佐賀新聞が、地元の玄海原発1号機の廃炉計画が進められている中で、廃炉で先行している東海第2原発(茨城県東海村)を訪ね、廃炉の現状と課題を上・中・下の3回に分けて報じました。
東海第2原発は1号機のみで運転開始は1978年、形式は沸騰水型軽水炉(BWR)、メーカーはGE・日立、発電規模は110万KWです。
廃炉の所要期間は25年としていますが、外国の例に比べて短すぎると言われその通りに進むという保証はありません。そもそも玄海原発と同様、放射性廃棄物の処分場がまだ決まっていません。
佐賀新聞の記事を紹介します。
日本における廃炉の実例はまだわずかなので貴重な記事と言えます。
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廃炉の時代(上) 解体作業
佐賀新聞 2016年01月08日
■商用炉、未知の領域へ 一部撤去も原子炉未着手
商用炉として国内初の廃炉作業が、東海原発で進められている。隣接する東海第2原発には乾式貯蔵施設もある。九州電力は昨年12月、玄海原発1号機の廃炉計画を申請したが、実際の作業はどのように行われ、廃棄物はどうなるのか。現地(東海第2原発)を訪ね、課題を探った。
「海抜15メートル」。茨城県東海村の日本原子力発電(原電)東海原発そばにある高い壁に、青いラインが引かれていた。東日本大震災で福島第1原発に到着した津波の高さを示している。
壁は、隣接する東海第2原発の非常用ディーゼル発電機を津波から守るため2011年7月、建設された。「忘れてはならない教訓です」と原電担当者。震災直後、東海原発の解体作業は半年中断したが、既に再開されている。
解体は01年に始まり、25年に終わる計画で、費用は885億円。発電機やタービンなど、放射性物質の汚染がない主な機器は撤去され、その建屋は倉庫になっていた。現在は原子炉建屋内にある熱交換器の撤去を進めている。
原子炉建屋は角張ったコンクリート製。中には原子炉を囲むように4基の熱交換器がある。それぞれ直径6メートル、高さ25メートル、重さ約750トン。このうち1基は13年9月に撤去を終えた。建屋内には縦長の巨大な空間ができていた。
熱交換器は稼働時、内部で冷却材の炭酸ガスが循環し、放射性物質に汚染されている。「まだ放射線管理区域があるんです」。熱交換器があった空間は、一部シートで覆われていた。
1基目は、「この作業のため特注」された遠隔操作のロボットを使った。建屋に隣接する操作室で複数の画面を見ながら、厚さが7センチある鉄製の表面を輪切りにし、“だるま落とし”の要領で撤去した。
手作業も可能だったが、「原子炉を解体するためのノウハウを蓄積する必要があり、あえてロボットを使った」という。2基目は手作業で実施する方針だ。
廃炉の作業員は50~150人程度。原電社員自らフォークリフトなどの資格を取得し「多くの工程を直営で行っている」。多くの作業は既存の機械や設備を使い「その技術の組み合わせが大切になる」と話す。
商用炉では被災した福島第1の全6機と東海原発以外に、中部電力浜岡1、2号機(静岡県)が廃炉に着手。老朽化した九州電力玄海1号機(東松浦郡玄海町)など4原発5基の廃止が決まっている。原電担当者は「放射性廃棄物の管理や評価の手法は、玄海でも生かせる」と説明した。
ただ、東海原発は国内唯一の炭酸ガス冷却炉。玄海などの加圧水型軽水炉と、福島といった沸騰水型軽水炉に二分される国内の原発とは、型式が全く違う。東海のノウハウが、玄海でどの程度生かせるのかは不透明だ。
東海原発では、放射性廃棄物を撤去する装置の設計が遅れ、工期は当初から8年延びている。原子炉の解体は19年からの予定で、比較的汚染レベルが高い部分はこれからの作業だ。廃炉の時代を迎える中、商用炉の解体はいまだ、未知の領域を残している。
廃炉の時代(中) 放射性廃棄物
佐賀新聞 2016年01月09日
■敷地内埋設、地元理解進まず
廃炉作業が続く茨城県東海村の日本原子力発電(原電)東海原発から、北西に約700メートル。もともと防砂林だった場所は今、東海第2原発の防潮堤を建設するための作業領域として広場や道路が整備され、伐採した松が積まれていた。
「放射性廃棄物の埋設も視野に入れて、買い足した敷地です」と担当者。原電は昨年7月、この場所に廃炉で出る廃棄物の処分場を建設するため、国に埋設事業許可を申請した。原電自らが「廃棄事業者」となる形だ。
▽50年ほど管理
廃炉に伴う廃棄物は、放射能汚染レベルに合わせ5段階に分類される。このうち放射性廃棄物として扱うのは「L1」「L2」「L3」と呼ばれる3段階で、いずれも埋設処分することが決められている。
原電が申請したのは、このうち一番汚染レベルが低いL3の廃棄物処分場。L3には、熱交換器の金属類などがある。処分場から受ける放射線量の国の基準値は年0・01ミリシーベルト以下で、日常生活で受ける年間の自然放射線量2・1ミリシーベルトと比較しても小さい。
