2016年1月30日土曜日

米国原子力艦について(小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは「米国原子力艦についてがテーマです。
 原子力空母原子力潜水艦には60万キロワットの原子炉が2基搭載されているので、寄港中に一旦過酷事故を起こせば、人口の密集地で突如大型原発1基が過酷事故を起こしたのと同じことになり、避難できない多くの住民は猛烈に被曝することになります。・・・
 
追記 文中の太字箇所は原文で行わているものです。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。
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米国原子力艦について
〜第160回小出裕章ジャーナル 2016年1月30日
 
「人口密集地帯に巨大な原子炉が存在してしまっているということになっているわけです。万が一事故でも起きればもう逃げることはできないと思った方がいいだろうと思います」
 
石丸次郎: 今日のテーマは、米軍の原子力艦の問題についてです。原子力艦、つまり原子力空母、あるいは原子力潜水艦が日本の港にたくさん寄港してますけれども、この避難の問題について、政府が改めて基準を変えようという取り組みを始めました。今日はこの問題について、小出さんにお話を伺っていきたいと思いますが、まずそもそもこの原子力艦は、当然その原子炉を積んで、動力として船を動かしてるわけですけれども。これは原子力発電所とはちょっと違う仕組みなんでしょうか?
小 出: 基本的には同じです。ウランを核分裂させて、その時に熱が出てくる、それを沸騰させて蒸気に変えて、それで一部発電に使うし一部をスクリューを回すための動力に使うという、そういう機械です。基本的には同じものです。
石 丸: なるほど。この原子力艦、これまで調べてみますと、ものすごくたくさん世界各地で事故を起こしております
小 出: そうです。
石 丸: この事故が起こった時の避難の基準を政府はまず原発と同じ、毎時5マイクロシーベルト超に引き下げることを11月に決めたと。それまでは100マイクロシーベルトだったんですけれども、この5マイクロシーベルトに引き下げるということはえらく遅かったと思うんですけど、なぜこういう二重基準が今まで存在してたんでしょうか?
小 出: それは避難基準ももちろんそうですけれども、それどころではないのです。例えば日本には、すでに58基もの原子力発電所が認可されて建設されてきたのですけれども、少なくともその日本の原子力発電所に関しては、法令の枠内で安全審査というのをやって、安全性を確認しない限りは動かしてはいけないという、そういうことになっていたのです。
    それでも安全審査というのがデタラメで、福島第一原子力発電所のような事故も起きてしまったわけですけれども。米軍の原子力艦船に関しては、全くないのです。二重基準どころか審査すらが初めからないという、そういう状態でここまできてしまったのです。
石 丸: なるほど。日本政府には、全くその審査をする権限も権利もなかったということですよねえ。
小 出: そうです。私はよく日本というこの国は米国の属国だと発言をしてきましたけれども、こと原子力に関する限りは非常に明確で、米軍のやることに一切文句を言えないという、そういう立場に日本の国があるのです。
石 丸: なるほど。この以前の毎時100マイクロシーベルトという数値というのは、やはりかなり異常な数値だと考えるべきなんでしょうか?
小 出: もちろん、そうですね。私はついこの間まで、京都大学原子炉実験所という所で働いていました。時々、管理区域という中にも入りました。普通の方は到底入れない場所なのですけれども、その場所で実験・研究をしている。ただし管理区域の中でも結構、放射線量が高い場所というのがあって、そこは立ち入りを制限するのですが、そこは1時間あたり20マイクロシーベルトを超えると、もう立ち入り制限ということでしたので。
石 丸: 専門家ですらということですよね?
小 出: そうです。私のようなごくごく特殊な人間が、仕事のために放射線管理区域に入る。でもその場所でも、もう入れないという場所をつくっているわけです。それをすでに、もう5倍を超えてしまってるという基準ですから、猛烈な被ばくの現場ということになってしまいます。
