福島原発事故で国内の原発の再稼働や建設が困難になった中、原発メーカーは政府と一体になって国外輸出に活路を見出そうとしました。その方針はそれなりに実を結ぶかに見えたのですが、最終的にはそれらの全てが頓挫する方向となりました。
決定的な理由は、福島事故の影響で安全対策費が大幅にアップし、従来100万KW級の原発1基が約5000億円であったものが約1兆円に倍増したためです。
海外の考え方は明快で、必要な措置は全て無条件に行うことを前提としています。その点は、原発の強靭化とは直接関係のない防潮堤の新設をウリにして、あとは配管を補強し、緊急時の自家発電装置の予備を増やすなどの対策だけで、次々と再稼働させている日本とは異なります。
J-CASTニュースが「行き詰まる原発輸出」を報じました。
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行き詰る「原発輸出」のこれから 国内再稼働への影響も
J-CASTニュース 2019年1月6日
政権が進める「原発輸出」の旗色が悪い。
日本政府と三菱重工業がトルコで、日立製作所が英国で、それぞれ進めている原子力発電所の建設計画が頓挫する公算が大きくなった。いずれも、建設費用が膨らんだためだ。安倍晋三政権は「成長戦略」に原発輸出を掲げ、官民一体で進めてきたが、これまでに中止になったベトナムなども含め、総崩れの様相だ。
トルコ、英国で相次ぎ頓挫
トルコの計画は、同国北部シノップ地区に原発4基を建設するもの。2013年、トルコで安倍首相とエルドアン首相(当時、現大統領)が会談、トルコの原子力エネルギーに協力する共同宣言に署名し、実現に動き出した。トルコ建国100周年にあたる2023年の稼働をめざしていた計画の事業費は当初、2.1兆円程度と見込まれていたが、2018年に入って、事業化に向けた調査で総額4兆円以上に倍増する見通しが判明し、雲行きが怪しくなった。東京電力福島第1原発事故を受けて安全基準が厳しくなったためだ。
参加企業が事業費を負担して建設し、発電事業による利益で回収する仕組みのため、事業費が膨らめば電気料金を高くしなければ採算が取れない計算だが、トルコ側は当初想定に近い条件での事業化を望み、交渉が暗礁に乗り上げていた。関係者によると、12月1日に主要20カ国・地域首脳会議(G20)が開かれたブエノスアイレスでの安倍・エルドアン会談で、計画の実現が難しくなっているとの認識を共有したという。
一方、英国の計画は、西部のアングルシー島に原発2基を新設するもの。日立は、中西宏明会長(経団連会長)が社長時代の2012年に現地の原子力事業会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を買収する形で参画し、2020年代前半の運転開始を目指していた。
EU離脱控え「それどころではない」英国
しかし、こちらも世界的な安全基準の強化に伴い事業費は最大3兆円程度にふくらむ見通しになった。そこで日立は計画を後押しする日英両政府と協議を重ね、2018年6月までに支援の枠組みで大筋合意。日立、日立以外の日本勢、英国勢が3000億円ずつを出資し、英政府が約2兆円の融資に保証をつけ、事業費は完成後に電気料金収入で回収する仕組みだ。
だが、中西会長は12月17日、「難しい状況。もう限界だと思う」と述べ、いまの計画のままでの事業継続は困難との考えを表明。2019年1月にも計画の断念を決める可能性がある。最大の原因は「日立以外の日本勢」の出資のめどが立たないこと。電力会社や政府系金融機関を想定しているが、東電が福島第1事故への対応を優先して二の足を踏み、他の電力会社も同調する姿勢を見せるなど暗礁に乗り上げている。
英政府には完成後の電気の高値での買い取り保証を求めたが、欧州連合(EU)からの離脱問題を抱え、それどころではなく、交渉の進展が見通せない状況だ。
技術・人材の維持のためにも「輸出」重視、しかし...
官民協力の原発輸出として一番実現性が高いとみられた英国での計画が行き詰まったことは、原発輸出に、そして今後の原発の「維持」にも打撃だ。
国内での反対論を押し切って「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼働を進めるが、新たな建設や建て替え(リプレース)の見通しは全く立たない状況だ。そこで、海外で原発を建設しなければ国内メーカーの技術や人材を維持できないとの考えから、安倍政権は原発輸出に力を入れる方針を打ち出したのだ。
福島事故後、政府は原発輸出を可能にするための原子力協定をカザフスタン、ベトナム、ヨルダン、トルコ、アラブ首長国連邦などと次々結んできた。2017年には、核不拡散などの観点から異論も多かった核兵器保有国・インドとも締結し、トルコをはじめ、安倍首相も各国を回って売り込んだ。
だが、原発事故後に安全対策の費用が膨らみ、建設コストは高騰、一基5000億円程度から1兆円超に拡大。日本勢の競争力は衰える中、原発輸出に最も熱心だった東芝は傘下の米ウエスチングハウスが経営破綻し、海外の原発建設事業から全面撤退したほか、各国での計画も、2012年にリトアニアの国民投票で反対多数となり、内定していた日立製作所の原発輸出は凍結。2010年に建設で合意したベトナムの計画は2016年にベトナム側が撤回。日立や東芝、三菱重工などの台湾の計画も2014年に凍結された。
日立の中西会長の発言が伝わった12月17日、菅義偉官房長官は会見で「(英原発計画は)現在、協議中と承知している」と平静な態度を見せつつ、「日本の原子力技術に対する期待の声は各国から寄せられている。世界での原子力の平和利用、気候変動問題への対応として責任を果たしていく」と強調した。しかし新たな輸出案件もなく、成長戦略の看板政策は展望を見いだせないのが実態だ。