2018年7月5日木曜日

大飯原発訴訟 住民の訴え退ける 名古屋高裁金沢支部

 大飯原発34号機について住民らが運転差し止めを求めた裁判で、2審の名古屋高等裁判所金沢支部は、運転しないよう命じた1審の福井地裁樋口英明裁判長の判決を取り消し、住民の訴えを退けました。
 内藤正之裁判長は、福島第一原発事故後に定められた新規制基準や、大飯原発が基準に適合するとした原子力規制委員会の判断について「不合理な点は認められない」としました。
 
 2014年、1審の樋口裁判長が運転差し止めの判決を下すと、人事権を握る最高裁事務総局は樋口判事を家裁部に移動させ、そのあとに超エリートとして知られる二人の判事を福井地裁に送り込みました。これは以後福井地裁において上部の意向に沿った判断が下されることを期すとともに、それによって原発裁判に関する「事務総局の意思」を全国の判事に示したのでした。
 今回の2審の判決がその意思に沿ったものであることは想像するに難くありません。
 判決は、新規制基準は「最新の科学的、技術的知見を反映して制定された」と評価し、津波や火山灰、テロも含めた重大事故対策が新基準に適合するとした原子力規制委員会の判断を合理的としました。
 そして「国のとるべき道として原子力発電そのものを廃止、禁止することは大いに可能であろうが、その判断は司法の役割を超えるもので、最終的に政治的な判断に委ねられるべき事柄だ」と述べました。
 高裁の独自の判断を避けるための模範解答とも言うべきものです。
 
 問題の基準地震動に関しては、島崎東大名誉教授が証言台で、「入倉・三宅式」大飯原発34号機の評価で使ったことは適切でなく、断層面積を想定して算出するやり方は過小な値を引き出すので、実際に起きた地震によって断層面積を算定するなどして地震の規模を求めるのには適するが、特に当該の地盤のように断層が斜めにではなく垂直方向に走っている場合、予測に用いるのは適切ではないと力説しました。
 それに対して判決は、地盤を詳細にチェックして断層面積を算定しているので問題ないとの関電側の主張を安易に取り入れる一方で、「基準地震動を超える揺れが来ないとの確実な想定は不可能」と付言しました。
 
 また、原発の運転が認められるかどうかは、危険性を社会通念上無視できる程度にまで対策がとられているかどうかがポイントで、新規制基準や原子力規制委審査に不合理な点がなければ、具体的危険性はないものと評価できるとしていますが、福島原発を含めて既設の原発は全て「社会通念上危険性無視できる」ということで建設した筈です。
 
 判決に対して原告側の河合弘之弁護士は、「国民を守るということを真摯に検討したとは思えず、考えられる中で最悪の判決だ」と話し、中嶌哲演・原告団代表は「裁判所としての主体的な判断が何一つ示されず、司法としての使命感が見いだせない」と批判しています。
 予定調和的判決の持つ限界です。
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大飯原発訴訟 住民の訴え退ける 名古屋高裁金沢支部
NHK NEWS WEB 2018年7月4日
福井県にある大飯原子力発電所3号機と4号機について、住民らが関西電力に運転しないよう求めた裁判で、2審の名古屋高等裁判所金沢支部は、運転しないよう命じた1審の判決を取り消し、住民の訴えを退けました。高裁は、大飯原発の運転再開に当たり原子力規制委員会が行った審査に不合理な点はないという判断を示しました。
 
大飯原子力発電所3号機と4号機の運転をめぐり住民らが関西電力に対して起こした裁判で、4年前、1審の福井地方裁判所は「地震の揺れの想定が楽観的だ」などとして、運転しないよう命じる判決を言い渡しました。
福島第一原発の事故のあと、原発の運転を認めない司法判断はこれが初めてで、関西電力が控訴し、対象外とされた一部の原告も控訴しました。
 
4日の2審の判決で、名古屋高等裁判所金沢支部の内藤正之裁判長は、1審の判決を取り消し、住民の訴えを退けました。
判決では、福島第一原発の事故による被害の現状を踏まえ、「国のとるべき道として原子力発電そのものを廃止、禁止することは大いに可能であろうが、その判断は司法の役割を超えるものだ。国民世論として幅広く議論され、それを背景とした政治的な判断に委ねられるべき事柄だ」と指摘しました。
そして、裁判所が原子力発電所の危険の有無を判断する際には重大事故の発生を防ぐ措置がされているかどうか検討すべきだとしたうえで、大飯原発の運転再開に当たり原子力規制委員会が行った審査について「不合理な点は認められず、大飯原発の危険性は社会通念上、無視できる程度にまで管理・統制されている」という判断を示しました。
大飯原発3号機と4号機は去年、原子力規制委員会の審査に合格し、すでに営業運転を始めていて、高裁の判断が注目されていました。
 
傍聴席からはため息
裁判長が判決の結論にあたる主文を読み上げている時、法廷の傍聴席からは「異議あり」などと声が上がり、裁判長は「お静かに」と述べました。
そして、判決の理由の中で「原子力規制委員会の審査に不合理な点はない」という判断を示すと、傍聴席からは「不当だ」といった大きな声やため息が聞こえました。
 
