今回は 【迫る伊方再稼働】シリーズの「(4)資産と会計 『特別な配慮』透明化を」です。
本家のアメリカが、1970年代に「原発は安い(そしてクリーンで安全)」という神話が破綻して脱原発に向かったのに対して、日本ではあらゆるコストを電気料金に上乗せできる『総括原価方式』を取っていたために、福島の事故を起こすまで「原発は発電コストが安い」と信じられてきました。
しかし事故を経て、いよいよ原発の廃炉が現実の問題になってくると莫大な費用を要するために、事故を起こさなくても廃炉自体で債務超過に陥る電力も出かねなくなりました。そこで国はそうならないように、廃炉を決めた設備や核燃料の一部は資産とみなして、損失を一括計上せず、10年の分割処理を可能にしました。10年に分割することでそれに要する費用を『総括原価方式』で回収できるようにしました。
つまり電力会社の負担から国民の負担に転換させる「会計ルール違反」を行ったわけで、これはつい2年ほど前に公然と行われた『原子力ムラ』の利益保存のための処置でした。
福島事故を経ても、官民一体となった『原子力ムラ』の利益追求の構造は何も変わっていません。
高知新聞が大島堅一・立命館大教授にインタビューした「企業経営の視点でみた原発」も併せて紹介します。
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【迫る伊方再稼働】(4)資産と会計 「特別な配慮」透明化を
高知新聞 2016年6月30日
全国50基の原発を2012年度に廃炉にすると決めた場合、電力会社10社で総額4兆4千億円の損失が出る―。
東京電力福島第1原発の事故から1年余り後の2012年6月、経済産業省のそんな試算が明らかになり、経済界に衝撃を与えたことがある。電力10社のうち北海道電力、東北電力、東京電力、日本原子力発電の4社が債務超過に陥る、との内容だったからだ。
原発の設備や核燃料は会計上、電力会社にとって大きな「資産」だ。資産を失い、補填ができないと、経営は悪化する。
火力、水力、太陽光、原子力。こうした電源の中で、原発は発電コストが安く、優位とされてきた。四国電力も伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働に際し、同様の説明をしている。
原発のコスト問題に詳しい立命館大学の大島堅一教授(環境経済学)はこう解説する。
「短期的に燃料費だけをみれば発電コストは安い。一方で建設費は大きいので、投資が終わっている以上は使わないと大損してしまう」
四国電力の佐伯勇人社長も6月28日の記者会見で「今ある資産を有効活用するのが経営の考え方。(廃炉を決めた)1号機もできれば使いたかった」と述べた。
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四国電力の経営上、伊方原発はどんな位置付けになっているのか。決算書をひもといてみた。
2015年3月期の貸借対照表によって資産価値を見ると、「原子力発電設備」は1075億円に達する。水力や火力の発電設備よりはるかに大きい。「核燃料」も1414億円という巨額資産だ。
四国電力は3号機を再稼働させれば、収支が年間約250億円改善すると見込んでいる。
逆に、2015年3月期に3基全てを廃炉にすると仮定したらどうなるか。
単純計算すると、原発設備の資産価値はゼロ、転売できない核燃料(四国電力によると576億円)も価値が無くなる。廃炉に備えた引当金の不足分約400億円も必要。そうした結果、「純資産」は700億円余りにまで減り、経営は大幅に悪化する。
原発に関する他の資産なども考慮すれば、全基廃炉で四国電力は債務超過になりかねないとの試算もある。
ただ、実際には債務超過にならないよう電力会社向けに特別の“原発会計制度”が存在する。この制度は福島原発事故以降、「廃炉を円滑に進めるため」として、経産省主導で変更を重ねてきた。例えば、廃炉を決めた設備や核燃料の一部は資産とみなして、損失を一括計上せず、10年の分割処理が可能になった。
「ただし」と言うのは立命館大学の金森絵里教授(会計学)だ。
電力会社には、あらゆるコストを電気料金に上乗せできる「総括原価方式」がある。損失を将来に先送りする「10年分割」を採用すれば、それによって生じるコストはこの方式で回収できる。
金森教授は「コストの負担者が電力会社から国民に変わっている。会計ルール違反です。会計基準は中立であるべきなのに、政治の中にある」と手厳しい。
