2018年5月29日火曜日

元副社長が「津波対策先送り」指示 東電原発事故強制起訴公判

 東電福島原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人勝俣恒久元会長武黒一郎元副社長武藤栄元副社長に対する東京地裁の公判がヤマ場を迎えています。
 これまで11回の公判で6人の証人尋問があり、想定津波の試算を担当した社員らが「対策は不可避」と考えていたのに、旧経営陣が「先送り」を指示するなど、社内の“温度差”が浮き彫りになりました。
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福島第1原発事故 強制起訴公判 東電、津波対策に温度差 
試算担当社員「不可避」、元副社長「先送り」指示
毎日新聞 2018年5月29日
 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人に対する東京地裁の公判がヤマ場を迎えている。11回の公判で6人の証人尋問があり、想定津波の試算を担当した社員らが「対策は不可避」と考えていたのに、旧経営陣が「先送り」を指示するなど、社内の“温度差”が浮き彫りになっている。【石山絵歩、岡田英】 
 
 東電は2007年、第1原発の津波対策の見直しを始めた。前年に原子力安全・保安院(当時)が電力会社に地震・津波対策の再評価(バックチェック)を求めたためだった。 
 対策のポイントは、02年に政府の地震調査研究推進本部が「福島沖を含む日本海溝沿いで巨大津波が発生しうる」とした「長期評価」を採用するか否か。長期評価を受け入れれば、大規模な対策は避けられなかった。 
 東電の土木調査グループ(G)は07年11月、長期評価に基づく想定津波の試算を子会社に依頼。08年3月には「最大15・7メートルの津波が襲う」との結果を得た。公判に出廷した土木調査Gの担当グループマネジャー(GM)と担当課長の証言によると、グループ内は「長期評価は主要な地震学者が支持しており、津波対策は不可避」との考えで一致。グループが08年6月に元副社長の武藤栄被告(67)に試算結果を報告すると、防潮堤設置の許認可に関する調査などを指示された。 
 
 しかし同7月、事態は一転した。武藤元副社長は「(長期評価の信頼性に関する分析を)外部の有識者に頼もう」と提案。「信頼性を確認した上で対策は取る」と「先送り」を決めた。担当課長は公判で、「予想外のことで力が抜けた」と振り返った。 
 「専門家の感触を調べたらどうだ」。GMの証言によると、武藤元副社長は、津波対策の「先送り」を指示した際、再評価結果を審査する専門家への「根回し」も示唆した。 
 実際、グループの社員は複数の専門家を訪ね、津波対策は長期評価の信頼性を検討した上で行うと説明。水面下で「先送り」への理解を求めていた。 
 東電は元々、再評価結果を09年6月までに原子力安全・保安院に報告する予定だった。しかし「先送り」後の08年12月に報告の延期を発表。結局、原発事故まで報告されることはなかった。 
 
 なぜ「先送り」したのか。今後は「15・7メートル」の基になった長期評価の信頼性が焦点となる。GMは「対策に取り入れるべきだが、科学的根拠は乏しいと思った」とも証言。一方、長期評価をとりまとめた島崎邦彦・東大名誉教授は法廷で「十分考慮すべきもので、(長期評価に基づき)対策を取れば事故は防げた」と述べた。公判は今後も地震学の専門家に対する証人尋問が続き、今秋にも被告人質問に移る見通しだ。