NHK NEWS WEB 2015年2月28日
東京電力福島第一原子力発電所の事故では、緊急時の作業員の被ばく線量の上限の値が急きょ引き上げられるなど、対応の不備が指摘されました。
この問題を話し合うシンポジウムが28日東京で開かれ、上限の引き上げや事前の同意の必要性について意見が交わされました。
4年前の原発事故では、当初100ミリシーベルトとしていた緊急時の被ばく限度が収束作業に支障が出るとして、事故の3日後、急きょ250ミリシーベルトに引き上げられました。
事故の6日後、政府はさらに国際機関が推奨している500ミリシーベルトへの引き上げを検討しましたが、事故対応に当たった防衛省や警察庁からも反対の声が上がり、見送られました。
シンポジウムは放射線防護の専門家で作る日本保健物理学会が開き、東京電力の担当者は、174人が100ミリシーベルトを超え、250ミリシーベルトを超えた作業員も6人いたことを報告し、「引き上げがなければ作業はより難しかった」と話しました。
パネリストからは、「国際的な基準に合わせるべきだ」といった意見の一方、「250ミリシーベルトも500ミリシーベルトも医学的な根拠となるデータが少なく、納得が得られるか疑問だ」といった意見も出されました。
また、数字の議論だけでなく、事前に同意を得ることや、長期的な健康調査も重要な検討事項だという指摘が出されていました。
作業員の被ばく限度について原子力規制委員会は、250ミリシーベルトへの引き上げを軸に、事前の意思確認や教育などを事業者に求めていく方向で検討することにしています。
一方で、上限の引き上げについては労働者団体などが反対しているほか、厚生労働省が慎重な姿勢を見せています。
原発事故以降、廃炉現場での被ばく対策を求めるなど、作業員の支援をしている東京労働安全衛生センターの飯田勝泰事務局長は、「被ばくを余儀なくされる人たちが生涯背負う健康リスクに誰が責任を負うのか、その後に生じるさまざまな問題に対してどれだけサポートや補償などがあるかを含めて、当事者を交えて議論すべきだ」と訴えています。
原子力規制委の議論と国際基準
原発事故に対応する作業員の緊急時の被ばく限度について、原子力規制委員会は「今の上限を超える事故が起きる可能性を完全には否定できない」として、去年見直し作業を始めました。
原子力規制庁のまとめによりますと、各国の放射線の専門家で作るICRP=国際放射線防護委員会の勧告では、原発事故に対応する作業員の被ばく線量の上限は、500ミリシーベルトまたは1000ミリシーベルトを目安にして、それ未満に保つよう努力するべきだとされています。
その理由として、500または1000ミリシーベルト未満ならば、骨髄機能の抑制による吐き気やおう吐などの症状を防げることが挙げられています。
福島第一原発の事故で特例として適用された250ミリシーベルトについては、一度にこれを超える被ばくをすると、血液中の白血球が一時的に減少する可能性があるとされ、それ未満だと急性の臨床症状は見られないとされています。
一方、被ばくによる影響には、急性症状だけでなく発がんリスクの増加もあります。
ICRPによりますと、短い間に1000ミリシーベルトを浴びるとがんで死亡するリスクが10%増加し、500ミリシーベルトで5%、250ミリシーベルトでは2.5%増加するとしています。
こうしたことを踏まえて、規制委員会の田中俊一委員長は「諸外国の状況からすると、250ミリシーベルトはだいたい真ん中ぐらいだ。原発の事故の経験を踏まえ、それぐらいに設定しておくのがよいのではないか」と述べ、規制委員会は、250ミリシーベルトへの引き上げを軸に検討を進めることにしています。
ICRPの勧告では、電力会社が作業員に被ばくによる健康への影響を事前に伝えたうえで同意を得ることや、被ばくを防ぐ教育や訓練を行うことが前提だとされ、規制委員会も、事前の意思確認や教育などを事業者に求めていく方向で検討することにしています。