2016年3月16日水曜日

最高裁は「選り抜きの裁判官」を福井地裁に送り込み樋口決定を取消した

 LITERAが、福井地裁の元裁判長樋口英明氏が下した高浜原発3、4号機の再稼働差し止め仮処分決定を、最高裁が如何にして葬り去ろうとしたかを明らかにしました。
 判事たちの人事は最高裁の事務総局というところで決められるのですが、樋口英明氏は仮処分を決定した後 家裁に異動させられました。通常あの年代の判事は次の異動では高裁の判事になるのだそうですが、家裁という2度と原発稼働の審査などが行えないところに移されたのは、懲罰のための追放人事であり、明白左遷でした。
 
 そしてそのあとに福井地裁に赴任して、樋口決定の異議審で昨年12その決定を取り消した林潤裁判長は、初任明けに最高裁事務総局に赴任したという、同期106人6人しかいないというエリート群の一人でした。なお初任地は東京地裁でこれも司法試験の合格順位がトップクラスであったことの反映です。
 さらに、林裁判長と一緒に高浜原発再稼働を認めた左右陪席の2人の裁判官林裁判長と同様に最高裁判所事務局での勤務経験があるエリート裁判官でした
 そうした陣容をそれほど枢要な地裁とは思われない福井地裁に配置したのは、水も漏らさぬ堅陣を築いて、樋口元裁判長の再稼働取り消し仮処分を覆させるためでした。
 エリートを自認している彼ら3人が最高裁の意図を理解しない筈もなく、最高裁の意図は勿論達成されました。この判事の「送り込み人事」による判決・決定の修正こそは、気に入らない判決を修正するために、これまでも最高裁が常用してきた手段でした。
 
 彼らが異議審で作成した決定文は実に225ページにわたる長大なもので、基準地震動についてだけでも45ページを費やしています。しかしいくら体制側の法律家として優秀であったとしても、別に科学者ではないので、単に国=関電側の言い分を鵜呑みにしてそれを長々と引用したに過ぎないであろうことは容易に想像できます。
 そして事故防止策については、IAEAの第4層の事故進展の防止対策までが完璧なので、第4層のシビアアクシデントの影響緩和策は必要ない(中西正之氏コメントによるご指摘)という、結局は福島事故以前の安全神話に立ち戻ったものでした。
 
 最高レベル?の法律家たちが知恵を絞った結果が、そのまま、なりふり構わない原発推進派の言い分に一致したということです。これこそは原発の稼働を認めるためには、どうしても原発「安全神話」に立ち戻るしかないということを、(最高裁自身が)証明したことに他なりません。
 とても樋口英明・元福井地裁裁判長と山本善彦・大津地裁裁判長が簡明且つ明晰に示した「叡智」には及ぶべくもありません。
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裁判所は原発ムラの代理人だ! 高浜原発再稼働のために
最高裁が“選り抜き裁判官”を福井地裁に送り込んでいた
LITERA 2016年3月15日
 福島第一原発事故から5年。事故当時の東京電力の幹部、勝俣恒久会長、武藤栄副社長、武黒一郎副社長の3人の刑事責任がようやく問われることになった。
 といっても、検察が起訴したわけではない。検察はこの3人について2度に渡り不起訴処分という信じがたい決定を下したが、それに対し検察審査会が2度とも「起訴すべき」との議決をした結果、強制起訴になったのだ。
 今後は裁判で審理されるが、彼らが刑事罰を受けることになるかというと、残念ながらその確率は低いだろう。本サイトでも何度も指摘したように、政府と原子力ムラと裁判所の間には明らかな“癒着”があるからだ。
 
 それは、この間の高浜原発に関する裁判所の対応を見れば明らかだ。高浜原発については、3月1日、大津地裁(山本善彦裁判長)が3、4号機の運転差し止めの仮処分を命じる決定を下した。3号機は今年1月29日から、そして4号機は2月26日から再稼働していたが、運転中の原発が裁判所命令で停止したのは史上初めてのことだ。
 だが、高浜原発に関しては、これまで裁判所によって再稼働差し止めと容認が繰り返されてきた。まず、昨年4月14日に福井地裁が高浜原発再稼働差し止めの仮処分を決定した。この際、樋口英明裁判長(当時)は想定を超える地震が各地で起こっていることを挙げて、原子力規制委員会の新基準が「合理性を欠く」と政府の原発政策の根本に異を唱えている。
 
