高浜原発3・4号機について、大津地裁(山本善彦裁判長)は「住民の生命や財産が脅かされるおそれが高いのに、関西電力は安全性の確保について説明を尽くしていない」として運転の停止を命じる仮処分の決定を出しました。
決定では、原発の耐震性について「関西電力が原発の周辺で行った断層の調査は、周辺のすべてで徹底的に行われたわけではないうえ、地震の最大の揺れを評価する方法はサンプルが少なく科学的に異論のない方法と考えることはできない」とし、さらに「福島の原発事故を踏まえた事故対策や津波対策、避難計画についても疑問が残る」としました。
高浜3・4号機の再稼働禁止仮処分では、昨年4月に福井地裁(樋口英明裁判長)が再稼働を認めない決定をしましたが、同年12月に福井地裁の別の裁判長がこの決定を取り消したため、再稼働に至りました(4号機はトラブル発生のため未起動)。
なお、大津地裁には高浜原発の再稼働禁止の仮処分が住民から11年にも申し立てられましたが、大津地裁は14年11月、避難計画が未整備な点などを挙げて、「原子力規制委が早急に再稼働を容認するとは考えがたい」として却下していました。それはそれで再稼働は容易ではない、という意思が示されたものでした。
ところがその後規制委が再稼働に向けた審査をいわば拙速に進めたため、昨年1月に再び再稼働禁止の仮処分を申し立てていたものです。
これはとりもなおさず原発の再起動に対する最高裁の意思を示したものでしたが、それを承知の上で再稼働停止の決定を出した山本裁判長は、樋口元福井地裁裁判長と同様に、心中の葛藤に耐えた勇気ある裁判官でした。
二つの決定は異なりますが、大津地裁の決定が最新の決定なので関電はこれに従うことになります。極めて妥当な成り行きです。
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高浜原発3・4号機 運転停止命じる仮処分決定
NHK NEWS WEB 2016年3月9日
福井県にある高浜原子力発電所3号機と4号機について、大津地方裁判所は、「住民の生命や財産が脅かされるおそれが高いのに、関西電力は安全性の確保について説明を尽くしていない」として稼働中の原発に対して初めて、運転の停止を命じる仮処分の決定を出しました。関西電力は、異議を申し立てることにしていますが今回の決定によってすみやかに原子炉を止めなければならなくなりました。
福井県にある関西電力・高浜原発3号機と4号機について、滋賀県内の住民29人は、再稼働前の去年1月、運転の停止を求める仮処分を申し立てていました。これについて、大津地方裁判所の山本善彦裁判長は9日、3号機と4号機の運転の停止を命じる決定を出しました。
決定では「関西電力が原発の周辺で行った断層の調査は、周辺のすべてで徹底的に行われたわけではないうえ、地震の最大の揺れを評価する方法はサンプルが少なく科学的に異論のない方法と考えることはできない」と指摘しました。そのうえで、「福島の原発事故を踏まえた事故対策や津波対策、避難計画についても疑問が残る。住民の生命や財産が脅かされるおそれが高いにもかかわらず、関西電力は安全性の確保について説明を尽くしていない」として、3号機と4号機の運転の停止を命じる決定を出しました。
決定はさらに、「福島の事故の大きさに真摯(しんし)に向き合って同じような事故を防ぐためには、原因の究明を徹底的に行うことが不可欠だが、この点についての会社の説明は不十分だ。もし会社などが原因究明を重視しないという姿勢であれば非常に不安を覚える」と指摘しました。
関西電力は、9日の決定の取り消しを求めて異議を申し立てる方針ですが、仮処分は直ちに効力が生じるため、稼働中の3号機の原子炉を速やかに止めなければならなくなりました。稼働中の原発の運転の停止を命じる仮処分の決定は初めてです。
高浜原発は、ことし1月に3号機が、先月に4号機が、新しい規制基準のもとで再稼働しましたが、4号機では、再稼働の3日後の先月29日に原子炉が自動停止するトラブルが起きています。また、高浜原発3号機と4号機を巡っては、福井地方裁判所が去年4月、再稼働を認めない仮処分の決定をしましたが、去年12月に福井地裁の別の裁判長がこの決定を取り消し、再稼働を認める判断をしています。
原子力発電所を運転させないよう求める裁判所への申し立ては5年前の原発事故をきっかけに全国で相次いでいて、稼働中の原発にストップを命じた今回の決定は、各地の今後の審理に影響を与えることも予想されます。
関西電力 あす午後8時ごろ運転停止へ
関西電力は9日午後6時から大阪・北区の本店で記者会見を開きました。この中で会社側は、稼働中の3号機の原子炉について、10日午前10時ごろから停止作業に入り、午後8時ごろに停止させる方針を明らかにしました。
そのうえで、仮処分の決定は到底承認できないとして、運転の停止を命じる決定の取り消しを求めて裁判所に異議申し立てを行う方針を明らかにしました。
一方、関西電力は、先月、原発の再稼働にともなって、ことし5月から電気料金を値下げする方針を表明していましたが、9日の記者会見で会社側は仮処分の決定で5月からの値下げは困難になったという認識を示しました。
関西電力「承服できない 速やかに不服申し立てる」
