小中学生向けに福島原発事故の概要を解説した記事が3日のAERAに転載されました。
まだ原発事故は続いているということの意味や福島原発の現状(の概要)が分かりやすく書かれています。
主要紙は電力会社の潤沢な広告宣伝費の恩恵を受けているので、電力会社に都合の悪いことはあまり書かないようにするものですが、この記事は子供向けの月刊誌の記事ということで、もともとそんな遠慮は不要なので電力の痛いところにもごく簡単にですが触れています。
炉心溶融によって溶け落ちた核燃料を冷やす水は、クローズドシステムと呼ばれる循環使用式になっているので、本来は増量しないものです。ところが不幸にして原子炉格納容器の地下部分が「地震」によって破損したため、そこから地下水が侵入して循環水量が増加するので、その分が「汚染水の発生(量)」になっています。
いま東電が困窮している「汚染水発生」の問題は、原子炉格納容器が地震に耐えられなかったことと、対策として採用した凍土遮水壁が地下水を完全に遮水出来ていないせいです。東電はトリチウムの海洋放流を主張する前に先ず凍土遮水壁採用のミスを認め、完全遮水の出来る仕様のものに変えることが先決です。
記事は、規制委の更田豊志委員長が述べた、現状はまた「山頂が見える状況ではない。しかも、(これから)どのくらいの勾配が待ち受けているのかもわかっていない」で結んでいますが、汚染水発生の問題を含めて何もかもがまだそういう状況にあると言えます、
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まだ原発事故は続いている
止まらない汚染水の流水に進まない廃炉計画の今
AERA dot. 2018年5月3日
月刊ジュニアエラ 2018年5月号
福島県にある東京電力福島第一原子力発電所の事故が起こって7年が過ぎた。炉心溶融(メルトダウン)によって溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の詳しい様子はいまだにわからず、放射性物質に汚染された水も増える一方だ。事故はまだ続いている。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞編集委員・上田俊英さんの解説を紹介しよう。
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「廃炉に向けた準備をしていた7年だった」
福島第一原発を2月9日に訪れると、東京電力の担当者はこう説明してくれた。
原発の敷地をまわると、地表は一面、モルタル(セメントと砂を水で練ったもの)で覆われていた。地中から出る放射線をさえぎるためだ。その結果、今は敷地の95%の場所で防護服やマスクをつけず、普通の作業服で仕事ができるようになった。
3号機の建屋の最上階では、カマボコ形のドームの設置工事が進んでいた。外部に放射性物質が飛び散るのを防ぐ設備で、2月21日に完成した。今年の秋には、この建屋内のプールにある使用済み核燃料の運び出しが始まる予定だ。
注)放射性物質=生物の細胞を傷つけ、病気の原因ともなる「放射線」を出す物質のこと。
■溶け落ちた核燃料の状況は不明
しかし、こうした作業は、本格的な廃炉作業を始める準備に過ぎない。
炉心溶融を起こした1~3号機では、燃料デブリの一部が原子炉を突き抜け、原子炉を囲む格納容器の底にたまっている。格納容器の内部をロボットや遠隔操作カメラで調べる調査は2017年1月に始まった。そして、これまでに2、3号機で、燃料デブリが確認できた。
しかし、調査場所はわずかで、燃料デブリもほんの一部が見えただけだ。いったいどこに、どれだけ、どのようにたまっているのか、まったくわかっていない。
廃炉とは本来、こうした燃料デブリをすべて取り出し、原子炉や建屋などを解体することだ。国と東京電力の廃炉の計画にも、当初はそう書かれていた。
ところが、現在の計画に具体的に書かれているのは、燃料デブリの取り出し開始までだ。21年内に1~3号機のどれかで取り出しを始めるとされている。
■建屋への汚染水の流入を止められない
燃料デブリの取り出しを始めるのに不可欠なのが、建屋への地下水の流入を止めることだ。そのため、1~4号機の建屋を取り囲む地中に全長約1500メートル、深さ約30メートルにわたる「氷の壁」(凍土壁)が建設された。
建屋の周囲の井戸から地下水をくみあげる「サブドレン」も続けられている。それでも、雨が少ない日でさえ、1日100トンほどの地下水が建屋に流入し、放射性物質に汚染された水が増え続けている。
東京電力は放射性物質の大半を取り除いた水を敷地内のタンクにため続けているが、今の技術では、放射性トリチウム(三重水素)は取り除けない。
敷地内に林立する汚染水の貯蔵タンクは現在、約850基。110万トン分の容量があるが、すでに約104万トンが埋まっている。このうち約85万トンは放射性トリチウムを含む水で、残りは多種の放射性物質をまだ含む、汚染がより深刻な水だ。
東京電力は2020年のうちに地下水の流入を止め、建屋内の汚染水をほぼゼロにする計画だが、流入を止められるかどうかは、わからない。
燃料デブリの取り出しにたどり着けても、難題が待っている。
燃料デブリは放射能がきわめて強く、人は近づけない。放射能が弱まるまで10万年程度は人間社会から遠ざけておく必要があるが、保管場所や処分方法は決まっていない。
その後の原子炉や建屋などの解体については、今の国と東京電力の廃炉の計画には、項目さえない。
原子力規制委員会の更田豊志委員長は3月7日の記者会見で、廃炉計画の現状を登山にたとえて、こう話した。
「山頂が見える状況ではない。しかも、(これから)どのぐらいの勾配(斜面)が待ち受けているのかもわかっていない」 (解説/朝日新聞編集委員・上田俊英)
【東京電力福島第一原子力発電所の事故】
2011年3月11日、東日本大震災に伴う巨大津波に襲われた福島第一原発(6基)のうち、運転中の1~3号機は電気の供給が途絶えて燃料を冷やせなくなり、相次いで炉心溶融(メルトダウン)を起こした。さらに炉心溶融で発生した水素が爆発して1、3、4号機の建屋が吹き飛び、大量の放射性物質が放出された。
【使用済み核燃料】
原発で燃やし終えた核燃料。燃料の原料であるウランや、ウランの核分裂に伴ってできたプルトニウムなどの放射性物質が含まれる。高い熱や、人が近づけば死んでしまうほどの放射線を出しているため、原子炉から出した後は、原発内にあるプールにためた水の中で保管している。