シリーズの3回目は「石炭火力に依拠する日本」の実情です。
再生エネの普及が決定的に立ち遅れている日本は、その分を低コストの石炭火力に頼ろうと、12年以降約50基の石炭火力の新増設計画を立てました。この点でも世界の趨勢とは決定的に乖離しています。
全ては「原発重視」という「ボタンの掛け違い」によるものです。
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<原発のない国へ 基本政策を問う>
(3)石炭火力 新増設 時代に逆行 依存なお
東京新聞 2018年7月16日
サッカーJリーグJEF(ジェフ)ユナイテッド市原・千葉の本拠地、千葉市沿岸のスタジアムの目と鼻の先に二〇一六年末、火力発電所の新設計画が持ち上がった。燃料は、石炭。建設に反対する元市議の小西由希子さん(59)が憤る。「粉じんの飛散が心配です。環境への影響も大きいのに、なぜ今さら石炭なのか…」
石炭火力の新増設計画が急増している。一一年三月の東京電力福島第一原発事故後、原発停止が続いたため、電力会社は需要を賄おうと石炭火力に頼った。
環境保護団体「気候ネットワーク」によると、既存の石炭火力は約百基だったが、一二年以降に約五十基の新増設計画が浮上。うち六基の計画が東京湾岸にあり、中部電や中国電、九電が出資する関連会社が名乗りを上げた。一六年から始まった電力小売り自由化に伴い、各社は大消費地の首都圏への進出を図る。
「価格が乱高下しやすい液化天然ガス(LNG)に比べ、石炭は価格も供給も安定している」。千葉市で石炭火力を計画する中国電出資の千葉パワーの広報担当者が強調した。
政府は、三〇年の発電量に占める石炭火力の割合を26%とする。一六年時点の32%から下げるものの、LNGと石油がさらに減るため、火力発電の中での石炭の比率はむしろ高まる。
石炭火力が多くなれば、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の排出量が増える。石炭火力のCO2排出量は、高性能な設備でもLNGの二倍に上る。
政府の三〇年時点での目標は、一三年比で温室効果ガス26%減。だが、英国石油大手BPの統計で、日本の石炭消費量は一七年に四年ぶりに増えた。気候ネット東京事務所長の桃井貴子さん(45)は嘆く。「時代に逆行している。日本は世界から取り残されている」
一五年に採択された温暖化対策の世界的な枠組み「パリ協定」以降、脱石炭は最重要課題。フランスは二三年、英国は二五年をめどに石炭火力を全廃する方針で、脱原発を進めるドイツも、廃止時期を含む最終案を年内にまとめる。桃井さんは「日本の石炭火力の事業者は『ドイツは脱原発を進める分、脱石炭はできていない』と言い訳してきたが、理屈が成り立たなくなる」と指摘した。
国内の石炭火力の新増設計画は順調というわけではない。千葉県市原市内での新設を含めた七つの計画が「採算が採れない」などと中止に。仙台市では地元の反発を受け、事業者が木くずを固めた燃料(木質バイオマス)に換える。
海外では、多くの金融機関が石炭火力への投資から手を引き始めた。国内でも、三井住友銀行が低効率の石炭火力に融資しないことを表明。日本生命保険は全面的に投融資を停止するという。融資のハードルが上がれば、事業者は資金が調達できず、計画撤退につながるリスクが増す。
政府はパリ協定で求められるCO2削減の具体策を示せぬまま、石炭の活用を続けようとしている。 (内田淳二)
◆エネ計画ではベースロード電源に
エネルギー基本計画では、石炭火力を発電コストが安く安定的に発電できる「ベースロード電源」と位置付けている。「温室効果ガスの排出量が大きい」と課題を挙げる一方、「地政学的リスクが化石燃料の中で最も低く、単価も最も安い」と、燃料の調達のしやすさやコスト面での利点を強調。技術開発による発電の高効率化を前提に「環境負荷の低減を見据えつつ活用する」と普及を後押しし原発と同様に海外への技術輸出も視野に入れている。太陽光などの再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されるため火力などで調整が必要としている。