関電高浜原発3・4号機の運転差し止めを命じた大津地裁の仮処分決定に関して、申立人の弁護団長の井戸謙一弁護士に京都新聞社がインタビューしました、
井戸氏は元裁判官で2006年に金沢地裁の裁判長として北陸電力志賀原発の運転差し止め判決を言い渡しています。
一問一答では、決定のポイントが明快に語られているほか、裁判官の立場への井戸氏の思いが伝わります。
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高浜原発差し止め「被災者に希望」 弁護団長語る
京都新聞 2016年3月12日
-決定のポイントは何か。
「原発の新規制基準について、避難計画を審査対象にすべきと明確に言った。これが一番インパクトがある。少なくともこの点で新基準は不合理だとみている。ただ、一電力会社が避難計画の実効性を証明することは不可能だ。やはり原子力規制委員会が検証すべきだが、国は新基準を変えようとしない」
-決定は「3・11」直前だった。
「意識したはずだ。これだけ関心を持たれる事件では、裁判官としては推敲(すいこう)する時間が欲しいものだが、あえて短期間で決定文を完成させた。裁判官は世論も気になるものだ。被災者は、いまだに苦労しているのになぜ原発を動かすのか、と強い抵抗感を持っている。裁判長は被災者に希望を持って震災5年を迎えてほしいと考えたと信じたい」
-今回の判断枠組みは今後にどう影響するか。
「安全規制が具体的にどのように強化され、どう応じてきたか説明せよと、関電に強く立証責任を求めた。これまでは事実上、原告側が原発の危険性を立証するよう強いられていた。3・11を経て、今回の立証責任論の立て方は全国の裁判官に少なからず影響を与えるだろう」
-関電は審尋中、幾度も立証を求められた。
「主張がかみ合わず、裁判長は関電に説明を繰り返し求めていた。それに対し関電は十分応えなかった。裁判所が分かるように当事者が説明しなければ、当然負ける」
-ご自身も志賀原発の運転差し止め判決を書いた。
「相当なプレッシャーがあった。結論は決まっていても論理立てた判決を書けるのか、予想される批判にも堂々と自信を持っていられるか、不安だった。夜中に汗びっしょりで目が覚めることもあった」
-今回も裁判官への重圧は大きかったのではないか。
「世間を納得させられるか、不安はあったはずだ。関電が被る損害は目に見えていた。経営が危うくなることもあり得る。逆に申し立てを却下し事故が起きても後悔するだろう。社会的責任を全て引き受ける覚悟がいる」
-国の原発再稼働路線に反する決定でもある。
「割り切れるかどうかだ。裁判官の世界で無難に生きようとすれば却下しただろう。それがこれまでの体制だった。山本裁判長は正しいと思う決定を出し、批判を含め反響も織り込み済みだろう。司法の独立への圧力は許されない」
-今後の見通しは。
「関電は異議を申し立て、大量の主張書面を出してくるだろう。説明を尽くせるかが焦点だ。異議審は別の裁判官が担当するため証拠の捉え方は同じではない。係争中の本訴訟は山本裁判長で、住民側としてはなるべく早く結審させたい」