関電大飯原発3、4号機と高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを求めた「仮処分」申請に対して、大津地裁は27日、それを却下する決定を行いました。
大飯原発3、4号機については既に運転差し止めの「本訴訟」が行われて、今年5月に「運転差し止め」の画期的な判決が下されました。その分今回の却下の決定には落胆しましたが、これまでのように国や電力の原発は安全であるという言い分をそのまま鵜呑みにしたというものではないようです。
却下の理由は「原子力規制委員会が、いたずらに早急に、再稼働を容認するとは到底考えがたい」から、それに先行する仮処分の必要はないというものでした。
審理の最大の争点だった「基準地震動」について、原告側が「関電が過去の地震動の最高値でなく平均値に基づいて設定した」ことを不当であると指摘したことに対して関電が「反論を放棄した」ことから、それを確定できなければ再稼働はあり得ないとの判断も示しています。
仮処分申請は却下されたものの内容的に「実質的勝訴」とする見方もあって、弁護団長は「裁判所は再稼働容認の判断を出せる状況ではないと明言した。規制委は厳粛に受け止めるべきだ」と述べました。
続報として東京新聞、毎日新聞、京都新聞の記事を紹介します。
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大飯、高浜再稼働 「早急な容認考えがたい」
東京新聞 2014年11月28日
滋賀県などの住民らが、関西電力の大飯原発3、4号機(福井県おおい町)と高浜原発3、4号機(同県高浜町)=いずれも運転停止中=の再稼働差し止めを求めた仮処分の申し立てで、大津地裁(山本善彦裁判長)は二十七日、「現時点で差し止める必要性はない」として、却下する決定をした。
決定文では、差し止めの必要性がないとした理由を原発の安全性の観点からではなく「原子力規制委員会が、いたずらに早急に、再稼働を容認するとは到底考えがたい」からとした。
最大の争点だった「基準地震動」について関電が反論を放棄したことや、原発事故を想定した住民の避難計画が策定されていないことなどに触れ「これらの作業が進まなければ再稼働はあり得ない」との考え方を示した。
住民らは、大飯と高浜で過酷事故があれば住民の生存権や人格権が侵害されると主張。原発の耐震設計の目安となる基準地震動を、関電が過去の地震動の最高値でなく平均値に基づいて設定しているなどとして危険性を訴えていた。関電側は「安全性は確保されている」と却下を求めていた。
対象の原発四基はいずれも停止中。関電は昨年七月、再稼働を目指して新規制基準への適合性審査を申請し、原子力規制委が審査を進めている。
関電は「妥当な判断。今後も安全対策に万全を期すとともに、一日も早い再稼働を目指したい」とコメントした。
◆住民ら「不当」 「実質的勝訴」
関西電力の原発差し止めを求めた仮処分申し立てが大津地裁で却下されたことを受け、住民側は二十七日、大津市内で記者会見し「不当な決定だ」と非難の声を上げた。一方で、原子力規制委員会が直ちには再稼働を容認しないと言及した点について「実質的勝訴」とする声も出た。
住民側の辻義則代表(67)=滋賀県長浜市=は「裁判所が、再稼働を進める政府や電力会社の姿勢に不信を述べたともいえる。関電は再稼働に向けての手続きをいったん停止すべきだ」と話した。
弁護団長の井戸謙一弁護士は「裁判所は規制委が再稼働容認の判断を出せる状況ではないと明言した。規制委は厳粛に受け止めるべきだ」と述べた。
原発再稼働差し止め:却下決定「再稼働あり得ない」指摘も
毎日新聞 2014年11月28日
滋賀、大阪、京都3府県の住民計178人が関西電力に対し、福井県の大飯原発3、4号機と高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを求めた仮処分申請で、27日に大津地裁が出した却下の決定は、事故対策などが進んでいない現状を指摘した上で仮処分の緊急性がないと判断した。住民側は、裁判所の認識と再稼働に向けた実際の動きの「ずれ」を批判する一方で、避難計画策定の遅れなどへの言及を一定程度評価した。
住民側は「事故で琵琶湖が放射能汚染されれば健康被害は計り知れない」などと主張。関電は「安全性は十分確保されている」として却下を求めていた。
決定は、4原発について「事故に対応する組織や地元自治体との連携・役割分担、住民の避難計画などが何ら策定されていない」と指摘。「これらの作業が進まなければ再稼働はあり得ず、原子力規制委がいたずらに早急に、新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたい」とした。
27日午後に記者会見した住民側代表の辻義則さん(67)は、早急な再稼働を否定した決定理由について「両原発は近く再稼働の前提となる原子炉設置変更許可が認められると見込まれており、社会の一般的な認識に反する」と批判した。
一方、決定が避難計画の策定作業などが進まなければ再稼働はあり得ないとしたことを「再稼働にまい進する政府・電力会社の姿勢に対する不信と批判」と評価。住民側代理人の井戸謙一弁護士(60)は「常識的に考えれば、こんな状態で再稼働は容認できないという裁判所のメッセージだ」と述べた。【田中将隆、村松洋】
「司法の責任放棄」住民ら憤り 大飯・高浜差し止め却下
京都新聞 2014年11月27日
原発の再稼働を防ごうとする京滋の住民の願いは、司法に届かなかった。福井県にある関西電力大飯、高浜原発の再稼働差し止めを求めた仮処分申請から3年3カ月余り。大津地裁は27日、却下の決定を出した。住民は悔しさをあらわにする一方、関電の安全対策にも言及した決定内容に、「再稼働への大きな足かせになる」と評価する声も上がった。
午後1時すぎ、大津地裁前で弁護団長の井戸謙一弁護士(60)が決定の主文を読み上げると、約30人の住民からため息が漏れた。申立人の一人で福島県南相馬市から避難している青田勝彦さん(72)=大津市=は「司法の責任放棄だ。裁判所は原子力規制委員会に判断を丸投げした」と憤った。
審尋は18回を数えたが、決定が出ないまま年月が流れた。その間にも九州電力川内原発が規制委に新規制基準の適合性を認められるなど、再稼働に向けた動きが進む。井戸弁護士は「申し立て当初と状況が変わった。裁判所が国民の願いを受け止め、早期に決定を出していれば違う結果になったはず」と唇をかんだ。
大津市の滋賀弁護士会館であった住民報告集会では、住民から「勇気のない決定だ」などの声が上がった。
ただ、今回の決定は関電側の安全対策にも言及。住民側が「過去の地震の平均像を算出しただけ」と問題視する基準地震動(最大規模の地震の揺れ)の策定方法に触れ、地裁は「関電からは何ら説明がない」と指摘。住民の避難計画の策定などが進んでいない現状では「再稼働はあり得ない」と言い切った。住民代表の辻義則さん(67)=長浜市=は「関電がこのまま再稼働に走ることはできない内容。非常に大きな足かせになる」と評価した。