2016年1月25日月曜日

25- 温暖化対策と核燃料サイクル(小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは温暖化対策と核燃料サイクルがテーマです。
 
 小出氏はまず「高速増殖炉」は完成する見込みがないこと、「核燃料の再処理システム」もこれまで投じた2兆円はドブに捨てたようなもので完成の見通しが乏しいことを述べ、それでも政府がしがみついているのは実は核兵器を作る能力を保有することが目的だからとしています。 
 そしてウランというのはもともと地球上にはわずかな量しか存在していないので、これからの未来のエネルギー源にはならないと明言しています。
 
追記 文中の太字箇所は原文で行わているものです。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。
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温暖化対策と核燃料サイクル
〜第159回小出裕章ジャーナル 2016年01月23日
「ウランというのはこの地球上には貧弱な量しか存在していませんので、いずれにしても原子力なんかにしがみついていても未来のエネルギー源にはならないのです」
 
谷岡理香: 今回は、去年12月に開かれた温暖化対策パリ会議COP21から見えてきた日本の環境対策、それからエネルギー政策、原発政策について、小出さんに伺っていきます。今日も電話が繋がっています。小出さん、よろしくお願い致します。
小 出: こちらこそ、よろしくお願いします。
谷 岡: COP21が終わって、脱化石燃料の時代へと、世界は一気に加速していくように感じています。が、残念ながら日本はどうも方向が逆行しているように感じます。特に高速増殖炉へのこだわりと核燃料サイクルの中核となる再処理事業に、なんと政府が強く関与することになりましたね。
小 出: はい。これまで日本の国は、原子力発電所を動かして、そこから出てくる使用済みの燃料、その中からプルトニウムという物質を取り出して、それを高速増殖炉という特殊な原子炉で燃やすことで、原子力を意味のあるエネルギー源にしたいと言い続けてきたわけです。
   そのためには高速増殖炉という特殊な原子炉と、そこから出てくる使用済みの燃料を再処理してプルトニウムを取り出すということを実現させなければいけないのです。しかし高速増殖炉、それの非常にプリミティブな実験炉である「もんじゅ」という原子炉は、ずっと止まったままで、事故続きで、つい先日は原子力規制委員会自身が「もうこんなものはダメだ。なんかもっとちゃんとした組織が引き受けてやらなければいけない」という最後通告を突きつけるというそんな状態になってしまっていて、高速増殖炉自身もおそらくはもう実現できないというところに追い込まれているのです
   そしてもうひとつが、今聞いて頂きましたように、使用済みの燃料の中からプルトニウムを取り出すという再処理という技術なのです。それを何とか実現しようとして、これまで六ヶ所村で再処理工場というのをつくろうとしてきました。それを担っていたのは、日本原燃という会社なのですが、それは会社というよりは、むしろ日本の原子力発電を担っている電力会社が、みんなでとにかくお金を出し合って支えようということでやってきたのです。
   しかしその再処理という事業も全く実現できないまま、既に2兆円を超えるお金をドブに捨ててしまったという状態になっているのです。もうこんな物は、到底民間の企業では引き受けることができないわけですし、電力会社としても、いつまでもそれを抱えていることができなくなるかもしれないということで、日本の政府は、それを民間の会社からいわゆる国が強く関与するような特殊な機関に、民間法人と言うのですけれども、してしまってもう電力会社にも逃げさせないと、国が協力に関与するというような形になろうとしているわけです。
谷 岡: でも小出さん、その高速増殖炉もうまくいかない。再処理工場もうまくいかない。2本柱が機能していないのにも関わらず、どうして政府はここまで、ここにしがみつこうとしているのでしょうか?
小 出: はい。日本の皆さんは、これまでずっと原子力というのは平和利用に限って進めてきたんだ。原子力発電だって平和利用だし、核燃料サイクルでプルトニウムを取り出すことも発電というための燃料に使うのであって、平和利用なんだとずっと聞かされてきて、ほとんどの方がそれを信じているのだと私は思います。
   しかし実はそれが嘘だったのです。日本というこの国が原子力というものに関わった、その一番初めの当初から、別に発電をやりたいわけではない、原子力というものを平和利用だと言いながら、実は核兵器をつくる能力を保有したいんだということが一番の動機だったのです
   再処理という技術も、使用済みの燃料の中からプルトニウムという物質を取り出すための技術なのですが、プルトニウムは長崎原爆の材料であったわけで、日本というこの国は何としても原爆材料を懐に入れる。その技術を自分のものとしたいということで、これまで進めてきたわけですし、六ヶ所村で今つくろうとしている再処理工場も決して諦めることがないだろうと思います
   そして高速増殖炉の方も、この原子炉というのが非常に特殊な役割を持っていまして、この原子炉を動かすことができれば、その炉心を取り巻いているブランケットという部分にプルトニウムが溜まってくるのですが、そのプルトニウムは核分裂性のプルトニウムの割合が98パーセントにもなるという超優秀な核兵器材料なのです。
   これまで日本は、原子力発電所で出来たプルトニウムをすでに48トンも懐に入れてしまって、それで長崎型の原爆をつくれば4000発もつくれるだけになっているのですけれども、今日までに懐に入れてた普通の原子力発電所の使用済み燃料から出てくるプルトニウムは、核分裂性のプルトニウムの割合が約7割しかなくて、優秀な原爆はつくれないという、日本の国から見れば、困った状態にあったわけです。
   それを突破する為には、何としても高速増殖炉を動かして、超優秀な核兵器材料を手に入れたいと、彼らは思っているはずだと思います。そのため彼らは再処理も諦めなければ、高速増殖炉も諦めないということになっているのです
谷 岡: エネルギー問題と言えなくなっているっていう感じがしますが、まず最初にお話したように、世界はすでに再生可能エネルギーに転換を進めているわけです。「もうドブに捨てている」というように小出さんがおっしゃったような莫大な維持費は、それこそ再生可能エネルギーの方に投資すべきだと思うんですが。このままでは日本は本当にエネルギー問題としては、世界に取り残されていってしまうのではないでしょうか?
小 出: はい。おっしゃる通りです。原子力の燃料であるウランというのは、残念ながらと言うか、この地球上には貧弱な量しか存在していませんので、いずれにしても原子力なんかにしがみついていても、これからの未来のエネルギー源にはならないのです
   化石燃料も少しずつ使用を減らさなければいけませんし、それを補うのはやはり再生可能エネルギーしかないのです。一刻も早く原子力の夢からさめて、再生可能エネルギー資源の効率的な利用、環境を破壊しないような利用の仕方という所に本当は進まなければいけないわけで、今のような日本の姿勢を続ける限り、世界の潮流から取り残されてしまうということになると私は思います
谷 岡: はい。なんか本当に戦争したい国に着々と歩みを進めているっていうことがもう残念でなりません。小出さん、どうもありがとうございました。
小 出: こちらこそ、ありがとうございました。