2018年3月14日水曜日

先見えぬ福島原発「トリチウム汚染処理水」

 産経新聞が、福島原発の「トリチウム汚染処理水」の処理方式をめぐる現状を報じました。産経新聞は原発推進派ですが、原発事故に関連する問題を深堀りした記事を断続的に載せています。
 凍土遮水壁が完全凍結しないことで所期の性能を発揮できないことが明らかになったので、トリチウム水をどう処理するからはいまや喫緊の課題になりました
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【原発最前線】先見えぬ福島原発「トリチウム処理水」
 海洋放出反対の漁連「悪者にされる」
産経新聞 2018年3月13日
 事故から7年となった東京電力福島第1原発でたまり続ける「トリチウム処理水」をめぐる状況が切迫度を増している。構内に林立するタンクの8割近くを占め、「タンクの増設計画は3年後までしかない」と東電。海洋放出は地元漁連が強く反対し、国は処理方法を平成25年から検討中で、東電は国の結論を待つ姿勢。原子力規制委員会は「海洋放出の準備に数年かかる」と年内の決断を求めているが、見通しは開けていない。(社会部編集委員 鵜野光博)

総量は「57ミリリットル」
 トリチウム(三重水素)は水と一体化しているため汚染水処理装置でも取り除けないが、エネルギーが弱く、人体に蓄積しない。規制委によると、第1原発の処理水、建屋滞留水、溶融核燃料(デブリ)などの中に含まれるトリチウムの総量は3400兆ベクレルで、トリチウム水に置き換えると約57ミリリットル。このうち約3分の1が、タンク内のトリチウム処理水に含まれている。
 トリチウムを含んだ水は、他の原発では排水の一部として海に流され、福島第1原発でも事故前は放出されていた。しかし、事故後は構内にため続けており、今年2月時点で約105万トンあるタンク貯蔵水のうち約85万トンを占めている。タンクの容量は現状で約100万トンで、東電は平成32年までに137万トンまで増設を計画しているが、それ以降については未定だ。

 処理方法を検討している資源エネルギー庁は、タスクフォースの結論として、地層注入▽海洋放出▽水蒸気放出▽水素放出▽地下埋設-の5つの方法を候補に挙げた。その後、28年11月から社会学者を入れた小委員会で7回の会合を開き、風評被害への対策を含めて検討しているが、事務局は「簡単に結論が出る状況ではない」としている

「陸上保管がいい」と漁連
 一方、規制委の更田豊志(ふけた・とよし)委員長は「希釈して海洋放出が現実的に取り得る唯一の手段」とし、「ほかに手段があるかのような議論が進められることは甚だ心外。いまだに決定がなされないことを憤っている」(昨年12月27日の記者会見)と述べた。また、地元への説得について「東電の問題。委員会での議論の問題ではなく、東電がこれしかないからやらせてくださいと言うようにならない限りだめだ」(同)と踏み込んでいる。
 しかし、東電の廃炉・汚染水対策最高責任者の増田尚宏氏は、産経新聞の取材に「処理方法については、国のご指導をいただきながら決めていく必要がある」と述べ、小委員会の結論を待つ姿勢を示しており、東電が主体的に処理方法を提唱する状況にはなっていない。

 海洋放出に反対する福島県漁連の野崎哲会長は「トリチウム処理水は陸上保管こそがリスクが少ない」とする考えを表明。また、「事故前にも、トリチウムを含んだ水を海洋放出していることについて聞いていなかった」と東電の対応に不満を示し、海洋放出については「事故による汚染がようやく落ち着いてきたのに、改めて汚染されたものを流すのは反対だ。規制委はそもそも提案型の組織ではない」と反発している。

「決定押しつけられている」
 福島県原子力安全対策課の担当者は「トリチウムを含んだ排水は事故前も海洋放出されていたが、事故後は『汚染水』を処理したもので、風評被害の点では一緒にはならない」と漁連の反発に理解を示す。
 同県の漁業関係者の一人は「なぜ放出に反対しているのかと、われわれが悪者にされていくようだ」と本音を明かす。
われわれは処理方法の決定権者でもなんでもないのに、決定を押しつけられている感がある。トリチウムについては国民一般に知識があるとは思えず、風評の懸念しかない

 ■トリチウム処理水 福島第1原発で生じる汚染水を浄化装置で処理した水。セシウム、ストロンチウムなどの放射性物質は装置で除去できるが、トリチウムだけは取り除けない。福島第1原発は原子炉建屋が山から海へ地下水が流れる地層の中に建っており、事故後は大量の地下水が配管などを通じて建屋に流れ込み、溶融核燃料(デブリ)などと接触して汚染水となっている。流入量は以前は1日400トンを超えたが、最近は凍土遮水壁や井戸(サブドレン)の効果で1日100トン超にまで減少している。