20日と22日、福島県川内村で原発事故を想定した住民の避難訓練を行いました。
同村は原発事故で一時全村を避難を強いられ、今年10月、東部の避難指示解除準備区域の指定が解かれました。
福島原発の事故時には、避難で大混乱を来たした経験を踏まえて県は従来の避難計画を大幅に見直して、原発事故後初めて実施された訓練でした。
河北新報が避難訓練の概要を報じ、朝日新聞が避難訓練で見えた課題を報じています。
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原発事故後初 川内で避難訓練
河北新報 2014年11月23日
福島県と同県川内村は22日、県の原子力災害広域避難計画に基づく住民避難訓練を同村などで実施した。東京電力福島第1原発事故後、実際に住民が避難する訓練は初めて。
訓練は、浜通りを震源とする震度6強の地震で福島第1原発の3号機使用済み燃料プールが破損して水位が低下、川内村など周辺市町村に避難指示が出たとの想定で実施。原発事故を踏まえ、複数市町村にまたがる広域避難の手順を確認した。
訓練は20日もあり、2日間で村民や原子力規制庁など78団体計約1300人が参加。住民は大型バスやタクシーなど約30台で田村市都路地区や郡山市に避難した。希望者には安定ヨウ素剤が配られ、避難所では被ばく状況を検査するスクリーニングの訓練をした。
川内村下川内の無職小野俊光さん(82)は「避難所への出発まで時間がかかった。訓練は万一の時の備えになるが、二度と原発事故がないよう願う」と話した。
県は4月、福島第1、第2原発で新たに原子力災害が発生した場合に備え、原発30キロ圏の双葉町や川内村など13市町村を「暫定重点区域」とし、約54万8000人の避難経路などを定めた広域避難計画を発表した。個別に避難計画を定めたのは川内村など4市町村にとどまっている。
同村は原発事故で一時全村を避難を強いられ、2012年1月に帰村を宣言。ことし10月、東部の避難指示解除準備区域の指定が解かれた。
原発事故訓練 見えた課題
朝日新聞 2014年11月24日
原発事故を再び想定した住民避難訓練が22日、東京電力福島第一原発の事故後、初めて実施された。大混乱した当時の教訓から、県の避難計画は大きく見直された。だが、実際にどこまで対応できるか、三つの課題をみてみた。
●適切に避難できるか
4歳の孫を連れて参加した川内村の秋元一さん(64)は「こんなに時間がかかっていたら被曝(ひばく)してしまう」。村が用意したバスの出発が、県と村の事前の連絡のまずさで予定より30分も遅れたからだ。
原発事故では、被災自治体の避難先が事前に決まっていなかった。このため、県は原発に近い13市町村からの避難先として、県内46市町村を振りわける「原子力災害広域避難計画」を今年4月に作成=図参照。避難ルートも決めた。今回の訓練は、それを受けて病院、自衛隊も含めた78団体の約1200人が参加した。
ただ、放射性物質の拡散方向が風で変わっても避難先の変更は難しい。「パズルのように割り当てているので、別の場所に避難しようものなら計画が破綻(はたん)してしまう」と県の担当者。
また、いわき市の約30万人が茨城県に避難する想定になっているが、具体的な受け入れ市町村は決まっていない。茨城県との調整が進んでいないからだ。
●ヨウ素剤は配布可能か
「アレルギーはありませんか」。バスで避難先に向かった住民はいったん、村の拠点で保健師らから個々に問診を受けて、安定ヨウ素剤に見立てた「紙」を受け取った。国から村全域にヨウ素剤の服用指示が出されたとの想定だ。
だが、村が先月策定した「原子力災害避難計画」では「自家用車による自力避難」が原則。村の担当者は「避難を急ぐ住民に実際に配布できるのか」と心配する。ふだんは村の診療所に保管している。
隣のいわき市はヨウ素剤を郵送などで40歳以下の13万人の住民に配布済みだ。市の担当者は「事前に配らないと、配布窓口に住民が殺到しパニックになる恐れがある。やっと手には入って飲んだらもう被曝していた、では遅い」。
ただ、県は「事前配布だと誤用の恐れもある」などとして、保管の判断は市町村に事実上、委ねている。
●学校は混乱しないか
川内小学校の全校児童28人も教職員とともにバスで集団避難した。県の広域避難計画とは違う避難方法だ。県の計画だと、原発から特に近い学校以外は、若干の時間的余裕があるなどの理由から児童・生徒は原則、学校で保護者に引き渡すことになっている。
しかし、川内村の避難計画では、学校が子どもを避難先で保護者に引き渡すと決めている。「村外で働く保護者もいるので、学校で待っていたら避難が遅れる」との理由だ。
ただ、学校の近くにいる保護者が集団避難する前に引き取りに来ることも考えられる。塙広治校長は「学校が混乱しないよう、あらゆる事態を事前に想定することが大事だ」と話す。(岡本進)