地裁の樋口英明裁判長の訴訟指揮は、過去の原発訴訟と明らかに異なっていた。「学術的議論を繰り返すと何年たっても(裁判は)終わらない」と指摘。争点を絞り込み、審理を着実に進め、提訴から1年半という短期間での判決を導いた。
福島事故後の2012年1月、最高裁は全国各地の裁判官を集め、原発訴訟をめぐる研究会を開いた。この中で、国の手続きの適否判断が中心だった従来の審理を脱し、安全性を本格的に審査しようとする改革論が相次いで出されたという。
樋口裁判長は判決で「福島原発の事故後、大飯で同じような事態を招く危険性があるのかという判断を避けることは、裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい」と言及した。今回の判決には、司法の姿勢の転換点となる可能性もうかがえる。
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判決で、原告が高く評価する点の一つに、原発から250キロ圏内に住む原告の訴えを認めたことがある。原子力規制委員会は福島事故を受け、防災重点地域を30キロ圏に広げ、避難計画の策定などを求めている。しかし判決は、そうした防災対策の在り方を真っ向から否定した形だ。
脱原発弁護団全国連絡会(事務局・東京)の河合弘之共同代表は「これほど広域な安全対策が取れるはずもない。判決は『日本で原発稼働は無理だ』と言っている」と強調する。関電の控訴について、「一審判決を覆すのは理論的に不可能。“控訴のためだけにする控訴”であり、子どもじみている」と批判した。
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福島事故後で初の勝訴判決に沸く原告団と弁護団。しかし、過去の原発訴訟は、反対派住民らの敗訴の歴史だった。
史上初の原告勝利となった高速増殖炉「もんじゅ」訴訟の名古屋高裁金沢支部判決(2003年)、2例目の志賀原発2号機差し止め訴訟の金沢地裁判決(06年)も、ともに上級審で敗訴が確定した。
大飯原発訴訟で原告団長を務める中嶌哲演さん(72)=福井県小浜市=は、「もんじゅ」訴訟にも1985年の提訴時から関わった。勝ち抜く難しさを実感している一人だ。「行政も司法も、上(中央)に近づくほど原発の安全・必要神話に漬かっている」と話す。
一方で中嶌さんは「福島事故と、今回の地裁判決を受けて司法は変わったと信じる」との期待も口にする。「原発推進の厚い壁に開いた穴を広げ、安心安全な社会を築く」と気を引き締めた。
大飯原発の判決受け弁護団が集会
NHK NEWS WEB 2014年5月23日
福井県にある関西電力大飯原子力発電所、3号機と4号機を再稼働しないよう命じる判決が出たことを受けて、全国の弁護団が23日、東京で集会を開き、判決をきっかけに国に原子力政策を見直すよう訴えました。
東京で開かれた集会は、原発に反対する弁護士で作る「脱原発弁護団全国連絡会」などが開いたもので、全国の訴訟に携わる弁護士や大飯原発の裁判の原告などおよそ150人が参加しました。
連絡会の共同代表を務める海渡雄一弁護士が「判決は原発事故の問題点を真正面から見据えた判断で判決の指摘を受け、国は原子力政策を根本から見直すべきだ」と訴えました。
再稼働しないよう命じた今回の判決に対し、関西電力が22日控訴したため名古屋高裁金沢支部で2審の審理が続きます。
全国連絡会によりますと、現在、大飯原発を含め全国の16の原発や原子力施設を対象に運転をしないことなどを求める訴えが起こされていて、集会では弁護団の連携を強め、今後も各地で訴えが認められるよう取り組むことなども確認しました。
福井地裁大飯原発3、4号機差止訴訟判決に関する会長声明
福井地方裁判所は、2014年5月21日、関西電力株式会社に対し、大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)から半径250km圏内の住民の人格権に基づき、同原子力発電所3号機及び4号機の原子炉について、運転の差止めを命じる判決を言い渡した。本判決は、仮処分決定を除くと、2011年3月の福島第一原発事故以降に言い渡された原発訴訟の判決としては初めてのものである。
従来の原子力発電所をめぐる行政訴訟及び民事訴訟において、裁判所は、規制基準への適合性や適合性審査の適否の視点から、行政庁や事業者の提出する資料を慎重に評価せず、行政庁の科学技術的裁量を広く認めてきた。また、行政庁や事業者の原子力発電所の安全性についての主張・立証を緩やかに認めた上で、安全性の欠如について住民側に過度の立証責任を課したため、行政庁や事業者の主張を追認する結果となり、適切な判断がなされたとは言い難かった。
これに対し本判決は、このような原子力発電所に関する従来の司法判断の枠組みからではなく、技術の危険性の性質やそのもたらす被害の大きさが判明している場合には、その性質と大きさに応じた安全性が認められるべきとの理に基づき、裁判所の判断が及ぼされるべきとしたものである。その上で、原子力発電所の特性、大飯原発の冷却機能の維持、閉じ込めるという構造の細部に検討を加え、大飯原発に係る安全技術及び設備は、万全ではないのではないかという疑いが残るというにとどまらず、むしろ、確たる根拠のない楽観的な見通しの下に初めて成り立ちうる脆弱なものとし、運転差止めを認めたものである。本判決は、福島第一原発事故の深い反省の下に、国民の生存を基礎とする人格権に基づき、国民を放射性物質の危険から守るという観点から、司法の果たすべき役割を見据えてなされた、画期的判決であり、ここで示された判断の多くは、他の原子力発電所にもあてはまるものである。
当連合会は、昨年の人権擁護大会において、いまだに福島第一原発事故の原因が解明されておらず、同事故のような事態の再発を防止する目処が立っていないこと等から、原子力発電所の再稼働を認めず、速やかに廃止すること等を内容とする決議を採択したところである。本判決は、この当連合会の見解と基本的認識を共通にするものであり、高く評価する。
政府に対しては、本判決を受けて、従来のエネルギー・原子力政策を改め、速やかに原子力発電所を廃止して、再生可能エネルギーを飛躍的に普及させるとともに、原子力発電所の立地地域が原子力発電所に依存することなく自律的発展ができるよう、必要な支援を行うことを強く求めるものである。
2014年(平成26年)5月21日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進