福島原発事故の収束作業の現場で、相次ぐ人為ミスの背景に作業環境の悪化があると、原子力規制委は指摘しました。現場の環境を改善することは廃炉工程の「質」を向上させるという訳です。それを受けて東電は作業員の生活環境の改善を進めています。
現場では東電社員と協力(下請け)企業の作業員を合わせ、1日約4000人が作業に従事しています。
この4月7日、ようやく1000人を収容できる3階建ての仮設休憩所が運用を開始しました。仮設でない1200人が収容できる地上8階建ての恒常的な作業員の大型休憩施設や、作業員らの食事を賄う給食センターも、今年度中の完成を目指し建設が進んでいます。
協力企業の作業員だけでなく、東電も福島に多くの社員を常駐させていて、彼ら用の仮設のプレハブ社員寮の改善も進められています。社員寮の各部屋には水回りは一切なく、当初は仮設のトイレまで100メートル以上も歩かなくてはならないというような実態もありました(現在は寮内に共同トイレ・シャワー室を設置)。
一方では、今なお福島では約13万人が仮設住宅などでの避難生活を余儀なくされていて、それを至急に解決しなくてはならないという大問題があります。
東電社員は、「寮の改善はありがたいが、被災者を思うと多少の不便は当然との思いもある」と、語っているということです。
産経新聞が、東電が進める作業環境改善の実態について報じました。
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福島第1原発廃炉作業の「質」にも影響
進む作業員の生活環境改善、その実態は
産経新聞 2014年5月4日
東京電力福島第1原発事故の収束作業の一環で、東電は作業員の生活環境改善を進めている。現場で相次ぐ人為ミスの背景に作業環境の悪化があると指摘されたためで、環境改善は廃炉工程の「質」に影響するからだ。東電は福島に多くの社員を常駐させており、協力企業の作業員だけでなく、仮設のプレハブ社員寮も改善が進む。だが、今なお福島では約13万人が仮設住宅などでの避難生活を余儀なくされている。「改善はありがたいが、被災者を思うと多少の不便は当然との思いもある」(東電)。東電が進める作業環境改善の実態は・・・。
作業の「質」確保へ休息施設の建設進む
福島第1原発では東電社員と協力企業の作業員を合わせ、1日約4千人が作業に従事している。
原発に隣接する敷地では4月7日、1000人を収容できる3階建ての仮設休憩所が運用を開始した。仮設でない1200人が収容できる地上8階建ての恒常的な作業員の大型休憩施設や、作業員らの食事を賄う給食センターも今年度中の完成を目指し建設が進む。来年度には社員向けの新事務棟も新設する。
こうした施設の建設が進んでいるのは、福島第1原発で昨年秋以降、汚染水などの処理で人為ミスが相次いだためだ。原子力規制委員会の田中俊一委員長は東電の広瀬直己社長を呼び、ミスの遠因には作業環境の悪化があると指摘。広瀬社長に対応の改善を求めた。
これを受け、東電は昨年11月、ミスの原因とされる作業員の士気低下を防ぐ改善策を公表。休憩施設の新設や協力企業の作業員の手当のアップも決めた。
「これから夏を迎え、防護服に全面マスクでの長時間の作業は、厳しい季節になる。集中力を維持するためには十分な休息も必要で、作業現場の改善については責任を持って当たっていく」(東電)
福島第1原発では、東電社員のほか協力企業の作業員も多く従事する。原発構内での作業環境は東電が社員と同様に職場環境を整えるが、職場を離れた衣食住は個々の協力企業に委ねられている。協力企業の作業員の住環境はそれぞれの企業によって、民宿を借り上げたり、ホテルに住んだりとさまざまで、作業員はここから日々、福島第1に通勤することになる。
トイレ、シャワー共同。3・8畳の個室に1300人が居住
では、東電社員の住環境はどうなっているのか。東電は4月に廃炉を推進する分社を立ち上げるなど、福島に社員を集中させている。福島第1原発付近にあった社員寮は高線量地区のため住めず、多くは約25キロ離れたJヴィレッジ(福島県楢葉町)に隣接するプレハブ仮設の新広野寮(同広野町)に居住する。
新広野寮は平成23年7月から順次入居が始まり、現在は約1300室ある。女性社員の居住する女子棟もある。寮は2階建てのプレハブ造りで、一部屋は3・8畳。部屋には水回り関係は一切なく、トイレやシャワー、洗面台は共同で利用している。
寮ができて入居が始まった23年7月は、事故から約4カ月後で、福島第1原発はまだ冷温停止していない状態だった。寮ができても、トイレはくみ取り型の簡易トイレのみだった。
このため「朝の出発時間近くでは簡易トイレに渋滞ができたりしたこともあった。ただ、その頃はまだ事務所のイスや机に寝ることが多かった。横になれる個室の寮ができただけで十分で、トイレでの不満はとくに出た記憶はない。それほど職場が“戦場”だった」(東電社員)
寮建設から約1カ月後、トイレ棟2棟が完成。計24のトイレ個室ができあがった。トイレ棟2階には、個室のシャワー室もでき、ほぼ現在のままとなった。
それでも、トイレ棟まで最も遠い居住棟からは、外を100メートル以上歩かなくてはいけない。明け方に尿意をもよおしても、我慢してしまう人も多く、膀胱炎(ぼうこうえん)になった職員もいたという。現在は居住棟のフロアに共同のトイレができた。「事故当初に比べ、最近はだいぶ環境改善は進んだ」と寮建設当初を知る東電社員は振り返る。
返還期限迫るJヴィレッジ 長期化にどう対応
東電社員が利用する新広野寮があるJヴィレッジは震災前、日本サッカー協会のナショナルトレーニングセンターとして利用されていた。だが、現在は福島第1原発事故の収束作業の拠点となっている。
寮はJヴィレッジのサッカースタジアムや練習場にあり、東電は2020年(平成32年)東京五輪開催の2年前となる平成30年までに、敷地をJヴィレッジ運営会社に返還する方針だ。
新広野寮もそれまでには撤去しなければならず、長期化する廃炉作業には、恒常的な施設の建設も今後、必要となってくる。
一方で、避難生活が長引き、仮の暮らしを強いられている13万人の福島県の被災者の居住についても、帰還か避難先での定住かという重い課題が常につきまとっているのも事実だ。
「私たちは被災者の方が住んでいた所を奪ってしまった。生活や作業環境は多少の不便はあるが、我々は休日には自宅に帰ることもできる。それに対し、被災者の方は自由に帰れる家がない。環境改善はありがたいが、ぜいたくを言う気にはなれない。当然のことと思ってやっている」。福島第1原発構内で勤務する東電社員はこう話した。