関西電力大飯原発4号機が定期検査に入ったのは昨年の9月15日のことで、あと1カ月弱で国内の原発の全基が停止してから丸1年を迎えます。
猛暑のなか、消費電力の瞬間的ピークを生み出す高校野球が行われているなかでも、電力は何の不足も生ぜずにごく当たり前に供給されています。
火力発電用燃料のLNGなどはまだ高止まりの状態のようですが、円安による燃料費の上昇は核燃料でも同様で、現にイギリスに委託している使用済み核燃料の処理費は1本あたり1億2800万円と当初の3倍に跳ね上がりました。いずれ核燃料自体も品薄になるので高騰することは以前から言われています。
原発が低コストという言い分はもう逆立ちしても通用しません。
神奈川新聞が、インターネット上で「原発ゼロ○○日目」というメッセージボードを掲げ、カウントダウンをしている人たちが県内にいることを伝えました。丸1年まであと30日を切り、カウントダウンに参加する動きが県内でもじわりと広がりをみせているということです。
使用済み核燃料処理費高騰のニュースも併せて紹介します。
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原発ゼロ1年へ ネット上でメッセージ掲げる市民たち
神奈川新聞 2014年8月17日
国内で稼働する原発がゼロとなって間もなく丸1年を迎える。その「祝うべき日」に向け、インターネット上で「原発ゼロ○○日目」というメッセージボードを掲げ、カウントダウンをしている人たちが県内にいる。「原発なしで1年もやってこられたということを知ってもらい、もう一度、原発の是非についてみんなで考えたい」。県内発のムーブメントはじわり広がりを見せている。
〈原発ゼロ331日目 健康な命を繋(つな)いでいきたい〉
大和市の主婦(44)は7歳の息子をひざに抱き、ボードにそう書き込んだ。ネットの交流サイト、フェイスブックに写真を投稿したのは11日のことだ。
「原発をめぐってはいろんな立場の人がいて、いろんな考え方がある。でもこの1年、原発ゼロでやってこられた。それはすごいこと」
口ぶりに実感がこもるのは、迷い続けた日々があったから。2011年3月の東京電力福島第1原発の事故後、放射能に関するさまざまな情報に触れ、1児の母として不安を抱いてきた。県内でも上昇した放射線量の体への影響は。食べ物は安全か。周囲に相談できる相手はいなかった。
市民主催の勉強会に足を運び、知識を得ていった。あるとき、福島県から講演に来ていた女性の話を聞く機会があった。
「その女性は『放射性物質濃度を測っても、作物によってはまったく数値が出ないものもある。すべて福島県産だからと避けられるのは悲しい』と打ち明けた。原発の関連企業で働いている人たちだっている。難しい問題だと思った」
原発はいらないと考えるようになっていたが、知るほどに気持ちは複雑になっていった。
それでも、原発について考えが及ばなかった以前の自分に戻ろうとは思わない。「知るということは別の視点で考えられるようになるということ」。ネットに投稿することに「私たち一人一人は本当に小さな力。でもたくさん集まって一つになれば、原発のない未来を子どもたちに残せるかもしれない」との願いを込める。
原発事故後、唯一再稼働していた関西電力大飯原発が昨年9月15日に定期検査に入り、その後、再び動きだした原発はない。初めて迎えた原発ゼロの夏。それでも電力は滞りなく供給され続けている。各電力会社は火力発電を増やしてカバーしているが、市民や企業の節電意識の浸透も見逃せない。
〈原発ゼロ326日目 ありがとうがんばろう〉
町田市在住で整体師の男性さん(41)は、そう記したカウントダウン写真を投稿した。
「自分自身、原発をテーマにした映画を見て初めて関心を持った。それから数々の事実を知ったが、それは決して隠されていたわけではなく、普通に報道されていた」
知るか知らないか。それが人々の行動を左右する。いま、その起点の一つになりたいという思いがある。
カウントダウン運動を1人で始めたデンマーク国籍の男性(42)の思いはまさに問い掛けにあった。
「要は電力は余っているということ。安くて安全と言われていた原発だが、使用済み燃料の管理や処理の費用も含めてコスト計算すれば、決して安くなんかない。原発ゼロ1年という節目で、原発が必要なのかどうかもう一度みんなで考えたいと思った」
藤沢市でサーフショップを経営する。原発事故後、海が放射性物質で汚染されていないか不安になり、地元自治体に水質検査を求めたことがきっかけで関心を深めていった。
「当時は廃業覚悟で水質検査を求めた。同業者から『もし検出されたら、どうするんだ』と暗にくぎを刺されたが」
今月1日に思い立ち、フェイスブックを毎日更新し始めた。
〈原発ゼロ335日目 原発ゼロ1年まであと30日!〉
15日には「1か月切ったゼ!」「このままずっとゼロで行こう!」とコメントを添えた。
思い思いに自分のフェイスブックやツイッターで写真を投稿するメンバーは当初数人だったが、残すところ1カ月となり、参加者は増えつつある。投稿をフェイスブックで紹介(シェア)する動きも広がってきた。
「拡散」に一役買ったのが藤沢市の飲食店を経営する男性(44)。食材にこだわったほうとうが自慢の店で、3・11後はデモやお祭りを催し、原発問題について発信を続けてきた。店の常連客や脱原発運動でつながった人たちに投稿への参加を呼び掛ける。
各種世論調査で上回る脱原発の声をよそに安倍政権は原発再稼働に向け、着々と動きを進める。鹿児島にある九州電力川内原発はこの冬にも再稼働する可能性がある。
「原発なしでは生活が成り立たないと思っている人はまだ数多い」。震災から3年半がたち風化も感じる古屋さんだが、一方でこの1年を振り返り、「市民が何もしなければとっくに再稼働していただろう。デモなどを通じ、声を上げ活動してきたことの結果。脱原発を諦めていた人も、声を上げることの意味をもう一度感じてもらいたい」とネットを通じたムーブメントの広がりに期待を込める。
原発ゼロ1年を迎える9月14日には、藤沢駅周辺でデモを企画している。
「さまざまな努力があって丸1年を迎えられた。デモではそのことをお祝いしたい。そして2周年、3周年につなげていこう。そう呼び掛けたい」
核のゴミ1本1.3億円 海外委託の処理費、3倍に高騰
朝日新聞 2014年5月26日
青森県六ケ所村に4月、英国から返還された高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の輸入価格が、1本あたり1億2800万円だったことが税関への申告でわかった。過去最高額で、海外に処理を委託した廃棄物の返還が始まった1995年の3倍。管理や輸送の費用がかさんだとみられる。費用は電気料金に上乗せされる。
原発から出る使用済み核燃料を再処理して再び燃料として使う「核燃料サイクル政策」について、政府は4月、閣議決定した新たなエネルギー基本計画のなかで「推進」するとしたが、再処理で出る核のゴミの費用もかさむことで、サイクル政策の非経済性が改めて浮かんだ。
再処理事業では新たな燃料のほか、利用不可能で強い放射線を出す高レベル放射性廃棄物も発生する。六ケ所村にある日本の再処理工場はトラブル続きで完成しておらず、電力各社でつくる業界団体・電気事業連合会によると、日本は69年以降、英仏両国に送って再処理を依頼してきた。