原告側「福島の事故を忘れた無責任判決」
判決が言い渡されると、裁判所の前では、原告側の弁護士などが「不当判決」や「司法は福島から目をそむけるのか」と書かれた旗を掲げました。
そして、「福島の原発事故から目を背けた判決だ」とか「不当判決許さない」などとシュプレヒコールを上げていました。
弁護団の河合弘之弁護士は「国民を守るということを真摯(しんし)に検討したとは思えず、考えられる中で最悪の判決だ」と話すなど、憤りをあらわにしていました
判決のあと原告団と弁護団が金沢市内で記者会見を開きました。
最高裁判所に上告するかどうかは話し合ったうえで決めたいとしています。
 
原告団の中嶌哲演代表は「いちるの望みを持っていたが、裁判所としての主体的な判断が何一つ示されず、司法としての使命感が見いだせない。地元の住民として許せない」と批判しました。
原告側の弁護団長を務める島田広弁護士は「敗れたことについてはじくじたる思いだ。福島の事故を完全に忘れ去った無責任な判決で、大飯原発の危険性に対する市民の負担は払拭(ふっしょく)されるどころか、ますます深まった。関西電力と国、福井県に対し直ちに原発の運転を停止するよう求める」と話しました。
 
関西電力「安全性確保に裁判所の理解」
大飯原発を運転している関西電力は「今回の判決は、大飯原発3、4号機の安全性が確保されていることについて、裁判所に理解していただいた結果だと考えている。当社としては、引き続き安全性や信頼性の向上に努め、今後も立地地域をはじめ、社会の皆様の理解を頂きながら運転を継続してまいります」とコメントしています。
 
おおい町長「今後も安全安心得られるよう努力を」
大飯原子力発電所3号機と4号機が立地する福井県おおい町の中塚寛町長は「科学的・技術的知見に基づく新たな規制基準が司法にも認められ、安心している。今後も関西電力は安全性や災害対策の向上に取り組み、住民が安全と安心を得られるよう努めてほしい」と話しました。
 
規制委元委員「地震の揺れ 過小評価のおそれ」
裁判では、大飯原子力発電所3号機と4号機で想定される地震の揺れ=「基準地震動」をめぐって、再稼働の前提となる審査に参加した原子力規制委員会の元委員が証人として招かれ、「過小評価のおそれがある」と訴えました。
証言したのは、原子力規制委員会で地震や津波の想定などの審査を担当し、4年前に退任した島崎邦彦氏です。
島崎元委員は去年4月、裁判所に証人として招かれ、みずからが関わった審査で、基準地震動を求めるために「入倉・三宅式」と呼ばれる計算式を、大飯原発3号機と4号機の評価で使ったことは適切ではなかったと証言しました
島崎元委員は、「入倉・三宅式」について、地震が起きた後にその規模を算出する場合には有効だが、地震の予測に使うのは適切ではないと指摘しました。
 
この計算式を使っておととし4月の熊本地震を分析した結果、地震が起きる前のデータでは震源となる断層の正確な面積がわからず、地震の揺れは小さくなったということです。
そのうえで、大飯原発3号機と4号機の基準地震動についても、「『入倉・三宅式』が、西日本に多い、断層面の傾斜が垂直かそれに近い横ずれ断層で使われた場合、過小評価のおそれがある」と訴えていました。
そのため、規制委員会はおととし7月、別の計算式を使って大飯原発3号機4号機の基準地震動を計算し直しましたが、関西電力の想定はおおむね妥当だとして見直す必要はないとしました。
一方、先立って進められていた大飯原発3号機4号機の国の審査で、関西電力は、原子力規制委員会からの指摘を受けて、基準地震動を2回にわたって見直しました。
審査では、原発の周辺で連動する活断層の数を2本から3本に増やし、震源の深さを当初の4キロから3キロに浅くすることを求められました。
その結果、基準地震動は最大700ガルから856ガルに引き上げられ、規制委員会は去年5月、再稼働の前提となる新たな規制基準に合格していると判断しています。
 
判決「危険性無視できる程度に対策してある」
判決で、裁判所は、まず原発を廃止や禁止すべきかどうかの判断については司法の役割を超えるもので、国民の議論を背景にした政治的な判断に委ねられるべきだと指摘しました。
原発の運転が認められるかどうかは、その危険性を社会通念上無視できる程度にまで対策がとられているかどうかが判断の基準になるとし、国の新規制基準そのものや原子力規制委員会の審査に不合理な点がなければ、具体的危険性はないものと評価できるという枠組みを示しました。
そのうえで、2審で最大の争点となった、施設の耐震性を考えるうえで想定される地震の最大の揺れ「基準地震動」の妥当性については、「最新の科学的知見を踏まえて策定されたもので、新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点は認められない」と指摘しました。
 
また、これまでの審理の中で、規制委員会の島崎邦彦元委員が「基準地震動を出した現在の計算式には問題があり、大飯原発の場合過小評価になるおそれがある」と証言した点については、「大飯原発では、詳細な調査を踏まえて震源の断層面積が十分厳しく設定されているため、関西電力が策定した基準地震動が過小であるとはいえない」としました。
 
このほか、鳥取県の「大山」が噴火した場合に降る火山灰の影響など重大事故への対策も、科学的知見や手法を踏まえて実施されていて、新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点は認められないとしました。
そして、原発の危険性は社会通念上無視できる程度にまで対策が取られていると結論づけ、運転を認めました。