2018年7月18日水曜日

台湾がアジア初の脱原発を目指す

 強風が安定して吹く台湾海峡洋上風力発電の最適地で、世界から注目されています。
 台湾の蔡英文政権は25年に原発を全て停止し、再生可能エネルギーを全発電量の20%とする目標を決めました。アジア初の「脱原発」実現で、急ピッチで進む洋上風力発電事業その目玉の一つです。
 
 17年末時点で洋上風力発電量の世界1位英国680万KWで、2位ドイツ530KWですが、台湾は25年までに発電容量550万KWを建設する計画で、力の入れようが窺われます。
 台湾で受注しているメーカーは、洋上風力世界最大手のエルステッド(デンマーク)や、風車やタービンの技術で世界をリードするシーメンス(ドイツ)などです。
 毎日新聞の記事を紹介します。
 註)1メガワット(MW) =1000KW、 1ギガワット(GW) =100万KW
 
追記)
 日本でもようやく洋上風力発電に力を入れ始めましたが、福島県沖で経産省が進める浮体式洋上風力発電の実証研究事業では、まだ思うように発電ができていません。
 風車の設備利用率が目安の約30%に達したのは3基中1基だけで、採用した世界初の油圧式変速機の不具合によるということです。
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台湾  洋上風力発電で脱原発 欧州企業も注目
毎日新聞 2018年7月18日
 アジア初の「脱原発」実現を目指す台湾の蔡英文政権は、世界トップクラスの強風が安定して吹く台湾海峡で洋上風力発電の開発に本腰を入れている。洋上風力開発で先行する欧州企業は世界1、2位の英独などに次ぐ「大規模市場」として台湾に注目。こぞって受注に乗り出している。脱原発と洋上風力でアジアをリードし、存在感を発揮しようとする蔡政権の取り組みを追った。【苗栗県(台湾北西部)福岡静哉】 
 
 7月初旬、西側に台湾海峡が広がる苗栗県の龍鳳漁港。岸辺でもかなり風は強く、油断すると帽子が吹き飛ばされそうだ。港から約3キロ沖合の海上で2基の風力発電機のプロペラが勢いよく回っていた。「海上は年平均で風速10メートル前後の風が吹き、発電には十分です」。洋上風力発電事業を支援する財団法人・船舶海洋産業研究開発センターの周顕光・副執行長が解説してくれた。 
 
 発電機は中型で、海上部分の高さ約100メートル、三つあるプロペラの長さ各約60メートル。2基で8000戸分に当たる8メガワットの発電容量がある。台湾初の洋上風力発電機で2017年に操業を開始した。 
 蔡政権は25年に原発を全て停止する方針を決め、同年の再生可能エネルギーを全発電量の20%とする目標を定めた。急ピッチで進む洋上風力発電事業は、その目玉の一つだ。 
 
 台湾海峡は風力と地形の両面で、洋上風力発電に有利な条件を備えている。洋上風力発電の設備や計画のある世界各地を比較したランキングで上位100位に台湾海峡の各地点がずらりと並ぶほか、浅瀬が広がり、着床式の発電機建設に適しているためだ。 
 
 17年末時点で洋上風力発電量の世界1位が英国(6・8ギガワット=GW)2位はドイツ(5・3GW)だが、台湾は25年までに発電容量5・5GW分の施設を建設し、世界の主要国を追う計画だ。そのために蔡政権は官民で9625億台湾ドル(約3兆5000億円)の投資を見込んでいる。完成すれば、その時点で台湾全体の発電量の4%を占めることになる計算だ。また台湾メディアによると、将来的には最大で17GW分の発電を目指している。 
 
 洋上風力発電で先行する欧州では、タービンの大型化などでコストダウンが進む。台湾で相次いでプロジェクトを受注しているのは、こうした先端技術を持つ洋上風力世界最大手のエルステッド(旧ドン・エナジー、デンマーク)や、風車やタービンの技術で世界をリードするシーメンス(ドイツ)の子会社などの企業だ。欧州企業にとっては、部品の生産なども含め、日本や韓国など将来的な需要拡大が見込めるアジア市場に向けた拠点づくりを進める狙いがある。中国はすでに大きな市場だが、外資参入が難しいことも台湾の注目度を高めている。 
 
 台湾側にも利点は大きい。半導体などかつて優勢を誇った産業が低迷しており、技術・経験を有する欧州企業と連携すれば新産業の育成につながる。台湾の財団法人・工業技術研究院はエルステッドと技術協力の協定を結んだ。船舶海洋産業研究開発センターの鍾承憲博士は「将来的には、欧州企業と組んで東南アジアなど海外市場を開拓できればいい」と話している。 
 
再生可能エネルギー、天然ガスに課題も 
 台湾では2011年の東京電力福島第1原発事故後、脱原発の機運が高まった。「25年の脱原発」実現を目指す蔡英文政権は、天然ガスと再生可能エネルギーによる発電を急増させて、脱原発に伴う電力不足を補うことを目指している。だが現状は順調とは言えない。 
 北部に大規模な太陽光発電パネルを設置する計画があったが、生態系を破壊する恐れがあるとして反対運動が起き、取りやめになった。民家などの屋上に発電パネルを設置する計画についても、台湾は屋上に違法建築物がある建物がとても多く、障害となっている。 
 
 一方、風力発電の潜在的な可能性は極めて大きい。洋上風力発電で適地とされる場所は、世界でも強風が安定して吹く台湾海峡に集中するためだ。課題はコスト面。洋上風力は建設や修理に莫大(ばくだい)な費用がかかる。蔡政権は洋上風力の建設を促進するため固定価格買い取り制度の価格を欧州の約2倍に設定した。だがこれは電気代の高騰につながりかねず、経済に与える負の影響が大きい。 
 
 再生可能エネルギーは天候に左右され、不安定な電源だ。このため天然ガスによる発電も極めて重要になる。台湾は天然ガスの大半を輸入に頼っている。海上輸送される天然ガスを港湾で受け入れる基地は台湾に2カ所ある。目標達成には基地増設が不可欠だ。だが北部の候補地では「海辺の環境破壊につながる」として反対運動が起き、3カ所目の建設は具体化していない。このままだと25年に天然ガスで電源の50%を賄うとの計画に間に合わない。 
 
 脱原発を進める一方で、天然ガスが計画通りに増やせないなら、足りない電力は石炭・石油に頼るしかない。台湾行政院は、石炭発電施設を新設すると言い始めた。だが石炭による発電は二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量が多い。解決すべき問題は山積している。【聞き手・福岡静哉】 
 
脱原発実現すればアジア初 
 台湾では「脱原発」を掲げる蔡英文政権が主導し「2025年までに原発の運転を全て停止する」との条文を盛り込んだ法律が17年1月に成立した。現在台湾には6基の原発があるが、「脱原発」が実現すればアジアでは初となる。 
 15年時点での台湾の主な電源は、石炭45%▽天然ガス31%▽原発14%▽再生可能エネルギー5%▽石油5%。
 これを25年に石炭30%▽天然ガス50%▽再生可能エネルギー20%とすることが目標だ。 .