経産省は16日、中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「第五次エネルギー基本計画」の素案を審議会に示しました。それは原発を「重要なベースロード電源」と位置付け、30年度の電力量のうち、原発で20~22%をまかなうとしていますが、それを達成するには、原子力規制委で審査中の全原発でも足りない30基程度の稼働が必要です。
当然原発の新増設も必要になるということを含めて、驚くべきもので、国民の世論に真っ向から挑戦する計画となっています。
エネルギー基本計画は4年ぶりの見直しですが、その実は、この間の情勢変化に全く向き合っていない、原子力ムラの欲望そのものを文書化したに等しいものといえます。
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原発のない国 機運高まる中 エネ計画 原発推進鮮明
東京新聞 2018年5月16日
経済産業省は十六日、二〇三〇年に向けた中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「第五次エネルギー基本計画」の素案を公表、審議会に示した。原発については「重要なベースロード(基幹)電源」と位置付けるとともに、「原子力政策の再構築」を掲げ、再稼働や核燃料サイクル、原発輸出などの推進姿勢を明示した。
基本計画は三~四年に一回、見直す。三〇年度に目指す電力量のうち、原発で20~22%をまかなうとする電源比率の目標は維持する。目標達成には、原子力規制委員会で審査中の全原発でも足りない三十基程度が必要とされ、実現性を疑問視する声は根強い。
素案は原発に関し「可能な限り依存度を低減」としつつも、再稼働を進めるという従来の方針を踏襲。今回は新たに、五〇年までに温室効果ガスを大幅に削減するための「実用段階にある選択肢」との位置付けも加えた。高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)の廃炉などで実現が見通せない核燃料サイクルも、推進姿勢を変えなかった。新増設は明記しなかったが「安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求」を掲げ、その余地を残した。
一方、再生可能エネルギーは主力電源化を打ちだし、送電網への受け入れ強化や不安定さを補う技術などの課題解決を進める。ただ、委員から「主力電源にするなら目標も変えるべきだ」との意見が出ていた三〇年度時点の目標は、従来の22~24%に据え置いた。
経産省は素案を取りまとめ、与党と調整した上でパブリックコメント(意見公募)を実施し、六月末にも閣議決定したい考えだ。
◆4年の変化反映せず
経済産業省のエネルギー基本計画の素案は、二〇一四年以来四年ぶりの見直しをうたいながら、この間の情勢変化に正面から向き合ったとは言えない内容となっている。
東京電力福島第一原発事故以降、再稼働した原発は八基で、一六年度の電力量に占める原発の割合は1・7%。三〇年度の目標の20~22%を実現するには、稼働から四十年たった古い原発を十数基、運転延長したり、原発を新設したりすることが必要となる。どちらも実現性に乏しい。
福島の事故以降、原発の安全対策規制が強化され建設費用は増加。工期の遅れも常態化している。米原発大手ウェスチングハウス・エレクトリックは、米国で原発新設の工期遅れを繰り返し一七年三月に破綻。三菱重工業などがトルコで進める原発計画は、総事業費が当初想定の二倍の四兆円以上に膨らむとみられ、伊藤忠商事が三月に撤退した。日立製作所が進める英国の原発新設も総事業費が三兆円規模に膨らむことから、支援を巡る英政府との協議が難航している。
一方、再生可能エネルギーはコスト低下と導入拡大が進む。一七年の太陽光発電の平均入札価格は一〇年の三分の一以下の十一円に低下。一五年には累積設備容量で風力発電が原発を超え、一七年には太陽光発電も原発を追い抜いた。
この四年の変化を踏まえれば原発の目標を下げ、再生エネの目標を引き上げるのが自然だ。だが、両方とも変えずに据え置くという経産省の姿勢からは、原発の存続を目指す意図が透けてみえる。 (伊藤弘喜)
目標達成には原発の運転期間の延長必要 エネ基本計画案
NHK NEWS WEB 2018年5月16日
3年ごとに見直される国の中長期的なエネルギー政策の方針「エネルギー基本計画」の新たな案がまとまりました。案では、2030年度の時点の電力需要に対して原子力発電が占める比率は、3年前に政府が決定した比率と変わらず「20%から22%」とされ、この目標を達成するには、原則40年とされる原発の運転期間の延長が必要になります。
現在、廃炉が決まった原発を除くと、全国には16原発39基の原発がありますが、原発の運転期間は、法律で原則40年に制限され、原子力規制委員会の認可を受けたうえで最長20年の運転期間の延長が認められています。
2030年度末の時点で運転開始から40年に達していない原発は、建設中の3基を含めると21基で、すでに最長20年の運転延長が決まっている3基を足すと24基になります。
仮にこの24基がすべて稼働し、原発の設備利用率を70%と仮定して計算すると、2030年度時点の電力需要に占める原発の比率はおよそ15%にとどまり、目標には届きません。
国が目標とする原発の比率「20%から22%」を達成するには、30基前後の稼働が必要で、そのためには、多額の費用をかけて安全対策の工事を行い、原発の運転期間を延長させなければなりません。
7年前の原発事故のあと、福島第一原発を除き、6原発9基の廃炉が決まっていますが、電力自由化で経営環境が厳しさを増す中、電力各社が今後、原発の運転期間を延長するかどうか見通せない状況です。
またエネルギー基本計画の新たな案では、さらに長期的な2050年のエネルギーの選択肢の中で、原子力を「現状で実用段階にある脱炭素化の選択肢」と位置づけています。
しかし、建設中の3基を除くと、2050年時点で運転期間を延長せずに稼働できる原発はありません。
エネルギー政策に詳しい日本総合研究所創発戦略センターの井熊均所長は、国が目標とする「20%から22%」という原発の比率について、「原発事故からの7年間で再稼働した原発は8基で、目標を達成するにはより早いペースで再稼働する必要があるうえ、原発はトラブルなどで停止するので稼働率をどこまで見込めるかという問題もあり、非常に難しいと思う」と指摘しました。
そのうえで「原発を民間のリスク判断で投資したり資金供給したりするのは相当難しい。日本が原発の技術を維持する場合、最低限どれだけの原発が必要で、どういう運営体制で行うかを含めて議論し、国が逃げずにどう関わるのかを明確にしないと、原子力は続けようがないと思う」と話しています。