2018年4月18日水曜日

再処理工場「改善」は本物なのか 規制委が厳しく問い詰める

 産経新聞の「原発最前線」は、断続的に原発関連のテーマを取り上げて深堀りするコーナーです。
 六ヶ所村の再処理工場再稼働に向けて審査中の去年8月、非常用発電機が入る建屋に雨水が流れ込んでいるのが見つかり、並行して長年必要な点検を怠っていたことが明らかになったため、原子力規制委は審査を中断しました。
 再処理工場を運営する日本原燃は4月4日、安全対策の見直しにめどが立ったと原子力規制委に報告し、半年間にわたり中断していた再稼働のための審査を再開することになりました。
 
 今回は、説明のために4月4日の定例会合に出席した日本原燃の社長と規制委の攻防を取り上げました。
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【原発最前線】
再処理工場「改善」は本物なのか 原燃に辛辣な規制委
産経新聞 2018年4月17日
 「日本原燃はトラブルの度に管理体制の見直しを言ってきたが、今回はどう違うのか」。4月4日、使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)などの施設の「保守管理状況が改善した」と説明する日本原燃の幹部に対し、原子力規制委員会の定例会合で厳しい声が浴びせられた。長年の点検漏れが昨年発覚し、審査が中断されていた再処理工場。この場で審査再開を求めた原燃の「改善」の内実が問われることになる。(社会部編集委員 鵜野光博)
 
ずさん管理、相次ぎ発覚
 昨年8月、再処理工場の非常用電源建屋に約800リットルの雨水が流入するトラブルがあり、流入部が確認できる点検口が平成15年の設置以来、14年間一度も開けられていなかったことが発覚。巡視・点検日誌には「異常なし」と記入されており、規制委から保安規定違反とされた
 ウラン濃縮工場(同村)でも点検漏れなどずさんな管理が明らかになり、原燃の工藤健二社長は10月、「核燃料を扱う企業として、プラント全体の把握が不足していた」として、審査対応を中断して所有施設の総点検を行うことを規制委の会合で表明していた。
 
 今年4月4日の会合で工藤社長は、屋内外の全設備を把握し状態を確認する「全数把握活動」の中で、安全上重要な設備について確認を終了したと報告。雨水が流入する建屋貫通部を再調査し、非常用電源建屋への流入の原因分析も完了したと総括した。その上で、「改善活動は着実に進んでいると実感している。この状況を踏まえ、これまで保留していた再処理事業などの補正申請を準備ができ次第提出し、審査の再開をお願いしたい」と要望した。
 これに対し、規制委の山中伸介委員が浴びせたのが冒頭の発言だった。
 
やったことは「基本の『き』」
 再処理工場は当初9年の完成予定だったが、相次ぐトラブルや新規制基準適合のため、計23回にわたって完成が延期されてきた。現在の目標は33年度上半期だ。
 山中氏は「この十数年間、私自身、原燃がトラブルを起こす度にいろんな委員会で意見を述べたが、一向にトラブルがなくならない現状を非常に残念に思っている。今回の見直しや改善が、これまでとどう根本的に違うのか理解できなかったので、具体的に説明をお願いしたい」と迫った。
 
 工藤氏は「さまざまなトラブルがなかなか減らないことを申し訳なく思っている」と謝罪した後、「全数把握が極めて大きかった」と強調した。「再処理事業部1600人のうち半数が全数把握に携わり、保全というのは設備をすべて網羅的に把握することがすべての出発点なのだという認識を改めて得た」という。
 
 また、勝野哲会長(中部電力社長)は、電気事業連合会長としての立場から、昨年末に電力会社などから経験者を20人、今年に入って保守管理業務の強化のため課長10人と部長クラス3人を原燃に送り込んだと説明。「経験豊かな者を配置したので、実務レベルが上がっていくところを把握していきたい」と述べた。
 
 伴信彦委員は「今回、施設・設備を徹底的に点検されたこと自体は基本の『き』であり、非常に重要なことではあると思う」と述べた上で、「目に見えない組織のあり方や安全文化の問題をどこまで掘り下げることができたのか」と質問。工藤氏は「現場の『気づく力が弱い』といった問題を、経営層が気づかずにしっかりした手を打てなかったことが大反省としてある」などと説明した。
 
「あきれたトラブル」なくせるか
 更田(ふけた)豊志委員長は「あきれてしまうような要因によるトラブルが繰り返されないことが最も重要だ」と指摘。「今回の改善に向けた取り組みは、規制以前の問題を多く含んでいる。非常に重要な施設の隣の部屋に水がたまっているのに気づかない、見ていたのは別の部屋だったというたぐいのことが繰り返されると、実施主体としての疑いを招いてしまう」と述べた。
 
 「実施主体としての疑い」という言葉は、やはりトラブル続きだった高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を想起させる。規制委は平成27年、日本原子力研究開発機構にもんじゅを運営する資格がないとして、運営主体を変更するよう文部科学相に勧告。政府は28年12月に廃炉を決定した。使用済み核燃料から再利用可能なウランやプルトニウムを取り出す再処理工場は、もんじゅと同様に核燃料サイクル政策の重要施設であるだけに、規制委の信頼を失うことは原燃にとって致命傷となる。
 規制委から審査再開を了承された後、工藤社長は報道陣から「本当にトラブルを繰り返さない自信があるのか」と問われ、「従来の取り組みとは違う現場本位の意識改革ができた」と強調する一方で、「その意識が現場の一人一人に本当に染み込んでいくのは時間がかかると思う」とも述べた。粘り強い日々の取り組みでしか、原燃の信頼を回復させる道はない。
 
日本原燃 核燃料サイクルの商業利用を目的に設立された株式会社で、本社は青森県六ケ所村。主要株主は電力会社で構成。ウラン濃縮▽原発などから生じる使用済み核燃料の再処理▽高レベル放射性廃棄物などの一時保管▽低レベル放射性廃棄物の埋設▽混合酸化物(MOX)燃料の製造-などの事業を手がける。
 
使用済み核燃料再処理工場 使用済み核燃料から燃料となるウランとプルトニウムを取り出し、再び燃料にする施設。国内には茨城県東海村に日本原子力研究開発機構が運転している小規模なものがある。