2014年9月16日火曜日

原発ゼロ1年 原発不要は一層明確に

 15日で国内原発稼働がゼロとなってから丸1年になりました。

 「原発がなくても電力は足りる」と唱え続けてきた飯田哲也氏が、原発事故後の日本の現状について解説しています。
 
 それによると各企業は原発事故後、ガス発電機や電力や熱を同時に供給するコージェネレーションシステムなどを導入し震災後だけで原発2~5基分(1基70万キロワットで換算。以下同)くらいの総量になっています
 太陽光発電システムも13年の1年間で原発約10基分に当たる約700万キロワット分が設置され、この1年でおよそ倍増しました
 また東電管内だけで、東日本大震災前と比べ需要量が節電により約1千万キロワット減少しました。これは原発14基分に相当します。
 その結果、今夏の実績をみても、東電が「やや厳しい」と位置付ける使用率90%を超えた日は8日間で、「厳しい」とする95%を超えることはありませんでした
 
 さらに16~18年の電力自由化を控えて、経産省が原発コストが火力よりも高いことを明らかにしました。こうして唯一のメリットもなくなって危険性だけがある原発の出番はもうありせん。 
 因みに発電効率も、石炭 40~43%、LNG 50~60%に対して原子力は33%です。
 
※ コージェネレーションシステム
 火力の熱源から電力と熱(熱水・熱気)を生産し、熱は地域などに供給するシステムの総称「コージェネ」あるいは「熱電併給」
 電力と熱を併給することで熱効率が格別に高くなるのが特徴で、発電用ガスタービンエンジンシステムでは総合効率で6986%、発電用ガスエンジンシステムでは総合効率で72~92%、発電用ディーゼルエンジンでも総合効率で64~81%が可能す。
 
 神奈川新聞の記事を紹介します。
 
   註.神奈川新聞のタイトルは「原発ゼロ1年(上)」となっていますが、飯田哲也氏の話は今回で完結しています。
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原発ゼロ1年(上) 議論なき再稼働に危機感 
         環境エネルギー政策研究所長・飯田哲也さん
神奈川新聞 2014年9月14日
 国内で稼働している原発がゼロとなり15日で丸1年を迎える。政府、経済界は再稼働への動きを加速させるが、原発ゼロで夏を乗り切った今、立ち止まって考えてみたい。原発は本当に必要だろうか。
 NPO法人環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は「原発がなくても電力は足りる」と唱え続けてきた。
 原発ゼロで初めて夏を乗り切り、それが証明された格好だが、大きな要因として挙げるのが節電だ。
 「企業が無理なく節電でき、しかも儲(もう)かる形のノウハウが浸透してきた。例えば商業ビルやデパートで今まで冷房を効かせすぎていた。室温28度設定を徹底することで大きな節電効果が得られる」
 震災後最初の夏は計画停電が実施され、工場の操業を一時停止させた企業もあった。各企業はその後、ガス発電機や電力や熱を同時に供給するコージェネレーションシステムなどを導入していき、「こうした発電機は震災後だけで原発2~5基分くらいの総量になっている」と指摘する。
 太陽光発電システムも13年の1年間で原発約10基分に当たる約700万キロワット分が設置され、この1年でおよそ倍増した計算だ。飯田さんが続ける。「『日が陰ると発電量が下がる太陽光は当てにならない』と言われるが、日本全国に雲がかかることはないということを考えれば、広範囲に大量に設置することで、十分にピークを補う電力になる」
 喧伝(けんでん)された電力不足の懸念も、需要量が急増する夏場のごく限られた時間帯にすぎない。太陽が照りつけ、気温が上がる7~8月の午後1~4時は太陽光発電の能力が最大化される時間帯とも重なっている。今夏(7~8月)の実績をみても、東電が「やや厳しい」と位置付ける使用率90%を超えた日は8日間で、「厳しい」とする95%を超えることはなかった。
 それでも政府、経済界は原発の再稼働への動きをやめない。飯田さんは「冷静な議論がなされていない」と危機感を抱いている一人だ。
 国は電力会社に対し、「再稼働か、倒産か」の二者択一を迫り、電力会社は消費者に「再稼働か、電気料金引き上げ」を選べと詰め寄る。経済界は電気料金が上がり利益が目減りするのを恐れ、再稼働しかないと思い込む。
 「本来なら、住民避難や損害賠償、技術審査基準、老朽化原発の廃炉計画、核燃料廃棄物の処理など再稼働の前に合意しておかなければならないことが数多くある」
 九州電力川内原発(鹿児島県)は原子力規制委員会が規制基準への適合を認め、政府も原子力防災会議を開き、再稼働への手続きが進む。10月にも地元自治体の同意を得て政府が判断を下し、早ければ年明けにも再稼働される見通しだ。
 「再稼働一辺倒の議論のまま川内原発が動きだせば、必要な議論が抜け落ちたままそれ以外の原発も動きだす」と危機感を募らせる飯田さんは再稼働を前提に、廃炉まで見据えた一時的な稼働を議論すべきだと提案する。
 止まらない再稼働の流れを前にした妥協にも映るが、「放射性物質で汚染され、いまも人が住めない地域があり、19万人が仮設に暮らしている現実がある」。
 
