2014年9月17日水曜日

原発ゼロ1年 エネルギー消費半減の新本社ビル

 小田原市にある老舗かまぼこメーカー「鈴廣かまぼこ」は、この3年間で自社のレストランなどに太陽光発電システムや太陽熱湯沸かし器、地中熱と井戸水を使って空気を冷やしたり暖めたりできる設備を導入し年間のガス使用量半減させました。
 また今秋着工する新本社ビルは徹底した省エネ設備で、従来型の建築物と比べ54%もエネルギー消費が少ないビルになります。井戸水を利用した空調システムの効果が大きいということです
 
 鈴木副社長は、震災翌年の2012年に全国の中小企業経営者と「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(エネ経会議)を立ち上げました。当初は120社ほどでしたが、わずか2年で400社を超えました
 
 地元の小田原市では、メガソーラー(大規模太陽光発電所)を中核事業にした「ほうとくエネルギー株式会社」を設立し1口10万円で1億円分の市民ファンドを募ったところわずか2カ月で集まりました。電力を地域で生み出す同様の取り組みは全国に40ほどあるということです
 
 省エネ化や太陽光発電は地域で着実に進んでいます。
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原発ゼロ1年(下) 新たな価値観の時代へ
   鈴廣かまぼこ・鈴木悌介さん
神奈川新聞 2014年9月15日
 国内で稼働している原発がゼロとなって丸1年。原発に頼ることなく地域で自立したエネルギー環境を築こうと取り組む中小企業が小田原市にある。来年で創業150年を迎える老舗かまぼこメーカー「鈴廣かまぼこ」。同社グループの鈴木悌介副社長は、日本の未来は地域が鍵を握っているとみている。
 
 「いま原発が必要だと言っている人は、これからもツケで酒を飲もうとしているのと同じ」。率直な物言いは、こう続く。「脱原発だ、電力は余っている、言うだけでは何も変わらない。私は地域の中小企業経営者として、できることを考え、地域でやれることをやる」
 この3年間で自社のレストランなどに太陽光発電システムや太陽熱湯沸かし器、地中熱と井戸水を使って空気を冷やしたり暖めたりできる設備を導入した。「冬場は外気を地中熱に当ててから暖房に使う。夏場は外気を井戸水に通すだけで35度の外気が22~23度にはなる。太陽熱湯沸かし器では夏は水を90度近くまで熱くすることができる」。結果、年間のガス使用量は半減したという。
 
 今秋着工の新本社ビルは徹底した省エネ設備で、従来型の建築物と比べ54%もエネルギー消費が少ないビルになった。井戸水を利用した空調システムの効果が大きいという。
 「こうした節電の知恵はまだまだいくらでもあると思う。構造や仕組みは原発とは比べものにならないほど単純。大量生産できれば格段に初期投資は安くなる」。鈴木はこれを新しいビジネスチャンスと捉えている。「ただ、現状は原発がどうなるのか息を潜めて見据えている中小企業が大半だ。動きだせば一気に拡大するのだが」
 鈴木は震災翌年の2012年に全国の中小企業経営者と「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」(エネ経会議)を立ち上げた。当初は120社ほどだったが、わずか2年で400社を超えた。
 地元の小田原市では、メガソーラー(大規模太陽光発電所)を中核事業にした「ほうとくエネルギー株式会社」を設立した。地元の中小企業50社が出資。1口10万円で1億円分の市民ファンドを募ったところ、わずか2カ月で集まった。「驚くことに1億円のうち半分は県内の出資者。そのうちの半分は小田原市内からだった」。地元市民の意識の高さに目を見張った。
 電力を地域で生み出す同様の取り組みは全国に40ほどあるという。
 一企業として、多額の投資を重ね、自身も全国を奔走する。なぜここまで取り組むのか。
 「食べ物を仕事にしているからだろうか。人の体の内と外とは、どこに境目があるのか、と考えるようになった」。思い返すように切り出した。「体はすべて食べたものでできている。であれば、その境目をつくっているのは人の意識でしかない」
 そして、この店も建物も未来から借りているにすぎない、と鈴木さんは考える。そうであるなら、自分たちのふるさとをどう次世代に残し、バトンを手渡していくのかを考えるのが、いまを生きる者の責任ではないか。「答えはおのずと出る。福島の今をみれば、原発という選択肢はない」
 そして企業経営者として日本のいまをみる。「日本の経済は壮年から老年へと向かっている。今更、老体にむち打って再び全力疾走しようとすれば無理が出る。経済が高度成長するような時代は終わったんだということを直視しなければいけない」
 そしてその先へ目を向ける。「お金ではない豊かさや幸せに新しい価値を見いだす時代がやってくる。そこに未来がある」
 
◆「今後もゼロ続けられる」
 子どもの手を引く母親、楽器を抱えた若者、家族連れにカップルに笑顔があふれる。14日、藤沢市内で行われた「原発ゼロ1年を祝おう」というパレード。集まった約250人(主催者発表)は、それぞれに原発の必要性に思いをめぐらせた。
 東日本大震災から3年半余り。声高に脱原発を口にする人はずいぶんと減った。風化といわれればそうかもしれない。だが、「1年間ゼロでやってこられたんだから続けられるはず」。ベビーカーを押す母親は仲間と歩き、その思いを強くした。
 
 イベントを企画した市民グループ「イマジン湘南」の代表、古屋賢悟さん(44)は「東日本大震災が起き、原発が大変なことになり、やはり原発は良くないと多くの人たちと一緒に声を上げてきた。小さな声を集めたその力のおかげで、原発ゼロで丸1年を迎えることができた。これからも問いかけていきたい」と話す。
 3・11以降、デモや勉強会を開き、原発の問題を発信してきた。自身が経営する飲食店では食材にこだわったほうとうが自慢の一品だ。自ら畑を耕し、安心して提供できる野菜を使っている。「土の上に立ち、手間をかけて作物を育てれば、命の大切さに気付く。原発はその対極にある。稼働がゼロになっても江戸時代になんか戻らない。それが分かれば、原発のない未来を僕らは選択することができる」
 
 鹿児島県の九州電力川内原発が再稼働に向け手続きが進む。原子力規制委員会の審査も通過した。
 都内在住で、ベビーカーを押しながら2人の子どもとパレードの列に加わった女性(34)は「初めてデモに参加したけど思ったより楽しかった。同じ気持ちの人がこんなに大勢いて、沿道から手を振ってくれる人もたくさんいた。危険な原発がすべて止まり、なおかつ電気が足りているならもういらないと感じてきたが、子どもたちに原発のない未来を残したいとあらためて思えた」と話した。
 
すずき・ていすけ 県立湘南高校卒、上智大経済学部卒。1981年に米国でかまぼこ普及のための現地法人を設立し10年間経営。2000年度、01年度小田原箱根商工会議所青年部会長、03年度日本商工会議所青年部会長、13年から小田原箱根商工会議所会頭。58歳。