環境省は1日、除染目標を、これまでの空間線量率:毎時0.23マイクロシーベルトではなくて、毎時0.3~0.6マイクロシーベルトに変更するという中間報告をまとめ、福島市、郡山市、相馬市、伊達市の4市の市長との会合で発表しました。
この突然の変更は、多額な費用をかけながらも除染の効果が十分にあがらないことを受け、上記の4市が今年4月、環境省と会合を持ち、「毎時0・23マイクロシーベルト」を見直すよう要望したことがきっかけでした。4つの市はそれにより除染への出費を抑えて、復興予算を他の分野に振り向けたいとしたのでした。
しかし毎時0・6マイクロシーベルトという数値は、3カ月間で1・3ミリシーベルト(年間5・2ミリシーベルト)でまさに「放射線管理区域」に相当するレベルですから、そんな便宜的な理由で容認されるようなものではありません。
もともと0・23マイクロシーベルトという基準値も、「1日のうち屋外で8時間、屋内で16時間過ごす」「家屋の遮蔽効果で屋内の線量は屋外の0.4倍」になる、というような仮定から誘導したものでした。それを今度は伊達市などでの個人線量計=ガラスバッチによる実測結果を前提にして、更に倍以上の値に上げようというものです。
一体、空間線量率:毎時0・6マイクロシーベルト(年間5・2ミリシーベルト)がなぜ年間被曝量1ミリシーベルトに相当するのか、その関係が一向に明らかでありません。
実際、東京新聞が以前に実測したところ屋外と屋内で線量に殆ど差がなかったという事例や、個人線量計による実測結果が予期したほど減量していなかったという情報が、これまで報じられています。
OurPlanet-TVは、環境省が、伊達市などが実施していたガラスバッチの計測により、「毎時0.3から0.6マイクロシーベルト」の地域の平均的な年間追加被曝線量が1ミリシーベルト程度になったと述べたことに対して、検出下限の高いガラスバッチは公衆の被爆線量を計測するにはふさわしくない、とメーカーが述べていると指摘しています。
またNPO子ども全国ネットワークは、1日、「個人被ばく線量に基づいた除染目安に関する抗議声明」を発表しました。
そこでは、中間報告には何の法的根拠もないこと、子どもたちは放射線からできる限り防護するとしている「原発事故子ども・被災者支援法」に反すること、ガラスバッチによる被曝測定には限界があること、「場」の線量と「個人」線量を恣意的に混同させて数値をアップさせていることなどに対して、強い懸念が表明されています。
OurPlanet-TVの記事とNPO子ども全国ネットワークの抗議声明を紹介します。
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除染基準緩和〜空間線量から個人被ばく線量へ
OurPlanet-TV 2014年8月1日
東京電力福島第1原発事故に伴う除染の目標をめぐり、環境省は福島市など4つの市とともに、空間の放射線量より個人の被ばく線量を重視して除染を進めるとする中間報告をまとめた。環境省の井上信治副大臣が1日、福島県内の4市長らと会合を開いて発表した。
「毎時0.23マイクロシーベルトは目標ではない」
中間報告では、これまで年間1ミリシーベルトを達成するための指標とされてきた「毎時0.23マイクロシーベルト」は、除染目標や除染直後に達成すべき空間線量両立の目安ではなく、あくまでも「汚染状況重点調査地域を指定する際の基準」であると説明。伊達市などが実施していたガラスバッチの計測などを踏まえ、「空間線量率が毎時0.3から0.6マイクロシーベルト程度の地域に住む住民の平均的な年間追加被ばく線量は1ミリシーベルト程度になっている」として、空間線量より個人線量を重視する方針を示した。
今回の除染目標に関する見直しは、多額な費用をかけながらも除染の効果が十分にあがらないことを受け、福島市、郡山市、相馬市、伊達市の4つの市が今年4月、環境省と会合を持ち、「毎時0・23マイクロシーベルト」を見直すよう要望したことがきっかけだ。4市は環境省と会合を重ね、空間線量よりも被爆線量が低く計測される個人線量の実測値を用いることで除染目標を緩和し、復興予算を他の分野に振り向けるための地ならしに取り組んできた。
住民の不安解消に向けては、個人線量計の配布やリスクコミュニケーションの充実を進めていくとしている。会談後、井上環境副大臣は「福島県内のできるだけ多くの人に線量計を持ってもらい、データに基づいて防護対策を取りたい」と強調。記者から「福島県民全員に個人線量計をつけさせるのか」と追及されると、「できるだけ多くの方につけていただきたい」と否定せず、線量計の配布を増やす考えを示した。
