日本の原子炉・原発メーカーは国内での建設の見通しがないので、輸出に活路を求めるしかありません。国内と違い、英国やトルコでは電力会社が建設費用を負うわけではなく、原発メーカーなどが出資する事業会社が自ら資金を集め、発電した電気を売って回収する仕組みのため、建設費用が膨らむほど採算は悪化し、投じた資金の回収は困難になります。
福島原発事故を契機に、特に海外では原発に厳しい安全対策が求められるようになって、建設コストが従来の2倍かそれ以上に膨らみました。そうして投資資金の回収の見通しが暗くなれば、なおさら建設資金の調達は困難になるので、結局政府の支援をまつことになります。
日本政府はいま、建設費が3兆円を超える英国原発の建設に向けて、政府系金融機関による投融資に加え、邦銀の融資の際に債務保証することを検討していますが、これは万一の場合に日立が被る損失を国民が肩代わりすることに他なりません。
原子力ムラとタイアップした原発行政のいびつさがここにも現れています。
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原発輸出に国民負担リスク 兆円単位で膨らむ建設費用
日本、官民一体で推進
時事通信社 2018年3月24日
2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、世界各国で原発建設費用が膨らみ続けている。安全対策強化に兆円単位のお金がかかるためで、事業が行き詰まる可能性は小さくない。日本が官民一体で進める原発輸出には巨額の国民負担リスクが潜んでおり、慎重な検討が必要だ。
◇技術維持できず
「建設を続けなければ技術が維持できない」(日立製作所幹部)。原子炉を製造するメーカーは輸出に活路を見いだす理由をこう語る。原発再稼働すらままならない日本国内で新設は見通せない。
日立は12年、原発新設に前向きな英国で自社の原子炉を納入するため、現地の原発事業会社を買収。事業会社への出資を広く募って自社のリスクを抑えた上で、20年から原発2基を建設する計画だ。同国には原発向けに電力の買い取り価格を保証する制度がある。日立は英政府の価格提示などを待って、建設に踏み切るかどうかを19年末に最終判断する。
三菱重工業は13年、仏企業と組み、トルコでの原発新設で優先交渉権を獲得した。日トルコ首脳会談を機に商談が進んだ。
難題は膨張する建設コストだ。日立の場合、総事業費は3兆円規模に上るもよう。三菱重工がトルコで進める原発建設計画では、当初2兆円と想定された事業費が追加の安全対策などで2倍以上になる可能性があることがこのほど判明。23年の稼働が危ぶまれている。
国内と違い、英国とトルコでは電力会社が建設費用を負うわけではない。原子炉メーカーなどが出資する事業会社が自ら資金を集め、発電した電気を売って回収する仕組みだ。建設費用が膨らむほど、採算は悪化し、投じた資金の回収は困難になる。
◇政府支援に期待
建設費用の増大は、東芝子会社だった米原発大手ウェスチングハウス(WH)の破綻や世界有数の原子力企業、仏アレバの経営危機を招いた。「稼働停止などの事態で配当が止まるリスクもある中、出資や長期にわたる融資をどう集めるか」(アナリスト)が鍵を握る中、原子炉メーカーが期待するのは政府による支援だ。
安倍政権にとって、原発を含むインフラ輸出は成長戦略の目玉の一つ。日立の東原敏昭社長は「政府の支援をいただきながら、投資が集まる環境をつくることが重要だ」と話す。
総事業費が3兆円に上る日立の英原発新設計画に対し、政府は政府系金融機関による投融資に加え、邦銀の融資については日本貿易保険(NEXI)を通じて全額債務保証することを検討している。これは万一の場合に民間が被る損失を国が肩代わりすることを意味し、最終的な穴埋めを国民が負うことになる恐れがある。
日本などが支援する原発建設計画をベトナムが白紙撤回するなど、官民一体の原発輸出の先行きは不透明だ。福島事故の記憶は新しく、原発反対派からは「事故を起こした国として、国内で建てられないからという理由で輸出を支援するべきではない」(原子力資料情報室の伴英幸共同代表)との声も根強い。
原発輸出にリスクがつきまとう中、原子力の技術維持に国がどこまで関与すべきか、国民的議論が求められている。