仮処分の決定について関西電力はコメントを発表し「当社の主張を裁判所に理解いただけず極めて遺憾であると考え、到底承服できるものではない。この決定にしたがい、安全を最優先に運転中の高浜原発3号機を停止するが、今後速やかに不服申し立ての手続きを行い、早期に仮処分命令を取り消していただくよう、高浜原発3号機と4号機の安全性の主張と立証に全力を尽くす」としています。
官房長官「再稼働方針は不変」
菅官房長官は9日午後の記者会見で、「仮処分命令が出たことは承知しているが、詳細についてはまだ報告を聞いていない」と述べました。そのうえで、菅官房長官は、「高浜原子力発電所3号機と4号機は、独立した原子力規制委員会が、専門的見地から十分時間をかけて、世界最高水準と言われる新規制基準に適合すると判断をしたものであり、政府としては、その判断を尊重して、再稼働を進める方針に変わりはない」と述べました。
そして、菅官房長官は「国は本件の当事者ではなく、あくまでも仮の処分であることから、当事者である関西電力が今後の対応を決めると思うので、国としても注視していきたい」と述べました。
運転停止に複雑な反応
高浜原子力発電所3号機と4号機の運転停止を命じる仮処分の決定が出されたことについて、福井県高浜町の住民からは今後の影響を懸念する声が聞かれました。
このうち、60代の男性は「決定の内容をニュースで知りびっくりしたが、動いている原発を止めることは立地自治体の住民としては理解できない。今後、ほかの原発も運転が難しくなるのではないか」と話していました。また、60代の女性は「原発は危険だという意見も分かるが、高浜原発がようやく再稼働し地域が活性化に向けて動きだしたところだったので、複雑な気持ちだ」と話していました。
一方、20代の女性は、「きょうの決定を聞くと原発の安全性について心配に思うので、いったん運転を止めて調査を行い対策を取ったうえで、安全に再稼働してもらいたい」と話していました。
住民と弁護団が報告会「鳥肌立つほど感動」
今回の仮処分を申し立てていた滋賀県内の住民と弁護団は、大津市内で報告会を開きました。この中で、住民の代表の辻義則さん(69)は、「高浜原発3・4号機を運転してはならないという決定の主文を目にしたときは、鳥肌が立つほど感動した。裁判所が県民の願いに応えてくれた。3月11日を前にこのような決定を出していただき、裁判長の思いも伝わってきた」と述べました。
また、弁護団長を務める井戸謙一弁護士は「これまでの裁判では、国の基準を満たしてさえいれば原発は安全だと立証できた。電力会社にとってはその立証は簡単なことだったが、今回の決定では規制基準に合格したかどうかだけでなく、福島第一原発の事故を踏まえていかに具体的な安全策を取ってきたかが検討された」と指摘し、「冷静な判断を示した裁判所に深い敬意を表したい」と述べました。
高浜運転差し止め 「司法、勇気ある決断」原発に疑念示す
毎日新聞 2016年3月9日
「司法が勇気ある決断をしてくれた」。新規制基準に合格して再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転を差し止めた9日の大津地裁決定に、仮処分を申し立てた住民らは興奮に包まれた。東京電力福島第1原発事故から11日で5年。国民の拭えない不信感を代弁するかのように、決定は電力会社の説明や新規制基準への疑念を突きつけた。稼働中の原発の運転を禁止した初の仮処分決定に、関電や福井県の地元関係者からは戸惑いの声が聞かれた。
「止めたぞ」「やった」。午後3時半過ぎ、申立人代表の辻義則さん(69)=滋賀県長浜市=らが「画期的決定!」「いのちとびわ湖を守る運転差し止め決定!」などと書かれた垂れ幕を掲げると、大津地裁(大津市)前で待機していた申立人や支援者ら約100人から歓声が起きた。冷たい雨が降りしきる中、抱き合ったり、涙を流したりして喜んだ。
申立人の一人で原発事故後に福島県南相馬市から大津市に避難してきた青田勝彦さん(74)は「天にも昇る気持ち」。この日が誕生日の妻恵子さん(66)は「高浜原発の再稼働は、福島の人たちの苦しみを無視している。福島第1原発の事故が収束していない中では当然の決定だが、今日は(震災後の)5年間で一番うれしい日になった」と喜んだ。
住民らは関電に対し仮処分異議や執行停止の申し立てをしないよう求める声明を発表。原子力規制委に新規制基準の見直し着手、政府に原発ゼロ政策への転換を求めた。
住民らは午後5時半から大津市内で記者会見。辻さんは「『高浜3、4号機は運転してはならない』の文字が目に入り、鳥肌が立った。裁判長が今日決定を出したのは『3・11』から間もなく5年というタイミングを意識したんじゃないか」などと語った。別の申立人男性は「『避難計画は国家の責任』と言い切ってくれたことがうれしい」と話した。
弁護団長の井戸謙一弁護士は金沢地裁の判事だった2006年、北陸電力志賀原発2号機(石川県)の運転差し止め判決を出した。今回の決定について「関電に対し、福島の事故を踏まえて、原発の設計や運転がどのように強化され、どう要請に応えたのかを立証するよう求めている点が、従来と異なっている」と指摘。「『避難計画をも視野に入れた規制基準が望まれる』と、新基準にも疑問を呈している。決定を出すには大きなプレッシャーがあったはずで裁判官に深い敬意を表したい」とまとめた。【衛藤達生、村瀬優子】