2018年5月3日木曜日

新潟県知事選 残された三つの検証は(中)

 米山知事辞職の事態に当たり、米山氏の原発政策とは何だったのかを検証する毎日新聞の連載記事「18知事選/です。
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 残された三つの検証  
18知事選/中 政府や東電、巧妙に封じ 地元目線の論点提示 /新潟
毎日新聞 2018年5月2日
「新潟県は米の問題もある。風評のことも考えるべきだ」 
 2月16日、米山県政の「三つの検証」で司令塔役を担う「総括委員会」の初会合。委員からは、地元ならではの視点で事故時の影響を検証すべきだとの意見が相次いだ。 
 
 米山隆一氏(50)は2016年10月の知事選で、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題について、技術▽健康・生活▽避難-の各視点から検証すると訴えて初当選。原子力規制委員会など政府や東電がさまざまな検証プロセスを行っている中で、県独自の検証は「屋上屋を架す行為」だと一部で批判された。しかし米山氏は「今まで日本がある種、放置してきたことに取り組む」と、地道に検証に徹してきた。 
 
 米山氏の検証プロセスは巧妙だ。まず検証期間を「3、4年」に設定。検証が終わるまでは再稼働の議論はしないとし、再稼働にはやる政府、東電の動きを封じた。 
 17年8月には原発そのものの安全性を確認する既存の「技術委員会」に加え、避難者の健康や経済状況などを調べる「健康・生活委」、県の避難計画について協議する「避難委」を設立。今年設立の「総括委」と合わせた4委員会で論点の洗い出しに努めた。極度に専門的な分野を扱うだけに、4委員会の開催頻度は数カ月に1度と少ないが、事故が農作物や漁業に与える影響▽豪雪時に原発事故が起きた場合の避難計画の実効性-など、地元目線の論点が提示されつつあった。 
 
 かつて自民党の国政選挙候補者として原発推進を唱えていた米山氏。11年の福島第1原発事故を機に原発推進論は封印したが、16年の知事選でも再稼働に無条件で「反対」と訴えたことは一度もない。米山氏が目指したのは、再稼働賛成派、反対派双方の感情的対立を乗り越えて冷静な議論をするための「客観的な全体像を出す」ことだったと米山氏自身が発言している。 
 
 米山氏の沈着な対応は「検証」を巡る判断だけにとどまらない。 
「(事前了解権の対象範囲を拡大すれば)まず間違いなく合意形成はできない。賛成ではない」 
 東海第2原発(茨城県東海村)を運営する日本原子力発電が3月、東海村に近い5市の周辺自治体にも再稼働を拒否できる「事前了解権」を付与したことを受けて、柏崎刈羽原発の周辺自治体にも同様の権利を認めるべきか問われると、そう答えた。反原発の共産党や社民党などを支持母体とする米山氏にとって、事前了解権を持つ自治体を増やした方が政治的には有利なはずだが、米山氏は「合意プロセスが複雑化して非現実的だ」と一蹴した。 
 
 米山氏の退場で、三つの検証の先行きは不透明になった。原発推進派が多い自民党などは「必要な検証は続ける」とするが、民進党や社民党は「政府与党系の候補が当選後に国に物を言えるのか」と警戒を強めている。 
 米山氏の有力支援者の一人で、総括委の委員でもある佐々木寛・新潟国際情報大教授は「米山氏は歴史的な決断を下すために清々粛々と準備をしていた」としたうえで「この検証を無駄にすることがあってはいけない」と話した。【堀祐馬】