石 丸: なるほど。もうひとつ政府が検討しているのがですね、じゃあもし、もし何か事故が起こった場合の避難範囲、これを30キロに拡大しようかどうかという議論が進んでおります。これ横須賀の場合ですと東京の大田区であるとか千葉県の木更津市等も入ってきます。それから沖縄県うるま市の場合は、那覇の一部までが30キロ以内に入ってくると。こういう避難というのは、現実的にやっぱり可能なんでしょうかねえ。
小 出: 石丸さん、どう思われます? 
石 丸: いや、なかなか難しいんではないかと。特に大都市の場合ですと、すさまじいパニックが起こるんじゃないかという気がしますが。
小 出: 当然そうですよねえ。もうたくさんの方が住んでるわけですし、道路はもう渋滞してたぶん動けなくなるでしょうし、自主的な避難というのは、もうできないと思うしかないだろうと思います。
    横須賀は今、ロナルド・レーガンという航空母艦が母港にしてしまったのですが、そのロナルド・レーガンの中には原子炉が2つ搭載されていまして、熱出力という電気じゃないんですけども、熱出力で60万キロワットという原子炉が2基入っているのです。ですから熱出力で120万キロワットになるのです。これは事故を起こした福島第一原子力発電所の1号機にほぼ匹敵する大きさの原子炉。
石 丸: ものすごくデカイもんが入ってるっていうことですよね? 
小 出: そうですね。要するに本当の原子力発電所が横須賀にあるという、そういう状態になってしまっているわけです。何の安全の審査も受けていないという、そしてロナルド・レーガンの母港から横須賀の駅まで1.3キロしかないという、そんな人口密集地帯に巨大な原子炉が存在してしまっているということになっているわけです。万が一もし事故でも起きれば、もう逃げることはできないと思った方がいいだろうと思います。
石 丸: なるほど。小出さん、これまでの原子力船における事故をいろいろ調べてみたんですが、1960年代から旧ソ連、アメリカ、イギリス、フランスの原子力潜水艦等がものすごい数の事故を起こしてますねえ。
小 出: そうです、はい。
石 丸: これはやはり、船の動力として原子力を使うっていうのは、やっぱり相当やっぱり無理があったっていうことなんでしょうか?
小 出: 考えようだと思いますけれども、潜水艦というのは常時、海に潜っていることができるわけではないのですね。潜ることもできるというそういうものですぐに酸素が動力に、石油とかそういう物を使ってるわけで、酸素がすぐになくなってしまうので、潜ってるけれども、すぐにまた浮かび上がってくるという、それが、かつての潜水艦だったのですけれども、原子力潜水艦ができてからは、例えばノーチラス号が北極の氷の下を潜って潜り抜けるというようなことまでできるようになったわけで、ほんとの意味で、いわゆる潜水艦が初めて可能になったのです。
    ですから軍事的な意味として言えば、圧倒的にもう質の違う兵器ができたわけで、そういう兵器を維持するためには、少しぐらいの危険は我慢すべきだということで、原子力潜水艦がたくさん造られてきたわけです。しかし原子力空母なんていうのは、もともと原子力である必要は私はないだろうと思います。
石 丸: 兵器的に見てもですね。 
小 出: そうです。ですから巨大な危険を抱えながら、そんな空母を造るのであれば、普通の空母で十分燃料でも何でもどこででも補給できるわけですし、空気があるわけですから酸素の供給に困るわけでもないので、原子力空母というものは、私は馬鹿げていると思います。
    ただ原子力潜水艦は今聞いて頂いたように、大変重要な戦略的な意味を持ってるわけで、どんな危険があってもやはりやり続けるということにこれまでもなってきたし、これからもなるだろうと思います。ですから危険はもう承知の上と、無理はもちろんしているという、そういうことで今日まで来たし、これからもやるということになっているのです。
石 丸: なるほど。今日のお話のポイントなんですけれども先程も申し上げましたように、神奈川県横須賀、長崎県の佐世保、そして沖縄県のうるま市に非常に長い期間、1年を通して長い期間、米軍の原子力艦船が寄港していると。それは原発を抱え込んでるのと同じであるという考えを持たなきゃいけないということですね?
小 出: はい。
石 丸: もうちょっとお聞きしたいんですけども、今日は時間が来てしまいました。小出さん、どうもありがとうございます。
小 出: こちらこそ、ありがとうございました。