(社説) 原発新基準3年 審査に「緩み」はないか
岩手日報 2016年7月29日
原発の新規制基準施行から3年が経過した。原子力規制委員会が策定したこの基準が再稼働への関門となり、安全に向けて一定の成果を上げている。
しかし、基準適合の審査をめぐって、ふに落ちない点もある。その一つは、運転期間が40年を超える老朽原発の「延命」だ。
関西電力高浜1、2号機(福井県)が今年、運転延長を認められた。防火性が不十分なケーブルの対策が審査の焦点となったが、防火シートで包むなどする措置を認め、合格を出した。
とはいえ、原子炉等規制法が定める「40年ルール」の下で延長は特例のはずだ。だが、安全対策に多額の資金を投じれば合格証が与えられることが示された。ルールと基準のどちらが優先されるべきなのか。
老朽化原発の延長が相次ぐなら、審査が「お墨付き」を与える手続きのようになってしまう。ルールを形骸化させてはなるまい。規制委の決然とした姿勢を求めたい。
審査の手法をめぐる新たな問題も起きた。関電大飯原発(同)の基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)の算出だ。前規制委員長代理の島崎邦彦東京大名誉教授が「基準地震動が過小評価されている可能性がある」と計算式の不備を指摘した。別の計算式だと数値が上がるという。
これを受けて規制庁が再計算を行い、問題なしとした。しかしそれは、無理な仮定を重ねて計算した数値だったことが判明した。
規制委は27日、「見直しは不要」との判断をあらためて示したが、耐震性は本当に大丈夫なのだろうか。審査に対する信頼性を揺るがしかねない一件だ。
審査の厳格さを問うのは、規制委による「合格」が、再稼働の「錦の御旗」になっているからだ。
「合格しても、絶対的な安全ということではない」という趣旨の発言を田中俊一委員長は繰り返している。それなのに、政府は「基準適合と認めた原発については再稼働を進めていく」と規制委任せの姿勢を取り続けている。
政府がこのような姿勢である限り、安全面において規制委の判断が生命線だ。原発が過酷事故を起こせば、その被害は他の比ではない。だからこそ、東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえた新基準が策定された。
従来の基準では不十分だった地震や津波の対策を強化。特に活断層については認定基準を明示し、厳しい姿勢を見せている。
規制委は科学的根拠を頼りに厳正審査するのが役目だ。最新の知見を反映させ、緩みない審査を行うよう望む。