2018年4月5日木曜日

原発30キロ圏内自治体の同意を再稼働の条件にする法制化を

 原発の稼働に立地自治体(と県)の同意が必要とされるのは事故時の被害が大きいからですが、福島原発の事故で明らかなように、被害は立地自治体に留まるものではありません。本来なら影響の及ぶ全自治体の同意が条件になるべきですが、それでは現状とは開きがありすぎます。
 福島原発の事故を契機に、緊急時の避難計画策定が義務付けられる自治体が半径10キロ圏内から30キロ圏内に拡大されたのですから、少なくとも30キロ圏内の自治体の同意を再稼働の条件にするというのが筋です。

 先に東海第2原発の再稼働に関し、水戸市など30キロ圏内の6市村と新たな安全協定を結び、立地自治体以外の5市と「実質的に事前了解を得る」ことを明記したことは、初の快挙ですが、本来そうあるべき極めて正当なことでした。

 毎日新聞は、この東海第2原発の件を機に政府は、原発30キロ圏内の自治体の意向を反映できる形で、同意手続きの法制化を進めるべきだとする社説を出しました。
 山陽新聞も同趣旨の社説を掲げています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説) 東海第2原発の新安全協定 「特殊事情」で片付けるな
毎日新聞 2018年4月4日
 日本原子力発電は、所有する東海第2原発(茨城県東海村)の再稼働に関し、水戸市など30キロ圏内の6市村と新たな安全協定を結んだ。
 立地する東海村に加え、周辺5市とも事前協議を重ね、「実質的に事前了解を得る」ことを明記した。
 6市村の意見が分かれた場合の対応をどうするかなど、実際の運用に不透明な点は残るものの、原発の再稼働手続きで周辺自治体の了解を盛り込んだ協定は全国で初めてだ。

 原発事故が起きれば、その影響は立地自治体にとどまらない。にもかかわらず、周辺自治体は再稼働の事前同意権を持たない。新協定を、そんな矛盾を全国的に見直すモデルと位置付けるべきだ。
 原発立地自治体は通常、他の自治体が同意権を持つことを嫌う。ところが、原電と周辺自治体の交渉は、東京電力福島第1原発事故後に脱原発に転じた前東海村長が、周辺自治体へ呼びかけたことで始まった
 福島第1原発事故後、国は事故に備えた住民の避難計画を策定する市町村を原発8~10キロ圏から30キロ圏に拡大した。東海第2原発の場合、全国最多の約96万人が住む。避難計画の策定は今も難航している。
 再稼働にこぎ着けるには、同意権を拡大した方が地元の理解を得やすいと、原電は判断したのだろう。

 電力会社や政府は、これを原電の特殊事情と片付けてはならない。
 新規制基準に基づき再稼働した原発は、3電力会社で計7基ある。いずれも地元同意の対象は原発が立地する市や町と県に限られた。同意権拡大は再稼働のハードルになると、電力会社は考えてきたはずだ。
 先月再稼働した九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)では、避難計画への懸念などから周辺4市が反対している。しかし、電力会社が周辺住民の声を無視すれば、国民の原発不信は拡大するばかりだ。

 世耕弘成経済産業相は安全協定について「国が関与する立場にない」と言うが、人ごとに過ぎる。
 エネルギー基本計画は再稼働の際に「国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む」と記している。政府は、原発30キロ圏内の自治体の意向を反映できる形で、同意手続きの法制化を進めるべきだ。


(社説) 原発の地元同意 対象地域の拡大は妥当だ
山陽新聞 2018年4月3日   
 日本原子力発電が、東海第2原発(茨城県東海村)の再稼働や運転延長に関して、東海村のほかに半径30キロ圏内の5市から事前同意を得るとする安全協定を結んだ。再稼働に向けた事前了解の対象を、立地自治体以外にまで広げるのは全国で初めてだ。
 5市には県庁所在地の水戸市が含まれ、30キロ圏内に住む人は約96万人と、全国の原発エリアでも最多となる。原発の安全性に不安を抱える周辺住民の意向を、これまでよりも広く反映できる点で見直しは評価できよう。

 福島の原発事故では、放射性物質が立地自治体を越えて拡散した。ひとたび事故が起きれば影響は広範囲に及ぶ。その教訓を踏まえ、緊急時の避難計画策定が義務付けられる自治体はそれまでの半径10キロ圏内から30キロ圏内に拡大され、該当する自治体は対応を余儀なくされた。
 一方で、30キロ圏内であっても再稼働に関しては意向を反映させることができず、蚊帳の外に置かれてきた。自治体や住民にとって納得し難い状況なのは明らかだ。

 今回、日本原電が新たな方式に踏み出した背景には、事実上唯一、再稼働の可能性がある東海第2原発を何としても再稼働につなげたい思惑があったとみられる。立地する東海村も周辺自治体に同意対象を広げるよう求めた。1市でも反対すれば再稼働ができなくなるリスクをとってでも、地元の反発を回避することを優先した格好だ。
 安全協定は、いわゆる紳士協定で法的拘束力はない。ただ、立地自治体の同意は事実上、再稼働の前提となっている。福島の事故後、原発周辺の自治体にも立地自治体並みの権限を求める動きが広がった。だが、再稼働のハードルを上げたくない電力会社の壁は厚いままだった。

 先月下旬に再稼働した九州電力玄海原発3号機(佐賀県)でも、30キロ圏内の8市町のうち4市の首長が運転再開に反対したが顧みられなかった。その後、蒸気漏れが起きて発電を停止するなど地域の不安は現実のものとなっている。
 中国地方では、島根原発(松江市)の30キロ圏内にある自治体が、再稼働の際の事前了解を求めてきたものの、実現していない。
 「地元」の範囲をどこまでとすべきなのか。今回の日本原電の判断を契機に、各電力会社は線引きの仕方を再検討し、地域の意向をより丁寧に反映するための仕組みづくりを進めてもらいたい。

 原子力政策を推し進める国の対応も問われよう。昨年、脱原発を求める各地の首長らでつくる「脱原発をめざす首長会議」が、再稼働に当たっては30キロ圏内の自治体の同意を必要とする法整備を政府に求める決議を採択した。政府は原発再稼働に前のめりになるばかりでなく、地域住民の不安に応えられるようなルールの在り方を、電力会社任せにせず検討すべきだ。