2018年4月2日月曜日

02- 福島原発事故集団訴訟7件の地裁判決を整理すると

 福島原発事故を巡集団訴訟はこの1年間で7件の地裁判決が言い渡され、いずれも避難の有無や形態を問わずに賠償の上乗せを認めました。
 河北新報が、これまでの7件の判決を、自主避難の合理性古里喪失慰謝料避難関係ない賠償東電の過失国の過失・責任などで整理して示しました。
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異なる判断基準...『慰謝料に差』 原発事故集団訴訟・判決7件
河北新報 2018年4月1日
 東京電力福島第1原発事故を巡り、県民らが東電や国に損害賠償を求めた集団訴訟は、この1年間で7件の地裁判決が言い渡された。避難の有無や形態を問わずにいずれも賠償の上乗せを認めた。全国で提訴されている同種訴訟は約30件に上るが、結審済みの訴訟は全て判決が出そろっており、慰謝料算定の大枠を定めた国の中間指針を超える被害救済が、民事訴訟の上では定着したと言える。賠償の裾野が拡大した一方、各裁判所で判断の基準が違うため、認めた慰謝料に差が出た。各地で控訴も続き、司法の判断が整うまでにはまだ時間を要しそうだ。

 各訴訟では主に、東電が国の中間指針に基づいて支払ってきた賠償の妥当性と、事故を巡る東電、国の過失の有無が争われた。2月に判決が言い渡された東京地裁、3月の地裁いわき支部の訴訟は東電だけが被告。2月の東京訴訟は東電の過失を争点とせず、賠償の妥当性だけを争った。

自主避難の合理性
 前橋、千葉、京都、東京(3月)の各地裁は、当事者の個別事情に照らして自主避難に合理性を認め、賠償の上乗せを命じた。このうち京都、東京の両地裁は、2011(平成23)年12月に政府が出した福島第1原発の「冷温停止宣言」などを基準に賠償の期限を設けたが、慰謝料を認める期間は判断が分かれた。

 両地裁は、避難区域を除く地域で放射線量が落ち着き、社会的な混乱がある程度収まった時期を考慮して賠償の期限を設定したとみられる。両地裁は合理性を認める自主避難の期間を区切ることで県内で生活する安全性を保証し、自主避難者への救済が無制限ではないとの見解も示した形だ。

古里喪失慰謝料
 古里での生活を根こそぎ破壊されたとして、避難区域の住民が中心となって請求した。千葉地裁は避難区域だけでなく第1原発から半径20~30キロ圏内の住民にも古里喪失慰謝料を認めた東京地裁(2月)と地裁いわき支部は、古里喪失慰謝料と避難生活に伴う慰謝料を合算して賠償額を算出。各地裁の認定にはばらつきがあり、今後は算定基準や根拠の妥当性が議論を呼びそうだ。福島地裁は「すでに支払われた賠償で十分」として、古里喪失慰謝料を認めていない。

避難関係ない賠償
 昨年10月の福島地裁判決は、「放射線や将来への不安、避難するかどうかを判断する難しさは賠償を考慮する事情になり得る」と指摘し事故当時の居住地の放射線量に応じて慰謝料を上乗せした。居住地の放射線量を判断の根拠としたことで、避難の有無や第1原発からの距離に関係なく、継続的な精神的賠償の対象外だった住民にも慰謝料を認めた。会津は事故後も放射線量が一貫して低かったとして賠償を認めなかった。

東電の賠償の根拠
 東電が事故に対する賠償を支払う根拠は「原子力損害賠償法」(原賠法)にある。原賠法は民法の特例法で、事故を巡る過失の有無に関わらず、有事の際の原子力事業者の賠償責任を規定している。東電は原賠法で賠償責任を負い、国の中間指針などに基づいて慰謝料を算出、支払ってきた。

 福島第1原発事故を巡る大半の民事訴訟で原告が求めたのは、この特例法に基づく賠償ではなく、当事者の過失を前提にした民法による救済だ。原告は事故を巡る東電の過失を主張し司法に過失の判断と賠償の上乗せを求めてきた。民法の適用が除外された場合は、原賠法と中間指針に基づく既存の賠償額の妥当性について判断を求める構図だ。

東電の過失
 原発事故の過失を巡っては、原告に〈1〉東電が第1原発を襲う大津波の発生を予測できた(予見可能性)〈2〉その上で津波対策に不備があった(結果回避義務違反)―の立証が求められる。前橋、福島、京都、東京(3月)の各地裁は、02年に政府が出した津波地震に関する見解(長期評価)などを基に津波の予見可能性、対策の不備を認定したが、「故意といえるほどの重過失は認められない」として民法での請求を棄却した。

 千葉地裁と地裁いわき支部は津波の予見可能性は認めたが、対策の不備については認めなかったり、判断を示さず、東電に重過失はないと結論づけた。津波対策の不備については考えが分かれているが、東電が事故前に大津波の到来を予測できたとの見解は各地裁で一致している。七つの判決はいずれも、結果的に原賠法と中間指針に基づく賠償の妥当性を判断し、現状の慰謝料だけでは支払いが不十分と指摘した格好だ。

国の責任
 前橋、福島、京都、東京(3月)の各地裁は「国が規制権限を行使して東電に対策を取らせていれば原発事故は防げた」などとして原発事故を巡る国の過失を認定。国家賠償法に基づき、国にも賠償を命じた。千葉地裁は、当時の知見では津波の危険性への対処は優先度が低かったなどとして、国の過失を否定した。