2014年9月25日木曜日

「今やっても遅くない」と新組織設立を提言

原子力規制委を退く委員の”重い言葉”
「今やっても遅くない」と新組織設立を提言
中村 稔 東洋経済  2014年09月23日
                                                  (編集局記者
退任する委員とはいえ、非常に重みのあるメッセージだった。
 
原子力規制委員会委員(規制委)としての2年の任期を終了した島崎邦彦、大島賢三の両氏が18日、それぞれ退任会見を開いた。大島氏は原子力発電所周辺の自治体が策定する防災・避難計画について、規制当局と国家の防災専門組織が連携して積極関与している米国に比べ、「日本は(腰が)引けている」とし、日本でも同じような仕組みをつくって避難計画の実効性を高めるべきとの考えを示した。
 
元外交官である大島氏は、福島第1原発事故の国会事故調査委員会の委員も務め、規制委では海外規制当局との協力強化などを担当してきた。
 
日本と米国の違い
日本では現状、内閣府が防災・避難計画を所管し、各周辺自治体が策定している。規制委は策定において技術的サポートを行っているものの、原発の運転を許可する際の審査対象にはしていない。規制委の審査が最も進んでいる九州電力・川内原発周辺自治体の避難計画を含め、その実効性には専門家や住民などから多くの不備、不安が指摘され、「自治体へ実質丸投げ」の弊害として問題視されている。
 
避難計画の実効性を高めるには何が必要かとの記者団の問いに対し、大島氏は次のように答えた。
 
「米国では、原子力災害に限らず竜巻など自然災害も含めて所管しているFEMA(米連邦緊急事態管理庁)という組織があり、NRC(米原子力規制委員会)と協力しながら、自治体が策定する避難計画に相当突っ込んで関与して支援している
 
日本版「FEMA」の設立を提言
大島氏は、「米国では一歩進んで、(原発運転の)ライセンスを出すときに、その避難計画が訓練も含めてきちんと行われることをFEMAと協力して確認する。そういう米国のやり方と比べると、日本は確かに(腰が)引けている」とも述べた。
 
そして、「日本でも規制委が(避難計画の)指針を作っているが、国のあり方とすれば、もっともっと突っ込んで関与したほうがいいのではないかと思う。“日本版FEMA”のような組織をつくってプロが関与していくことが、原子力災害だけでなく、今後激甚化が予想される自然災害、複合災害への対応としても必要ではないか。今やっても遅くはない」と、新組織の立ち上げを提言した。
 
原子力施設の安全性向上に必要な条件を、大島氏は3輪車にたとえる。前輪が「規制基準」、後輪が「事業者の安全文化」と「防災・避難計画」の2つだ。同様に、田中俊一委員長もかねてより「規制基準と防災は車の両輪」と表現し、防災・避難計画の重要性は強調しているものの、現状の法体系上、避難計画の実効性を評価する立場にはないとしてきた。
だが、米国を参考に現状の仕組み自体を見直すべきとする大島氏の発言は、規制委委員としての経験を踏まえたものだけに、重く受け止める必要があるだろう。