<参院選>1票の現場から 終わらぬ原発被害(上)「政治への意識変えた」
東京新聞 2019年7月2日
二〇一一年の東京電力福島第一原発事故を境に重要な政治課題となった原発問題。事故後に比較的高い空間放射線量が検出され、「ホットスポット」と呼ばれた東葛地域を中心に、母親たちが始めた子どもたちを健康被害から守る取り組みは、形を変えながら今も続く。
茨城県守谷市の常総生協に事務局を置く「関東子ども健康調査支援基金」は、被ばくによって生じる小児甲状腺がんの疑いを調べるため、エコー検査をする市民団体だ。一三年九月に発足以来、茨城、千葉、栃木、埼玉、神奈川の五県と東京都で巡回検診を行い、延べ一万人以上が受診した。
基金の共同代表・木本さゆりさん(49)=松戸市=は、事故当時、長男が小学校三年生、長女が二歳。身近な場所が放射能で汚染されていることを知って「地域の子どもたちみんなが救われるように、できる限りのことをやってみよう」と活動を始めた。
母親仲間と協力して勉強会を開き、通学路や学校給食などの放射線量測定や、除染、食品の産地表示などを市に要請したり、常総生協が呼び掛けた土壌調査に加わるなどした。
共同代表の佐藤登志子さん(48)=我孫子市=も、二年生だった長男が通う小学校の校庭の除染を市に働き掛けたことが、行動の出発点だった。
同時期に、各地で母親たちが、木本さんや佐藤さんと、共通する取り組みを進めていた。「地域ごとに旗振り役がいて、自然発生的に行動を起こした。各地の市民団体がつながって『放射能からこどもを守ろう関東ネット』ができ、基金設立のきっかけとなった」と佐藤さんは振り返る。
八年の取り組みは、二人の「政治に向き合う意識を変えた」という。「行政を動かすにしても、根拠を自分たちの足で稼いで、示す必要性を痛感した」と佐藤さん。木本さんは「今回の参院選は、(震災時、小学三年だった)息子が初めて投票することもあり、感慨深い。原発という国策に関わる政治家には、放射能の汚染地域に住む人たちのことを考えてほしい」と話し、首都圏から最も近い東海第二原発(茨城県東海村)の再稼働に危機感を抱く。
基金の事務局長で同原発の運転差し止め訴訟の原告でもある大石光伸さん(61)は話す。「市民の自治運動がないと政治も動かない。原発を造っちゃった世代なので、次の世代にツケを残せない。参院選は衆院選よりも長期的な問題を考えることができるいい機会だ」 (堀場達)