原発事故で避難指示が出た地域の住民ら216人が東電に約133億円の損害賠償を求めた「ふるさと喪失」集団訴訟の判決で、福島地裁いわき支部は22日、約6億1240万円の支払いを命じました。「ふるさと喪失」の慰謝料は認めたが、東電が支払い済みの金額から大きな上積みはありませんでした。
原告側は早期の結論を得るため、国を被告にしないで、精神的苦痛による慰謝料を、「ふるさと喪失」(1人2000万円)と、避難生活に伴う損害(1人月50万円)に分けて主張しましたが、島村裁判長は原告が主張する二つの慰謝料は区別困難として一括し、避難指示の出た区域の住民(既払い額は1450万円か850万円)に150万円を、また周辺の緊急時避難準備区域の住民(同180万円)に70万円-を慰謝料に上積みするのが妥当とし、個々の事情はほぼ考慮しませんでした。
東電の責任については、遅くとも2008年ごろには巨大津波を予見していたと指摘したものの「現実的な可能性はないと認識したとしても著しく合理性を欠くとは認められない」と重い過失があったとは認めませんでした。
相変わらず判決では慰謝料の正当性は認めるものの肝心のその額は著しく低く、ふるさとを喪失し、過去の殆どを失った「損害」はそんなに軽いものなのかという思いを禁じ得ません。
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福島第1原発事故 原発避難訴訟 東電に6.1億円賠償命令
「ふるさと喪失」認定 地裁いわき支部
毎日新聞 2018年3月23日
東京電力福島第1原発事故で避難指示が出た地域の住民ら216人が東電に約133億円の損害賠償を求めた集団訴訟の判決で、福島地裁いわき支部(島村典男裁判長)は22日、213人に計約6億1240万円の支払いを命じた。避難指示が解かれた地域を含め「ふるさと喪失」の慰謝料を認めたが、東電が支払い済みの金額から大きな上積みはなかった。【尾崎修二、宮崎稔樹】
全国に約30ある原発事故を巡る集団訴訟で7件目の判決。いずれも東電に対して賠償の上積みが命じられた。
原告側は早期の結論を得るため、国を被告としなかった。精神的苦痛による慰謝料を、住み慣れた土地での暮らしや人間関係などを奪われた「ふるさと喪失」(1人2000万円)と、避難生活に伴う損害(1人月50万円)に分けて主張。東電側は国の指針に基づいて慰謝料を支払っており、それ以上の賠償を拒否していた。
判決で島村裁判長は「地域での生活や人のつながりを失い過酷な避難生活を強いられた。帰還者も復旧に向け多大な努力や不便を余儀なくされている」と指摘。原告が主張する二つの慰謝料は区別困難として一括し、避難指示の出た区域の住民(既払い額は1450万円か850万円)に150万円▽周辺の緊急時避難準備区域の住民(同180万円)に70万円--を慰謝料に上積みするのが妥当とした。個々の事情はほぼ考慮しなかった。
昨春までに避難指示が解かれた地域についても、昨年の千葉地裁や今年の東京地裁と同様、ふるさとの喪失・変容に伴う慰謝料を認めた。原発事故時、県外に生活拠点があるなどした3人の請求は棄却した。東電の責任を巡っては、遅くとも2008年ごろには巨大津波を予見していたと指摘。だが「現実的な可能性はないと認識したとしても著しく合理性を欠くとは認められない」と重い過失があったとは認めなかった。
東電が賠償基準とする国の指針は13年12月から見直されず、住民帰還や地域再生が滞る被災地の実態を踏まえていないとの批判がある。だが、判決は指針を大きく超えなかった。原告団の米倉勉弁護士は「『ふるさと喪失』の実態を認めたのに慰謝料の算定には反映されていない。国の指針に追従した印象だ」と批判した。
(後 略)
<原発事故避難者集団訴訟>
地域崩壊に直面した被災者に寄り添った一方、請求額とは大きな開き
河北新報 2018年3月23日
【解説】東京電力福島第1原発事故を巡る22日の福島地裁いわき支部判決は、原告側が求めた「古里喪失」の損害を認めた。同種の集団訴訟と同様、国の賠償基準の中間指針を超える賠償額を認定する結果となり、中間指針の在り方が問われる可能性もある。
判決は古里喪失の実態について「緊密な人間関係は失われた」「故郷としての精神的なよりどころを失った」などと指摘。避難を強いられ、地域の崩壊に直面する被災者に寄り添った点で評価できる。
ただ、具体的な損害額認定では、原告側が求めた「古里喪失」単独での評価を「極めて困難」と避けた。中間指針を超えて認めた賠償額も避難区域で1人150万円にとどまり、原告側の請求額とはあまりに大きな開きがある。
古里喪失の慰謝料について「(中間指針に基づき)既に支払った賠償に含まれる」と反論してきた東電の主張を一部認めたとも受け止められかねず、被害実態が正当に反映されているかどうかは疑問が残る。
東電の津波対策に関しては、十分に評価した判決とは言い難い。津波襲来の可能性を東電が認識していたことを認めながら、「著しく合理性に欠くとまでは言えない」と事故回避を怠った対応を追認した。
国と東電の双方の責任が問われた過去5件の集団訴訟では、4件が事故を防げなかった責任を認めており、後退する判決となったと言える。(福島総局・高田奈実)
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東京電力福島第1原発事故で古里が失われたなどとして、福島県双葉郡の住民ら216人が東電に慰謝料など計約133億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福島地裁いわき支部は22日、213人に計約6億1000万円を支払うよう命じた。判決は争点の「古里喪失」の損害を認定。巨大津波の予見を巡っては、現実的な可能性はないとの東電の認識を「著しく合理性が欠けるとまでは認められない」と判断した。