 ところが、その画期的な判決を下した樋口裁判長は、その後名古屋家裁に“左遷”されてしまう。これは懲罰人事であり、今後原発訴訟に関わらせないための追放人事でもあることは明白だった。
 そして、樋口裁判長の後任として福井地裁に赴任してきたのが林潤裁判長だった。林裁判長は昨年12月24日に高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを覆し、事実上、再稼働を決定。さらに、林裁判長は大飯原発についても周辺住民らが求めていた再稼働差し止めの仮処分の申し立てを却下する決定をした。
 
 この林裁判長の人事について、今週発売の「週刊現代」(講談社)3月26日・4月2日合併号が露骨すぎる政治的背景を暴露している。
 問題は林裁判長の経歴だ。1997年に任官した林裁判長は最初の赴任地が東京地裁で、2年後に最高裁判所事務総局民事局に異動。その後も宮崎地裁勤務以外、東京・大阪・福岡と都市圏の高裁と地裁の裁判官を歴任している。
「現代」では明治大学政治経済学部の西川伸一教授がその経歴についてこんなコメントをしている。
「任官して初の赴任地が東京地裁という点で、人事権を握っている事務総局から、目をかけてもらっていることが窺えます。その上、初任明けと呼ばれる2ヶ所目の赴任地が事務総局。これは、林裁判官の同期108人の中でも6名しかいません。実際、任官から18年で部総括判事の役職に就くのもかなり早い出世です」
 
 この最高裁事務総局というのは、裁判所の管理、運営、人事を仕切る部署で、将来は最高裁判官を狙えるようなエリートが集まるところだという。林裁判長は人事権を握る事務総局から目をかけられ、将来を約束された最高裁長官さえ狙えるようなエリートだったのだ。
 いや、林裁判長だけではない。昨年12月、林裁判長と一緒に高浜原発再稼働を認めた左右陪席の2人の裁判官、中村修輔裁判官と山口敦士裁判官もまた最高裁判所事務局での勤務経験があるエリート裁判官だった。
 中村裁判官は一度も遠隔地赴任がなく、東京、横浜、大阪で過ごし、事務総局総務局付で国会対策などを担当したエリート。
 また山口裁判官も大阪高裁や出向で外務省の花形ポジションである国連日本代表部2等書記官の肩書きを持っていたという。
 
 そんなエリート裁判官たちが高浜原発のある福井に赴任し、原発政策に関わる決定に関与した。これは異例のことだ。「現代」では元裁判官の弁護士がこうコメントしている。
本来、福井地裁は名古屋高裁内でも比較的ヒマな裁判所で、アブラの乗った裁判官が来るところではない。しかも、この3人は東京や大阪など、他の高裁管内からの異動で、この人事には、各裁判所の人事権を握る最高裁の意向が反映されていると見るべきです」
 ようするに、政府や電力会社に都合が悪い決定を下した裁判官を左遷し、代わりに最高裁がお墨付き与えたエリート裁判官たちを原発再稼働容認のために送り込んだのだ。
 
 こうした最高裁による露骨な原発推進人事という“意思”の背景にはもちろん、政府の意向がある。前出の元裁判官の現役弁護士はこう語っている。
「いくら独立が保障されているとはいえ、裁判所も上層部へ行けばいくほど政権との接触は増えるため、考え方が政権の意向に沿ったものになる。彼ら3名を含め、事務総局に勤務経験のある裁判官は、そうした阿吽の呼吸を最もよく心得た人々なのです」
 
 いや、政府だけではない。本サイトでも以前、指摘したように、裁判所は電力会社や原子力産業とも直接癒着している。これまで数多くの電力会社と住民との訴訟において、電力会社に有利な決定を下した裁判官や司法関係者が原発企業に天下りするなど、原発利権にどっぷりと浸かっているのだ。
 こうして見れば、原発事故当時の東電幹部たちが公正な裁きを受けることなど、到底期待できないことが分かるだろう。同時に現在“かろうじて”停止している高浜原発に対しても、3月14日、関西電力は仮処分に対し異議と執行停止を求めて大津地裁に申立てた。これで三たび、高浜原発再稼働に関する審議が行われることになるが、予断は許さない状況だ。またぞろ政権の“意向”を受けた裁判所人事が行われ、もしかしたら今回の停止決定を下した山本裁判長が“左遷”されたり審議から外され、別のエリート裁判官が送り込まれる可能性もある。
 国民の生命の安全を無視して原発再稼働政策を押し進める安倍政権と、それを後押しする法務省、裁判所に対して、より一層の監視とチェックが必要だ。 (伊勢崎馨)