原発の電気料金を優遇する経産省の政策に対し、東京新聞、愛媛新聞などに続いて宮崎日日新聞も、26日、それは脱「原発依存」の方針に反するものでおかしいとする社説を掲げました。
経産省の方針は、原発の発電コストが割高であることを認めたものであり、原発の建設や使用済み核燃料の処分、廃炉などに巨額の費用がかかり、さらに立地地域に投入される交付金や、事故に備えたコストなどを合算すると、原子力発電が経済的に成り立たないことは明らかであると述べています。
26日の京都新聞も同趣旨の社説を載せました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説)原発支援策 脱「依存」の方針と逆方向だ
宮崎日日新聞 2014年9月26日
政府は2016年の電力小売りの全面自由化に向けて、電力会社が原発で発電した電気に一定の価格を保証する制度を検討している。原発を特別に支援する仕組みで、政府の脱原発依存の方針と矛盾する上に、原発の発電コストが割高であることを認めた形だ。折しも東京では川内原発の再稼働をめぐって大規模な反対運動があった。事故時の避難計画の実効性を懸念する声は強く、直線距離で約50キロしか離れていない本県でも政府の支援策には無関心でいられない。
消費者に新たな負担
経済産業省は、原発政策を議論する有識者会議で「基準価格」という制度を提案した。廃炉や使用済み燃料の処分などを含む原発の発電コストに基づき、電気料金の基準価格を定める。市場価格が基準価格を下回った場合は、差額を消費者が払う電気料金に上乗せすることを認める。逆に上回った場合は、消費者に差額を還元する。
基準価格は政府と電力会社が決める。原発の発電コストが高くなっても電力会社は損を出さない。
16年以降の電力自由化で、大手電力会社以外の異業種からの新規参入が進めば、電気料金の値下がりが期待できる。そうなれば、原発の建設や使用済み核燃料の処分、廃炉などに巨額の費用がかかる原子力エネルギーは、コスト面で立ちゆかなくなる恐れがある。電力会社は原発の維持が難しくなると訴えており、基準価格はこの事態を回避するのが狙いだ。
経産省は同時に、原発の廃炉による経営への影響を緩和するための新たな制度も検討している。実現すれば、電力会社は安心して原発を稼働でき、原発の新増設や建て替えもしやすくなる。しかし、なぜ消費者に新たな負担を強いてまで、原発への手厚い優遇措置を導入しようとするのだろうか。
膨大なコストは明白
政府が4月に閣議決定したエネルギー基本計画は「原発依存度は、省エネルギー・再生可能エネルギーの導入などで可能な限り低減させる」と明記している。だが基準価格などの制度は逆方向だ。
立地地域に投入される交付金や、事故に備えたコスト、使用済み核燃料の処分や廃炉のコストを考慮すると、原発は火力発電などに比べてむしろ割高だといわれてきた。政府はそれを自ら認めたといえる。過酷事故が起きた後の事故処理や賠償などの膨大なコストを考えると、原子力発電が経済的に成り立たないことは明らかだ。
原発維持を前提として特別扱いするのは、電力自由化を否定するものであり時代に逆行している。
九州電力が再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度に基づく契約の受け付けを25日から中断し、県内では事業者や推進する自治体から困惑の声が上がる。九電は川内原発とは「関連性はない」と強調するが、自然エネルギーの普及に水を差し、結果として原発依存に回帰しないか注視したい。
国の原発優遇案 自由化の流れゆがめる
京都新聞 2014年09月26日
原発を優遇し、将来に向けて維持していこうとする政府の姿勢があからさまになってきた。
電力の完全自由化後も電力会社が原発の新増設や建て替えを容易にできるよう、発電した電気に一定の価格を保証する制度の導入を経済産業省が提案し、総合資源エネルギー調査会原子力小委員会で議論している。
だが、価格保証は料金競争を促す自由化の趣旨に反するだけでなく、「原発は安価」としてきた従来の政府の見解とも矛盾する。原発をなぜ特別扱いするのか、納得のいく説明をすべきだ。
電力会社は発電費用を電気料金に転嫁させる総括原価方式と地域独占の制度に守られ、原発に必要なコストを回収してきた。しかし2016年度に予定される電力小売りの完全自由化で地域独占は失われ、将来は総括原価方式も撤廃される。
そうなれば、電気の市場価格が下がり、廃炉や建て替えなど原発関連の巨額投資を電力会社が回収できなくなる可能性がある。このため原発を保有する電力会社が新しい支援制度の整備を要請し、経産省が応じる形となった。
経産省によると、廃炉や使用済み核燃料の処分に必要な費用を含む基準価格を設定し、自由化が進んで市場価格が下回った場合、差額を電気料金に上乗せするなどして補うという。
だが、電力システム改革は大手電力の地域独占をなくし、料金競争を促すのが目的のはずだ。原発による電気を価格保証することになれば、公平な競争を妨げ、消費者に新たな負担を強いることになる。国民的な議論と合意なしに進められる問題ではない。
そもそもエネルギー基本計画は原発依存度を可能な限り低減させるとし、小渕優子経産相も就任後にそう明言している。その基本方針とも整合性がとれない。
「発電コストが安い」という原発の優位性は、既に過去のものとなりつつある。米国の実績のあるエネルギー問題調査機関によると、福島第1原発事故後の安全規制強化などで原発の発電コストは、世界的には太陽光発電とほぼ同レベルになっている。
安全性に加え、こうしたコストの変化にも目配りするなら、原発に固執しなければならない特別な理由はないはずだ。国民世論の多数は脱原発である。少なくとも原発に肩入れし、自由化が進む電力市場をゆがめるようなことはすべきでない。