毎日新聞 2016年3月6日
東京電力福島第1原発事故の避難者らが東電や国を相手取り慰謝料など損害賠償を求める集団訴訟が、18都道府県の20地裁・支部で31件あることが、全国の弁護団への取材で分かった。原告総数は1万2539人で、請求総額は少なくとも1132億円に上る。今後も、裁判外での和解が成立せず訴訟に発展するケースが出てくるとみられる。
地裁別の原告数は福島地裁(2支部含め9件)の7826人が最多で、東京(5件)1535人▽新潟(1件)807人▽山形(同)742人▽札幌(同)256人▽大阪(同)240人−−と続く。99%(約1万2360人)は事故当時、福島県にいた住民だ。避難指示区域からの強制避難者は約3000人、自主避難者らは約9500人で、多くの訴訟で両者が混在している。慰謝料請求は1人1000万円以上のケースが多い。
強制避難者は、不動産などへの賠償や1人月10万円の精神的賠償を東電から受け取ったが「古里や地域コミュニティーを失ったことへの賠償が考慮されていない」などと主張。自主避難者らは、東電からの賠償が1人最大72万円に過ぎないことから「低線量被ばくによる健康被害への不安があり、避難には合理的理由がある」などと訴える。
帰還困難区域の福島県浪江町津島地区の242人は、地区の空間放射線量を事故前に戻すよう要求(福島地裁郡山支部)。同県南相馬市の808人は、局所的に線量が高い特定避難勧奨地点の指定を国が解除したことについて「まだ安全とは言えない」と取り消しを求める(東京地裁)。
原子力損害賠償法は、過失の有無を問わず電力会社が損害を賠償すると定めるが、27件の訴訟で東電に過失があることを明確にするよう求めているのも特徴だ。うち25件は東電への国の指導・監督責任も追及する。原告らは「東電や国の責任があいまいなままでは再び同様の事故が起きかねない」と主張する。
全国公害弁護団連絡会議によると、原告数が1万人を超えたのは、2011年に米空軍嘉手納基地(沖縄県)の周辺住民約2万2000人が国に騒音被害を訴えた訴訟があるが、提訴先は那覇地裁沖縄支部のみだった。全国規模の集団訴訟では、整腸剤キノホルムによる薬害スモン患者が1971年以降、国と製薬会社に損害賠償を求め33地裁に提訴し、79年に国・製薬会社と和解確認書に調印した。厚生労働省によると、和解した原告は約6500人だった。【土江洋範】