2018年5月21日月曜日

日立・三菱重工が挑む「原発輸出」のジレンマ

 日立は英国で三菱重工はトルコで原発のプロジェクトを進めていて、昨年12月に包括設計審査が完了しました問題は原発の建設コストで、当初1兆円台半ばと見られていたものが、安全対策費の増大によって3兆円超に膨らみました。
 日立の中西会長が英国テリーザ・メイ英国首相と5月3日、現地で会談した結果、英国政府から2兆円の融資を保証する方針されました。
 
 しかしそれでこのプロジェクト進めていいかというとそう単純ではありません。莫大な融資に対し、長期にわたって返済する原資はあくまでも原発完成後に得られる電気料金です。
 しかし原発だから高い料金を払うという国民はいないので、コストが急落するとされている再生可能エネルギーなどとの競争の中で、自ずから定まる電気料から安定的に返済分が捻出できるのかが問題になります。返済の負担は当然建設コストのアップに比例するので、融資が得られればOKという関係ではありません。またそもそも発電原価=核燃料の価格が将来とも安定しているという保障もありません。(ウランが枯渇すれば当然高騰します)
 
 それでも日立や三菱重工が原発輸出をあきらめられないのは、国内で原発新設の望みが薄い中、技術を含めて原子力事業を維持するために海外で原発を造るしかない、という強迫観念があるからと言われています。
 踏ん切りがつかないこと自体は分からなくはないのですが・・・
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日立・三菱重工が挑む「原発輸出」のジレンマ
英国政府の支援拡大は日立への福音なのか…
 東洋経済オンライン 2018年05月21日
山田 雄大 東洋経済 記者   
日本企業による“原発輸出”は実現するのか。
「バンカブル(融資可能な状況)にして2019年のFID(最終投資決定)を迎える」(日立製作所の東原敏昭社長)
「いろんな形で可能性を追求しながら、FS(フィージビリティスタディ=実行可能性調査)を続けている」(三菱重工業の宮永俊一社長)
日立は英国で、三菱重工はトルコで原子力発電所のプロジェクトを進めている。2018年3月期決算発表の場で、両社長はそれぞれの状況をこう説明した。
 
原発建設費用は急上昇
先行するのは日立だ。12年に英国で原発事業会社ホライズン・ニュークリア・パワーを892億円で買収。自らが発注元となり自社製原発の採用を前提に許認可作業を進めてきた。昨年12月には包括設計審査が完了。英国政府などと調整を続けている。
5月3日には中西宏明会長がテリーザ・メイ英国首相と現地で会談。原発事業を純民間企業だけで手掛けるのは困難さが増していることから、英国政府の支援拡大を求めた。
電力事業は、先行投資を運転開始後に長期間かけて電力料金で回収していくビジネスモデルだ。これは火力や水力も基本的に同じだが、原発の場合、初期投資が巨額になりすぎている。
00年代半ばに100万キロワット級原発1基の建設費用は5000億円といわれた。だが、01年の米同時多発テロや11年の福島第一原発事故を受けて強化される安全規制への対応に費用はうなぎ上り。最近では1基1兆円でも足りない状況だ。
必要な金額は資本と負債(融資)で調達する。だが、原発は着工から運転開始まで早くても5年、トラブルがあると10年超も珍しくない。この間も金利はかさんでいく。プロジェクト費用が膨らめば、回収までの期間も長期化する。
当初1兆円台半ばといわれていたホライズンの総事業費は、3兆円超に膨らんだとされる。現状のままでは「バンカブル」は遠い。
 
これまで同プロジェクトに対し、日英政府は支援姿勢を表明してはいた。が、条件までは固まっていなかった。今回の会談では英国政府は約2兆円の融資を保証する方針を示したとされる。ただ、これでプロジェクトを進めていいかというと、そう単純ではない
現状、ホライズンは日立の100%子会社である。ホライズンが子会社だと原発の機器納入を含む建設事業は連結決算では内部取引のまま。収益計上が認められないだけでなく、バランスシートが膨れ上がる。
 
カギを握る電力料金が見通せない
建設は日揮や米ベクテルとの合弁で行う方針だが、主体が日立である事実は変わらない。建設費用の超過リスクから日立は逃れようがないのだ。
このため、従前から日立は最終的な投資実行には「ホライズンをオフバランス(非連結化)にするのが条件」(西山光秋・最高財務責任者)と明言してきた。
両国政府が企業連合を組成し、3分の1ずつ出資する案が検討されている。とはいえ本当に出資企業が現れるのか定かではない。というのも、事業性のカギを握る電力料金が見通せないためだ。
英国には原発導入を後押しするために、発電した電力を固定価格で買い取る制度がある。安定的な電力料金を保証されれば、巨額投資の回収予見性は高まる。
先行する別の原発プロジェクトは1000キロワット時当たり92.5ポンド、35年間で契約されている。これは契約時での卸電力価格の2倍以上の水準だった。その差額は電力利用者(英国民)が負担することになるため、政治問題化してしまった。
この影響もあり、ホライズンの買い取り価格は決まっていない。先行案件よりも引き下げられるのは確実視されている。総費用が増加する中、採算が取れる電力料金は設定されるのか。
買い取り価格が高く決まっても、市場価格との差が広がれば絶対に引き下げられる」という懸念を示すのは、海外事情に詳しい原子力推進派の財界人だ。
もともと原発は初期投資こそ高いが、燃料費は高いガス火力はもとより、石炭火力よりも安い。ただ、風力など再生可能エネルギーによる発電は、燃料費がかからない。足元の原油高は追い風だが、再エネの電力が普及しているため、電力市場には下方圧力がかかり続ける。
 
あきらめられない両社
採算性が見えないのは三菱重工の案件も同じだ。
トルコ案件のFSに参加してきた伊藤忠商事は、決算発表の場で正式に撤退を表明した。岡藤正広会長は「費用が倍になっている」と理由を説明。「(三菱重工は)降りられないから大変だ」と同情を寄せた。
安定的な発電能力や、CO2排出の少なさから、一定の原発が必要という考えはわからなくはない。そうした観点から英国もトルコも原発新設を進めてきた。ならば、当該国が電力料金を含めて原発の成り立つスキームを作るのがスジだが、現実は心もとない。
ビジネスにリスクがあるのは当然でも、海外での原発事業はリスクとリターンのバランスが取れていないように思える。
  
それでも日立も三菱重工も原発輸出をあきらめられない。国内で原発新設の望みが薄い中、技術を含めて原子力事業を維持するために海外で原発を造るしかない、という強迫観念がある。
東芝や仏アレバが海外原発で会社解体の危機に追い込まれた記憶はまだ新しい。日立の中西会長は原発事業について「原子力は一度手掛けた以上やめられない。廃炉の面倒を誰が見るのか」と繰り返してきた。やめられない事業のためにという気持ちがある中で、冷徹な判断ができるのか。
当記事は「週刊東洋経済」5月26日号 <5月21日発売>からの転載記事です