2014年8月11日月曜日

原発避難先 受け入れ計画策定自治体 13%

 原発事故時に周辺住民の避難先となっている市町村のうち、具体的な受け入れ計画を策定した自治体は13%にとどまることが、毎日新聞の調査で分かりました
 6~7月、全国16原発の周辺自治体住民の避難先になっている25道府県362市町村を対象にアンケートを行った結果、受け入れ計画を「策定した」と答えたのは47市町村13%)で、93市町村が「策定中」、179市町村が「策定していない」という回答でした。遅れの要因としては、「県や避難元との調整に時間を要する」というのが目立ちますが、中には「人口の43%もの避難受け入れは現実的に不可能に近い」(新潟県加茂市)との意見もあったということです
 
 国の原子力災害対策指針が避難者の受け入れ計画については策定していないことと、避難先は各道府県や関西広域連合の主導で決めケースが多く、市町村の関与が薄いことが一因とみられています
 
 原発事故の住民避難に詳しい識者は、「福島第1原発事故では避難者が受け入れ先で長期滞在を強いられた。受け入れ計画とセットになっていない避難計画は単なる市町村同士の割り当てに過ぎず、机上の空論だ」と指摘しています。
 
 それとは別に京都新聞は社説で、原発30キロ圏の緊急時防護措置準備区域(UPZ)にある全国135市町村のうち、5月末までに約6割の83自治体が避難計画の策定を終えたものの、総じて机上プランの域を出ず、病院や福祉施設の避難計画も思うように進んでいないとしています。

 そして京都府と滋賀県は福井県の原発事故時、京都府内5市2町の約12万8千人が兵庫県と徳島県へ、滋賀県内2市の約5万7千人が大阪府へ逃げる計画ですが、府の場合避難に必要なバス1350台を確保するめどが立たず、避難の際に不可欠なスクリーニング(汚染検査)をどうするかも決まっていないことを取り上げて、このように穴だらけの計画で住民の安全を置き去りにしたまま、再稼働を急ぐことは許されないと述べています。
 
 さらに米国では防災計画に実効性がなければ、稼働が認められないことを例に、日本も避難計画の作成と実効性の確保を再稼働の条件とすべきであり、国が責任を負うべきだと主張しています。
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原発避難先自治体:受け入れ計画策定市町村 わずか13%
毎日新聞 2014年8月10日
 原発事故時に周辺住民の避難先となっている市町村のうち、具体的な受け入れ計画を策定した自治体は13%にとどまることが、毎日新聞の全国調査で分かった。原発から30キロ圏内の市町村の6割は避難経路や手段などを定めた避難計画を策定しているが、避難元に比べて避難先の受け入れ態勢が整っておらず、混乱を招きかねない現状が浮き彫りになった。避難受け入れ計画の策定状況は国も把握しておらず、実態が明らかになるのは初めて。
 
 毎日新聞は6〜7月、全国16原発の周辺自治体が策定した避難計画で、住民の避難先になっている25道府県362市町村を対象にアンケートを実施。333市町村から回答を得た(回収率92%)。
 
 受け入れ計画を「策定した」と答えたのは47市町村で、全体の13%に過ぎない。93市町村が「策定中」、179市町村が「策定していない」と答えた。遅れの要因としては、「県や避難元との調整に時間を要する」という市町村が目立つが、中には「人口の43%もの避難受け入れは現実的に不可能に近い」(新潟県加茂市)との意見もあった。
 
 北海道電力泊(北海道)▽東北電力東通(青森県)▽関西電力美浜など福井県内の4原発(30キロ圏が重なるため同一地域として集計)▽中国電力島根(島根県)▽四国電力伊方(愛媛県)▽九州電力玄海(佐賀県)▽同川内(せんだい)(鹿児島県)−−の計10原発では、30キロ圏内の全市町村が避難計画の策定を終えている。しかし、これらの市町村からの避難受け入れ計画を策定したのは、泊0%▽東通33%▽福井4原発13%▽島根18%▽伊方5%▽玄海20%▽川内11%−−にとどまった。
 
