愛媛新聞が、今回の大飯原発の基準地震動の再検討問題を巡る規制委の対応に対して、大いなる懸念を示す社説を掲げました。
今回の対応で明らかになったことは、規制委は基準地震動の算定についての見識を持っていないということで、いたずらに入倉・三宅式にこだわって、武村式の適用などについては、まだ地震学会の定説になっていないから採用できないというものでした。しかし地震という複雑な要素をもつ現象について、その基準地震動の算出式を学会が定めるなどということは所詮無理な話です。
要するに規制委の主張は、地震学会の定説が得られるまでは、(島崎氏の検証で)「不確かさが証明された入倉・三宅式にこだわり続ける」というものなので、それでは島崎氏の提言を黙殺するに等しいことであると同紙は述べています。
そして本来規制委には「独立した意思決定」を行うことが要請されていたのに、現実のあり方は「安倍政権への迎合」とさえ映ると酷評しました。
そして本来規制委には「独立した意思決定」を行うことが要請されていたのに、現実のあり方は「安倍政権への迎合」とさえ映ると酷評しました。
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(社説)原発の新たな知見 積極的な検証が規制委の責務だ
愛媛新聞 2016年7月28日
原発の耐震設計の目安となる基準地震動を巡り、過小評価の可能性が指摘されている。地震などの災害対策で新たな科学的知見が得られた場合には、原発の新規制基準に反映させるのが原子力規制委員会の責務であるはず。その知見がまだ定まったものではないとしても、慎重に検討するのが当然だろう。
指摘したのは、規制委の委員長代理を務めた島崎邦彦氏。想定する活断層の種類により、関西電力大飯原発(福井県)などでは一般的な計算式だと揺れが小さくなるとして、別の計算式が妥当と訴える。が、規制委の田中俊一委員長は大飯原発の基準地震動を見直さないと明言した。消極的な姿勢を危惧する。
規制委は、島崎氏の指摘を受け事務方に再計算を指示してはいた。結果は新基準適合審査で了承済みの数値を下回ったが、後に再計算の手法に問題があったことが判明し、田中委員長が「判断根拠にならない」と言及する事態に。ならばやり直すのが筋なのに、「知見が固まっておらず、現段階で(別手法に)乗り換える必要はない」と幕引きを図った。「黙殺」にも等しい対応に猛省を促したい。
大飯原発の基準地震動の審査は、島崎氏が在任中に指揮を執った。自ら誤りを認めて見直しを訴える意味は大きい。今回の指摘は、4月の熊本地震で観測した断層のずれが、一般的な計算式で説明できなかったのがきっかけだ。震度7の激しい揺れを2度観測するなど前例のない地震だけに、規制委はもちろん原発事業者も新たな知見の検証に後ろ向きでいてはなるまい。
四国電力は伊方原発3号機を来月中旬以降に再稼働させる方針を示している。愛媛新聞が参院選期間中に実施した県民世論調査では、再稼働に否定的な回答が54%を占め、肯定的な37%を上回った。県民の不安を真摯に受け止めるよう強く求める。
規制委の原点が、東京電力福島第1原発事故にあるのは言うまでもない。一つの行政組織が原発推進と規制の両方を担った反省に立ち、規制側の原子力安全・保安院を推進側の経済産業省から分離するなどして発足した。活動原則にある「何ものにもとらわれない独立した意思決定」こそが出発点なのだと、改めて肝に銘じるべきだ。
国民の信頼が揺らいでいる現状を憂慮する。島崎氏に代わって規制委に加わった田中知氏は原子力学会会長などを務め、電力団体から報酬を受けていた。さらに、老朽原発の運転延長に前向きな田中委員長発言も記憶に新しい。原発の運転期間を定めた「原則40年ルール」を形骸化させかねず、依存度の低減を掲げながら温存を進める安倍政権への迎合とさえ映る。
信頼を取り戻すには独立性と専門性を高めるしかない。基準地震動の評価だけではなく、あらゆる業務に通じよう。新たな知見に向き合い、「想定外」をなくすよう努めてもらいたい。福島の事故の教訓でもある。