国は2011年6月、年間の追加の被ばく線量が1ミリシーベルト以上、空間の放射線量に換算して1時間当たり0.23マイクロシーベルト以上の場所がある市町村を「汚染状況重点調査地域」に指定。国が直接、除染を行う「避難区域」とは異なり、国の手順に従って市町村が除染することにしている。同地域に指定されている岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県の計102の市町村のうち、今年の春までに除染が終了しているのは16市町村にすぎない。今回の除染目標見直しが、4市以外にどのような対応をするのかについて、環境省は明らかにしていない。
専門家「場の管理に個人線量は使えない」
個人線量をめぐっては、田村市や川内村などの避難指示解除をめぐり、内閣府の原子力被災者生活支援チームが去年8月以来、放射線医学研究所や日本原子力研究機構との協力のもと、空間線量率との関係について調査を実施。空間線量に0.7を乗ずることによって、大人の個人線量を推定することができると、今年3月に公表した。
しかし公表の際、子どもは大人よりも遮蔽効果が低く、空間線量からの推計とあまり変わらないことや個人線量は「場の管理」には利用できないことなどが言及されていた。また支援チームが調査に使用したのは、公衆被曝を計測するために開発された新型の線量計であるのに対し、環境省と4市がモデルに使用したのは、検出限界の高いガラスバッチ。ガラスバッチと新型線量計の双方を販売している千代田テクノルの担当者は、OurPlaneTVの取材に対し、ガラスバッチは公衆の被爆線量を計測するにはふさわしくないと回答している。
帰還の切り札「新型線量計」とは?〜被曝量を自己管理へ
個人被ばく線量に基づいた除染目安に関する抗議声明
特定非営利活動法人 子ども全国ネット 2014年8月1日
本日、環境省より公表された「市町村除染に関する国と4市の勉強会中間報告」に関し、個人被ばく線量に基づいた除染目安に転換することに強く抗議し、下記の通り、抗議声明を送りました。
石原伸晃 環境大臣
井上信治 環境副大臣
個人被ばく線量に基づいた除染目安に関する抗議声明
私たち「NPO法人子ども全国ネット」は、環境省による「市町村除染に関する国と4市の勉強会中間報告」に関し、個人被ばく線量に基づいた除染目安に転換することに強く抗議します。
私たちは、今回公表された「毎時0.3〜0.6マイクロシーベルト」という目安は、がまん値を超えた受け入れられない数値「被ばく強要目安」であり、決して子どもたちを被ばくから守るための数値ではないと考えます。
とりわけ、子どもたちへの放射線による被ばくの影響はわからないからこそ、できる限り、防護する必要がある、と「原発事故子ども・被災者支援法」では謳っています。この4市の勉強会の中間報告が、何の法的根拠ももたないまま、福島県内外における除染の目安として広がるようなことになれば、子どもたちの被ばく防護がないがしろにされてしまうのではないか、不安を抱えたままの帰還を促されてしまうのではないか、という懸念があります。
以下、その理由です。
1.個人線量計(ガラスバッジ)による被ばく測定の限界と弊害
2.「場」の線量と「個人」線量の混同による恣意的な数値のアップ
3.住民の意見を無視した、不透明なプロセスによるまとめ内容の決定
現在使用されている個人線量計では、一人ひとりの正確な外部被ばく量を測定することが難しいという指摘があります。本来、一般公衆の被ばく限度は、追加被ばくが年間1ミリシーベルトであり、これは、外部被ばくのみならず、内部被ばくも合わせて考えられるべきです。にもかかわらず、外部被ばく線量のみで計算し、1ミリシーベルトまでは基準値内としていることには、あらためて矛盾を感じます。また、個人線量計の数値のみが重視される中で、被ばく防護についても自己責任が問われかねないという懸念も生じます。
そもそも、個人線量計は、放射線管理区域における放射線業務従事者の個人被ばくを管理するためのものです。ですから、個人線量に依拠するのであれば、その地域の全ての住民を、放射線業務従事者と同様に被曝管理すべきであるのに対し、場の線量を管理するための指標として個人線量を使用するのみでは、何ら放射線防護にはなりません。このままでは、「場」の線量と「個人」線量の混同であると言わざるを得ません。
また、4市勉強会の開催から今回の中間報告の公表に至るまで、すべてのプロセスが不透明であり、住民の声を聞く機会のないままに実施しています。これは、「原発事故子ども・被災者支援法」の理念である、被災当事者の意見を聞くことをまったく無視しています。
以上
2014年8月1日
特定非営利活動法人 子ども全国ネット