 何より飯田さんはエネルギー政策の転換は避けられない、とみている。
 「経済、社会が同時代的に全世界で変化する中、エネルギー事情も必然的に大きく変化していく。日本だけがいまのままでいられるはずがない。地域から、企業から、異業種から、新しい技術、仕組みが生まれ、自由でオープンなエネルギー環境が出来上がっていく」
 長い目でみれば、大規模集中、独占型の原発はやがて旧型のシステムとして、すたれてゆくと考えている。
 
■就業時間を変え節電
 扉を開けた瞬間、ごう音が耳をつんざく。小学校の体育館を一回り小さくした広さの建屋に据え置かれた2基のガス発電機。猛烈な熱気をまといフル稼働していた。
 日産自動車追浜工場(横須賀市夏島町)の一画に発電機が設置されたのは2003年。発電量は2基合わせて1万1500キロワットで、約7千世帯の電力を賄う。約400度の排ガスを給湯や蒸気に変えて工場内の塗装ラインなどで使い切るコージェネレーションシステムだ。工場内で使う電力の約3割を担っているという。
 
 「東京電力の需給に貢献できるよう、今夏はさらに就業時間まで変えた」と説明するのは工場内のエネルギー管理を担当している工務部の山口和男さん(47)。始業は通常午前7時のところ、今夏は午前8時に変更し、昼の休憩時間を午後1時からの1時間にずらした。
 「東京電力の電力供給がピークとなるのは午後1~4時。これまでもガス発電機の稼働時間を変化させて対応してきたが、就業時間にまで手を入れるのは異例のこと」と話す。
 
 手の込んだ策を講じるのには、東電への貢献以外に別の理由がある。「電力使用が一定量を超えると電気料金が上がる契約になっている。一方でピーク時の使用量を減らすことで2~3%の割引を受けられる。いまはまだぎりぎりコストメリットがある」と明かす。
 こうした企業の取り組みの積み重ねについて、東電の広報担当者は「原発ゼロで乗り切れた最も大きな要因になった」との認識を示す。夏季に工場の操業時間を夜間にずらし冷房を抑えたりしている企業もあるという。日産自動車のような工場内発電機によるピーク時のカバーも「節電」という枠で計算される。
 
 東電管内では、東日本大震災前と比べ需要量が約1千万キロワット減少しているという。全原発の停止によって東電供給量の2~3割が失われているが、その大半を節電で補っているのが実態だ。
 
いいだ・てつなり 1983年京都大大学院工学研究科原子核工学専攻修士課程修了、神戸製鋼入社。電力中央研究所出向を経て32歳のときスウェーデンへ留学、ルンド大学環境エネルギーシステム研究所客員研究員。2000年環境エネルギー政策研究所を設立。環境省の中央環境審議会、経産相諮問機関の総合資源エネルギー調査会などの委員を歴任。55歳。