処分場の広さは80メートル×100メートルで、最大埋蔵能力は約1万6千トン。東海原発から出るすべてのL3廃棄物と、解体で使った機材などが埋設できる規模だ。
処分場では約4メートル掘った後、L3の廃棄物をコンクリートブロックにしたり、鉄製の箱に入れたりして埋め、さらに約2メートルの盛り土をする。周囲には地下水位を監視する設備を設置し、人が入らないようにフェンスで囲って「おおむね50年」管理することになる。
ただ、商用炉の敷地内で大量の放射性廃棄物を埋設した前例はない。処分場についての地元了解はまだ得られておらず、原電は「丁寧に理解を得ながら進めたい」と説明する。
さらにL3より汚染レベルが高いL1、L2の廃棄物は、まだ該当部分の解体に着手していないため廃棄物自体がないが、国は「300~400年」の管理を求めている。処分場のめどは立っておらず、「他の電力会社とも協力していきたい」と答えるにとどめた。
▽リサイクルも
一方、洗い流したり、表面を削ったりして放射性物質を取り除いた廃棄物は、L3の一段下の「クリアランス」に分類され、全体の20%を占める。一般の産業廃棄物と同じ扱いが可能で、敷地内のベンチや車両衝突防止ブロックなどにリサイクルされている。
しかし、これまでにリサイクルしたのは170トンで、クリアランス全体の0・4%にすぎず、住民の理解は進んでいない。リサイクル品がある場所も、敷地内やほかの原発など“身内”がほとんどで、一般の産業廃棄物と同じ処分場に廃棄した実績はない。
福島第1原発の事故後、「汚染がれき」の引き受けは全国で問題化し、放射線リスクに対する住民の目は厳しくなっている。「クリアランスは建屋のコンクリートが大半で、多くは廃炉の最終盤に出る。理解活動を続けるしかない」。原電担当者は、そう答えるのがやっとだった。
廃炉の時代(下) 乾式貯蔵
佐賀新聞 2016年01月11日
■一時保管の長期化懸念
建屋内はひんやりとしていて少し肌寒さを感じた。「空気が循環していますから」。茨城県東海村の日本原子力発電(原電)東海第2原発には、使用済み核燃料を一時的に保管する乾式貯蔵施設がある。
鉄筋コンクリートの建屋は、東西26メートル、南北54メートル、高さ21メートル。ミニバスケットボールのコート4面分の広さだ。中には高さ5・7メートル、直径が2・4メートルある円筒形の貯蔵容器「キャスク」が21基、整然と並んでいた。このうち15基に使用済み核燃料が入っている。
使用済み核燃料プールが満杯になるのを防ぐため2001年12月、整備した。「触ると熱を感じますよ」と担当者。キャスクに手を当てると、体温より少し温かい。中の燃料が発熱していることが分かる。
▽40年は健全
建屋の壁には上部に排気口、下部に吸気口がある。キャスクの熱で温まった空気が上部から逃げる自然な流れを利用し、キャスクを冷やしている。水を循環させる必要がないため、原発で一般的に使われているプールでの保管と比べ、危険性は低いとされる。
使用済み核燃料をプールで7年間冷やした後、キャスクに詰めてトレーラーで貯蔵施設に運ぶ。担当者は「長期保管が目的ではなく、あくまでプールと同じ位置付け」と強調した。保管期間に関する地元との取り決めもない。ただ、設計上「厳格にみても40年は健全性に問題はない」と話し、技術的にはさらに長期間保管しても安全との見方を示した。
青森県六ケ所村では再処理施設の稼働が遅れ、全国の原発から受け入れてきた使用済み核燃料の貯蔵施設はほぼ満杯になっている。電気事業連合会(電事連)は昨年11月、電力各社の貯蔵能力拡大を図る基本的な考え方を示し、中間貯蔵施設や乾式貯蔵施設の整備を進める姿勢を明確にした。
▽九電も整備検討
九州電力は、敷地内で乾式貯蔵施設の整備を検討している。玄海原発の使用済み核燃料プールは、容量3278体のうち2075体分が埋まり、このまま搬出せずに2~4号機が再稼働すれば、5年ほどで運転ができなくなるからだ。
一方、再処理後の「核のごみ」の行き場となる最終処分場は、まだ立地場所も決まっていない。この状況のまま「一時的な保管」として乾式貯蔵施設整備が進むことに疑問の声もある。
「比較的長期の保管ができるため、電力会社が使用済み核燃料を搬出する動機付けが薄れてしまう可能性がある」。震災時、原子力委員会委員長代理を務めていた長崎大学核兵器廃絶研究センター長の鈴木達治郎教授(原子力工学)は、最終処分場の議論がさらに遅れることを懸念する。
使用済み核燃料と廃炉に伴う廃棄物の処分場がない今、原発は「動かすことも、解体もできない」現実が、すぐそこに迫っている。福島第1原発事故を経験し、原子力政策は技術的な安全性だけでは立ちゆかない。先送りを続ければ、すべての原発のごみを、半永久的に原発立地に押しつけることになる。