2018年7月20日金曜日

<原発のない国へ 基本政策を問う>(6)

 シリーズの6回目は、「教育」に名を借りた原発の宣伝活動についてです。
 町立ニセコ高で18年10月、北海道大の山形定助教がエネルギー問題の公開授業を行った際、北海道経産局の幹部が事前に原子力発電の問題点を指摘する部分の変更を求めました。山形氏は一部表現を和らげる等の対応をしましたが、基本的には受け入れませんでした。半年経過した今年4月、毎日新聞が取り上げ話題になりました。
 
 道経産局の態度は、エネルギー教育モデル校のニセコ高校に、経産省外局の財団を通じて教育活動費を助成していることを足掛かりにして「教育内容を検閲」しようとしたものです。
 カネを武器にして原発に不利な言説を抑圧するだけでなく、有利なことだけを誇張して宣伝しようとする下心が見え見えです。
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<原発のない国へ 基本政策を問う>(6)「教育」の名の宣伝活動
 東京新聞 2018年7月19日
 「先生、ここ、根拠は何ですか」。二〇一七年十月十二日の夕方、北海道経済産業局の八木雅浩・資源エネルギー環境部長が、北海道大大学院の研究室に入るなり、山形定(さだむ)助教(56)=環境工学=に詰め寄った。
 八木氏の手には、山形氏が四日後に行うニセコ町立ニセコ高校でのエネルギー問題の公開授業の資料があった。
 
 同校は、一四年度に始まった経産省のエネルギー教育のモデル校の一つ。その一環の公開授業で、山形氏は原発の問題点を明らかにし、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの重要性を話すつもりだった。
 授業の資料に「原発のコストは高い」との識者の試算があることに、八木氏がかみついた。「いろいろな見解があり、高いか安いかは一概には言えない」。福島第一原発が水素爆発を起こした写真には「ほかの電源も事故を起こすのに、ことさら原発が危ないという印象を与える」と迫った。
 山形氏は「実際に起きた事故の写真を示して何が悪いのか」と反論。「影響が甚大な原発事故と、ほかの電源の事故を同列に扱う方が問題ではないか」とも思った。約束の十分は過ぎ、一時間以上たっていた。
 
 八木氏の部下の広報担当調査官も同日、モデル校事業の委託先の財団に「驚きで講演の内容が反原発となっておりました(中略)そちらからも明日、ニセコ高校に指導を」と求めるメールを送っていた。
 山形氏は授業の根本を変えるつもりはなかったが、原発のコストは「高いという指摘もある」と表現を和らげた。事故のほかに風力発電設備が倒れた写真も加え、授業を終えた。
 
 経産局の対応は、波紋を広げた。ニセコ町長の諮問機関の環境審議会委員も務めるフリーライター葛西奈津子さん(50)らは「教育への検閲だ」と危機感を強め、住民説明会を開いた。
 なぜ授業内容に介入したのか。八木氏は取材に応じず、代わりに経産局の広報担当調査官が「一方的で誤解を招きそうな内容だったため、山形氏に再考を求めた」と答え、「検閲の意図はなかった」と釈明した。経産省は今年四月、教育への介入という「誤解や懸念を生じさせる行為だった」として、モデル校事業の中止を発表した。
 
 ニセコ高校の授業の二カ月後、山形氏は倶知安(くっちゃん)町の「再生エネセミナー」の講師三人のうち一人を頼まれた。やはり経産省の補助事業だったが、数日後に「あの件はなかったことに-」。講師は、経産局が推薦した森林組合幹部に差し替えられた。
 倶知安町の環境対策室長は「山形氏に内諾を得たが、講師が学識者ばかりになるので、経産局に現場の実務を知る講師がいないか照会していた」と説明。しかし、山形氏は「裏で経産局が町に圧力をかけた疑念を拭えない」と語る。
 
 原発への理解を深めようと、政府は教育や広報に再び力を入れはじめた。だが山形氏と葛西氏は口をそろえる。「政府が伝えたいことしか伝えられないのなら、教育ではない。プロパガンダだ」 (吉田通夫)
 
<エネ計画では>広報に再び注力
 東京電力福島第一原発事故が起きるまで、政府は小中学校に原発の安全性を強調した副読本を配るなど、「教育」に力を入れた。
 エネルギー基本計画では「依然として原発への不安感や政府・事業者への不信感・反発が存在する」「原子力の社会的信頼の獲得に向けて、最大限の努力と取り組みを継続して行わなければならない」としている。
 過去の原発教育や広報戦略への反省に言及しつつ、教育や広報の重要性を再び強調。具体的には「客観的で多様な情報提供の体制を確立」「丁寧な対話や双方向型のコミュニケーションを充実する」と明記した。