「廃炉を進める制度を構えるのは良いけど、いくらの費用が国民に転嫁されたか透明性のある制度設計にすべきです。複雑で不透明性を増す制度変更によって(電力業界を)支援するのは、原子力ムラの体質とも言えるでしょう。これでは電力自由化は成功しない。電力会社と国民の間の信頼も損なわれます」
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事故リスクと経営規模の視点から、大島教授はこうも問いかける。
「東京電力だったから福島の事故直後に数兆円を用意できた。四国電力は事故収束費用を用意できるのか。『事故を起こさない』と言うのは幸運を願っているだけ。リスクを負えないのに利益を欲しがるのは、資本主義ではありません」
大島教授のこの質問を四国電力に伝えると、広報担当者から回答が届いた。
「事故収束費用は状況によって全く異なることから試算していない。当社の経営規模を超える費用の発生も考えられるが、そうした事態を絶対に起こさないよう多重安全対策を実施しており、引き続き安全性向上へ不断の努力を重ねていく」
企業経営の視点でみた原発 大島堅一・立命館大教授に聞く
高知新聞 2016年6月30日
■体力あるうち転換を■
原発を企業経営の視点でどうみるか。四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の再稼働が迫る中、立命館大学の大島堅一教授(環境経済学)に聞いた。
―東京電力福島第1原発事故後も依然、四国電力など電力会社は原発に固執している。
「使用済み核燃料の処理費用が分からないこともあり、短期的に燃料費だけを見れば発電コストは安い。建設費は大きいので、投資が終わっている以上は使わないと大損してしまう。追加的な安全対策費用の回収との比較で、伊方原発の3号機のように(運転期間40年ルールに対する)残存期間が長いと運転したくなるだろう」
―中長期的に考えても経営は原発依存に?
「運転差し止めの訴訟リスクがあるし、事故やトラブルもつきもの。止まると打撃は大きい。ただ、今の仕組みでは、事故後の電力会社の費用負担は限定的で済む。他の産業公害みたいに全部払うとなれば、『原発を動かす』と単純に言えないはずだ。今の電力会社はコストは払えないけど、利益は欲しいと言っているようで、それは資本主義ではない」
―四国電力は老朽火力発電所のフル稼働などで発電を賄っているから不安定だと言い、原発で安定供給を図ると説明している。
「それは火力への投資を怠ってきたからだ。原発依存度が高い九州、関西、四国の各電力会社は、原発なしにやっていけないような体質になっている。事故の場合だけでなく、(通常の)経営的にも危ない。中でも四国電力は会社の規模が小さいから、原発が予定通り動かないと、打撃は一番大きいと思う。体力が残っているうちに別の方向に転換した方がいい」
―原発を特別扱いする会計制度があり、福島原発の事故後は「廃炉を円滑に進める」として制度変更も重ねられている。
「原発は国家が大きく支えないと生き残れない。それを暗示している。原発を持っている事業者を保護するこの会計制度は、裏を返せば原発を持たない事業者に不利益。それは電力自由化の精神から外れる」
「東日本大震災は非常にパラドキシカル(逆説的)だった。一面では既存の電力態勢は脆弱(ぜいじゃく)で災害時にうまく供給できないことが分かったし、過剰投資などで高コストだったことも分かった。だから電力システム改革を始めた。それなのに無駄の象徴のような原発を維持しようとするから、結果的に電力の安定供給も経済効率的な運用もできなくしている。これでは電力システム改革がうまくいかない可能性も出てくる」
―再稼働に対し、企業経営の視点で懸念することは。
「一番心配なのは事故処理の資金。原発事故は損害賠償だけでない。収束がとても大事で、いきなりお金が要る。東電の経営規模だから金融機関からも借りて2兆円を積み立てることができた。四国電力の規模で用意するのは、かなり厳しい。今は、事故収束費用で事業者を支援する制度はない。『事故を起こさない』というのは安全神話。自分で損害賠償できない、除染もできない、ましてや事故収束もできないなら、それはやる資格がない」
大島堅一氏 1967年福井県生まれ。環境経済学。2008年から立命館大学国際関係学部教授。「原発のコスト」(岩波新書)で大仏次郎論壇賞。