福島原発事故から間もなく5年になる1日、世界平和アピール七人委員会は、「フクシマの教訓を忘れたのか!」とする声明を発表しました。
声明は、まず福島原発の事故処理は日本が抱える最優先課題だが、毎日7000人が作業しているにもかかわらず事故の収束にはほど遠い状況にあるとしています。
そうした中で原子力規制委は、原発の再稼働に向けて次々と合格サインを出し、特に運転期間を60年に延長しようとする関西電力高浜1、2号機についても、経年劣化が進む老朽原発を60年間運転できると判断した技術的根拠が示さないまま、認める方向であるとして、政府と電力会社が3・11以前の無責任な安全神話思考に完全に戻っていると指摘しました。
そして、ウクライナ政府が、チェルノブイリ事故後、年間被曝量1mSv以上の地域は移住権利ゾーンであり、0.5 mSv以上の地域は放射能管理強化ゾーンだと法律で決めたことを例示しつつ、福島では今も避難生活を強いられている10万もの人びとに対して、「年間20 mSv」以下であれば健康に問題がないから帰還せよという日本政府の理不尽な姿勢を厳しく批判しています。
声明は、日本が進めるべきは原発ではなくて、再生可能な自然エネルギー(発電)であるとし、このまま「フクシマ」の教訓を風化させ、政府と企業の暴走を許すのであれば、日本中の私たち皆にも責任があることになると結んでいます。
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「フクシマ」の教訓を忘れたのか!
2016年3月1日
世界平和アピール七人委員会
(武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野
小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫)
東京電力福島第一原発の爆発から5年になるが、融け落ちた炉心の核燃料の状況を含めて事故の全貌は未だ把握できず、高レベルの放射能汚染も手がつけられない状態が続いている。巨額の税金を投じている除染の効果も、350億円の税金を投じた地下水処理の凍土遮水壁の有効性の見通しもあいまいである。高濃度の汚染水貯蔵タンクは1106基(2016年2月現在)あり、さらに増え続ける。2号機からの放射能漏れや、甲状腺ガンの疑いなども相次いでいる。原発関連死は2000人を超えて直接死を上回り、毎年多くの自殺者が相次いでいる。福島第一原発の処理は日本の原発が抱える最優先課題だが、問題は山積していて、毎日7000人が作業しているにもかかわらず、事故の収束にはほど遠い。
福島第二原発については、運転の可能性が全くないにもかかわらず、廃炉すら決定していない。
東京電力は、炉心溶融と直ちに判定できる基準があったことを、外部からの求めに応じて調査するまでの5年間、気が付かなかったと公表した。これは、隠ぺいしてきたのか、それとも無能で無責任な集団だったのか、どちらにせよ原発のような重大な潜在的危険性のある施設を運転する能力と資格に欠けていることを示している。
このような状況の下で、原子力規制委員会は、停止状態にある各地の原発の再稼働に向けて、限定された技術的項目についての審査を進め、次々と合格サインを出している。特に、運転期間40年の原則を超えて60年間運転を継続しようとする関西電力高浜1、2号機について、2月24日に規制基準を満たすとする審査書案を了承し公開した。しかしこの審査書案では、経年劣化が進む老朽原発を60年間運転できると判断した技術的根拠が示されていない。またすでに3、4号機の再稼働が行われているなかで、合計4基の稼働を事実上了承したことは、福島第1原発で過密であったために事故が拡大した教訓を全く学んでいないことを示している。安倍晋三首相は、規制委員会の審査項目以外にも重要な問題点が多々あるにもかかわらず、再稼働に対して十分な判断を得たと強弁して、原発推進を続けている。さらに同様の説明の下で、海外への原発輸出も積極化させている。これでは、政府と電力会社が3・11以前の無責任な安全神話思考に完全に戻っていることになる。
福島では、10万もの人びとがふるさとを追われたまま5年後の今も避難生活を強いられている。ウクライナ政府が、チェルノブイリ事故後、年間被曝量1mSv(ミリシーベルト)以上の地域は移住権利ゾーンであり、0.5 mSv以上の地域は放射能管理強化ゾーンだと法律で決めたのに、日本政府は「年間20 mSv」という高い「基準」に緩めて、健康に問題がないから帰還せよという。住民はこの数字を俄かには信じられず、不安が募る。地域の復興がなければ戻っても孤独を強いられるだけだ。首都圏や他府県からの差別といった苦渋の日々もある。福島県民が使用しているのは東北電力だから、使っていない東京電力による放射能汚染は理不尽の一言に尽きる。まるで戦争に巻き込まれて、戦闘は終わっても戦争の被害は終わらない事態が続いているのと酷似している。
「生業を戻してほしい。」どの職種の人であっても、避難者たちの思いはこの点で一致している。とりわけ農業は土と生きるから深刻である。放射能汚染にまみれた田畑の表土を剥す除染が随所で行われている。だが表土こそいのちの農業にとって、これは人生を否定されたことに等しい。
こうした事態のなかでの再稼働推進を、被災者たちは「私たちを切り捨てるのと同じだ」と語気を強めて反発する。5年前の震災以降すべての原発が停止し、世界的に石油価格の高騰が続いた中でも、電力は足りて余裕があった。原発再稼働は目先の経済優先が目的であって、電力供給においては不要なことが明らかだ。放射能の恐怖と凄まじい混乱を経験し、見聞した日本は、再稼働を進める状況にはない。
再生可能な自然エネルギーは、放射能と無関係で、脱炭素社会にも貢献する。自然エネルギー先進諸外国(とくにドイツ、中国、米国)の動向を見れば、経済性の改善も進み、利用が広がっている。日本でも、破たんが明らかな原子力優先をやめて、自然エネルギー研究開発利用を促進しないと、格差は広がる一方で、これからのエネルギー問題で世界に伍していくことはできない。
何が本当で何が嘘だったかは、歴史が明らかにするだろう。「フクシマ」の教訓を風化させ、政府と企業の暴走を許すのであれば、日本中の私たち皆にも責任があることになる。