 国の原子力災害対策指針は、30キロ圏内の市町村に避難計画の策定を求めているのに対し、受け入れ計画は策定の枠組みがなく、国の支援が受けられないことが背景にある。また避難先は各道府県や関西広域連合の主導で決めたケースが多く、市町村の関与が薄いことも一因とみられる。
 
 原発事故の住民避難に詳しい上岡直見・環境経済研究所代表は「福島第1原発事故では避難者が受け入れ先で長期滞在を強いられた。受け入れ計画とセットになっていない避難計画は単なる市町村同士の割り当てに過ぎず、机上の空論だ」と指摘する。【酒造唯、鳥井真平、斎藤有香】
原発事故時の避難住民受け入れ計画策定状況

      原発事故時の避難住民受け入れ計画策定状況


(社説) 原発避難計画  国は実効性に責任持て 
京都新聞 2014年8月10日
 原発事故を想定した住民避難計画の作成が周辺の自治体で進んでいるが、有効に働くかどうか心もとない限りだ。
 地域防災計画の策定が求められる原発から半径30キロ圏の緊急時防護措置準備区域(UPZ)にある全国135市町村のうち、5月末までに京都、滋賀を含む約6割の83自治体が避難計画の策定を終えた。だが、総じて机上プランの域を出ず、病院や福祉施設の避難計画も思うように進んでいない。
 原子力規制委員会は先月、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)について再稼働の前提となる事実上の審査合格を出した。さらに京都7市町と滋賀1市が30キロ圏にかかる関西電力高浜原発(福井県高浜町)も審査が進んでおり、2番手になる可能性がある。このまま再稼働すれば、住民の安全を確保できないまま、見切り発車になりかねない。
 忘れてならないのは、東京電力福島第1原発事故で、大量の放射性物質が拡散し、被ばくの危険にさらされた住民が避難をめぐり大混乱した経験だ。入院患者や施設入所者らの避難先が見つからず、長時間のバス移動や医療設備のない体育館への避難などで多数の死者を出した。
 その教訓を生かし、実効性のある避難計画にすることが何より求められている。住民の安全を置き去りにしたまま、再稼働を急ぐことは許されない。
 京滋の場合、福井県の原発事故を想定した関西広域連合の広域避難ガイドラインに沿って、京都府内5市2町の約12万8千人が兵庫県と徳島県へ、滋賀県内2市の約5万7千人が大阪府へ逃げる。避難所やルートも示し、5キロ圏内は自家用車、30キロ圏内はバスなどで集団避難するとしている。府は風向きなどに応じて、府内への避難も行う計画だ。
 だが府の場合、避難に必要なバス1350台を確保するめどが立っていない。自家用車を使えば大渋滞が予想され、その対策や、避難の際に不可欠なスクリーニング(汚染検査)をどうするかもこれからだ。また30キロ圏内の入院患者や施設入所者、在宅の高齢者ら援護の要る約5千人の避難先は決めたが、移動方法など具体的な計画は各施設が詰めなければならない。
 問題は、避難計画が原発運転の必要条件となっていないために、穴だらけの計画でも再稼働が可能になることだ。規制委は新しい規制基準に設備が適合するかどうかを審査するに過ぎない。これに釈然としない住民は多いはずだ。米国では防災計画に実効性がなければ、稼働が認められない。住民の安全を第一に考えるなら当然ではないか。
 政府は新規制基準に適合した原発を順次再稼働させる方針だが、避難計画の作成と実効性の確保を再稼働の条件とすべきだ。でなければ住民軽視と言われても仕方がない。「安全神話」を復活させてはならない。
 福島の経験を踏まえ、30キロ圏を超えて被害が広がった場合の対策も考えておく必要がある。国はそのケースについても指針を示し、自治体の避難計画に反映させるべきだろう。