2014年9月3日水曜日

原発ADR:和解案の8割が半額以下に算定

 8月26日、福島原発の事故後、一時帰宅中に焼身自殺した女性の遺族東電に賠償を求めた訴訟において、福島地裁が下した初の判決は、東電に約4900万円の支払いを命じ原発事故が自殺原因の8割を占めていると認定しました。
 
 それに対して「損害賠償紛争解決(ADR)センター」による、裁定基準はどうなのでしょうか。
 
 毎日新聞が入手した2012年12月26日付の文書(前和解仲介室長作成)には、原発事故の影響の度合いを「一律5割とし、4割か6割かといった細かい認定は行わない」と記載してあり、「5割の判断に無理がある場合、例外的に1割と示すこともできる」となっていました。
 このほか(1)基準額を通常訴訟より低く設定できる(2)判断の際医師の意見やカルテを重視すべきでない、とも記されていました。
 同紙が先に団藤 和解仲介室長に、「一律5割がADR和解案の基準にされているのではないか」と確認したところ、「別に基準にはなっておらず、調査官や仲介委員の裁量で決めている」と否定していました。
 
 しかしながら毎日新聞が実績を調査したところ、福島原発事故のADRセンターが、避難後に死亡した人の慰謝料に関して示した約120件の和解案のうち80%超で「原発事故の影響の度合い」を5割以下と算定していることが分かりました。
 
 前記の自殺した女性側の弁護団に加わっている中川素充弁護士は、「和解案を作成するセンターの仲介委員(弁護士)が、東電が受諾できる範囲を考慮し、低額の和解案を作成する可能性があることを危惧したから原発ADRはほとんど利用しないと話しています。
 当然批判されるべきADRセンターの「ありかた」です。
 
 またそれとは別の話ですが、東電はその低額のADRの和解案すら受け入れないケースが多発していて、問題になっています。
 
 毎日新聞とNHK ニュースの記事を紹介します。
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原発ADR:和解案8割、半額以下…「一律基準」裏付け
毎日新聞 2014年09月02日
 東京電力福島第1原発事故の賠償問題を裁判外で解決する手続き(原発ADR)を担当する「原子力損害賠償紛争解決センター」が、避難後に死亡した人の慰謝料に関して示した約120件の和解案のうち80%超で、「原発事故の影響の度合い」を5割以下と算定していることがセンターへの取材で分かった。避難後の自殺に関し約4900万円の賠償を命じた先月26日の福島地裁判決は「8割」と認定しており、原発ADRで慰謝料が低く抑えられている実態が裏付けられた。【高島博之】
 
◇裁判では「8割賠償」認定
 センターは、和解案で提示する死亡慰謝料を「基準額」×「原発事故の影響の度合い(%)」で算定する。このため、度合いに関する判断は支払額を大きく左右する。
 取材に対するセンター側の回答や、被災者側弁護団に対するセンターの説明を総合すると、これまで示された死亡慰謝料に関する和解案は約120件。原発事故の影響の度合いで最も多いのは「5割(50%)」で、五十数件と全体の四十数%を占めた。さらに「5割未満」も約40%あり、「5割超」は20%弱しかなく、80%超は5割以下だという。
 センター側は基準額についても、交通事故の賠償額より数百万円低2000万円未満に設定している。このため、和解案額の平均は数百万円にとどまるとみられる。
 死亡慰謝料算定を巡っては、内部文書の存在が既に明らかになっている。文書は因果関係が相当に認められる場合「一律5割」、5割の判断に無理がある場合「例外的に1割」などと記載しており、これに沿った判断が積み重ねられているとみられる。
 
 一方、避難中に自殺した女性(当時58歳)の遺族が起こした損害賠償訴訟で、福島地裁は強いストレスを重視した。原発事故の影響の度合いを8割と認定して、東電に約4900万円の賠償を命じた。
 この訴訟の中で、東電は文書を提出。原発ADRで(1)避難区域から県外に避難した男性(当時30歳)や、旧緊急時避難準備区域に住む女性(同63歳)が自殺したケースで、原発事故の影響を各10%(2)自主的避難等対象区域の農業男性(同64歳)が自殺した事案で30%−−と算定していることを挙げ、裁判でも原発ADR同様、原発事故の影響の度合いを低く算定するよう主張していた。
 
◇定額算定に不信感
 福島地裁の訴訟で自殺した女性側の弁護団に加わっている中川素充(もとみつ)弁護士は「避難中に亡くなった人は、女性と同じようなストレスを抱えていたはず。『一律5割』といった安易な判断はできないはずだ」と、原子力損害賠償紛争解決センターの姿勢を批判した。
 
 中川弁護士は2011年9月に結成された「福島原発被害首都圏弁護団」の共同代表を務める。弁護団は、自殺した女性の訴訟のほか、被災者282人が、東電と国に賠償を求めた集団訴訟を手がけるが、原発ADRはほとんど利用しない。その理由を中川弁護士は「和解案を作成するセンターの仲介委員(弁護士)が、東電が受諾できる範囲を考慮し、低額の和解案を作成する可能性があることを危惧していたから」と語る。
 
 今回、原発事故の影響の度合いを巡り、センター側が示した和解案の80%超で5割以下になることが明らかになり、不安は的中した。中川弁護士は「原発ADRが信頼できないことがはっきりした。誰のためにやっているのか疑問で、今後も依頼者が望まない限り、ADRは使わない」と話す。
 ただ、裁判は判決までに数年かかり、平均半年で終わる原発ADRよりハードルが高い。原発ADRへの申し立てを手掛けたことのある渡辺淑彦弁護士(福島県弁護士会)は「迅速さや、立証が裁判より簡易である点はADRの利点だ。しかし、5割以下が多いのは問題。センターは、福島地裁判決が示したように、避難生活の困難さを直視するよう姿勢を改めるべきだ」と話した。【高島博之、関谷俊介】
 
 
日弁連 東電は賠償和解案受け入れを
NHK NEWS WEB 2014年9月2日
原発事故の賠償を巡って、国の「原子力損害賠償紛争解決センター」が示した和解案の受け入れを、東京電力が拒否するケースが相次いでいることを受けて、日弁連=日本弁護士連合会は、「和解案を尊重するとした約束に反するもので、被災者を苦しめている」として、東京電力に和解案を受け入れるよう求めました。
 
原発事故の被害者と東京電力の和解を仲介する国の「原子力損害賠償紛争解決センター」では、受け付けの開始から3年間で、8000件余りの和解が成立しています。
一方、1日、会見した日弁連によりますと、福島県浪江町が住民1万5000人余りの代理人となった集団申し立てなど、センターが示した和解案の受け入れを、東京電力が拒否するケースが、最近、相次いでいるということです。
これについて、日弁連の東日本大震災・原子力発電所事故等対策本部の海渡雄一副本部長は、「センターは、東京電力との直接交渉では実現できない被災者の権利の救済のために、大きな意味を果たしてきたが、ここに来て憂慮すべき事態が起きている」と指摘しました。
そのうえで、海渡副本部長は、東京電力の対応について、「事業計画の中で『和解案を尊重する』とした約束に反するもので、被災者をさらに苦しめている」として、和解案を受け入れるよう求めました。