市民自らが再生可能エネルギーで発電する取り組みが広がっているなか、いち早く会津電力(喜多方市)を設立した、造り酒屋の当主・佐藤弥右衛門社長(67)に、東京新聞がインタビューしました。
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<原発のない国へ 福島からの風>
再生エネで地域復興を 会津電力・佐藤弥右衛門社長
東京新聞 2018年7月21日
政府が原発の再稼働を急ぐ中、市民自らが再生可能エネルギーで発電する取り組みが広がっている。東京電力福島第一原発事故の被害を受けた福島県で、造り酒屋の当主が主導し設立した会津電力(喜多方市)はその代表例だ。政府のエネルギー政策を「大手電力会社の保護に傾きすぎだ」と批判する佐藤弥右衛門社長(67)に考えを聞いた。(池尾伸一)
-原発による発電割合を現状の2%から二〇三〇年には20~22%に上げるという政府のエネルギー基本計画をどう思いますか。
「原発事故の直後、放射能汚染で飯舘村は水すら安心して飲めなくなりました。飯舘の酒米で酒を造らせてもらっていた縁から、被災者のために飲み水を一升瓶に詰めトラックで運びましたが、ハンドルを握りながら『原発が安全なんて全部ウソだったじゃないか』と怒りに震えました」
「造り酒屋にとっても大切な水とコメがやられ『もう終わりかも』と覚悟しました。幸い会津地方の放射線量はさほど高くありませんでしたが(原発の)メルトダウンが続いていたらどうなっていたか。もう原発には一切頼るべきでないとの思いから、自分たちで発電することにしたのです」
-原発事故で取り返しのつかないほどの影響が出たということですか。
「日本人は事故の影響の大きさを身をもって知ったのだから『原発ゼロ』が政策の出発点のはずです。実際、原発が全て止まっても深刻な停電は起きていません。大手電力が苦しくなるから原発を稼働するというのは本末転倒です」
-日本の再生エネによる発電割合の目標は三〇年に22~24%と他国に比べ低いです。
「再生エネを盛り上げることで地方を自立させるという視点が忘れられています。これまで地方の原発や巨大なダムを使い、大規模集中型で発電した電気が都会に送られてきました。福島県はその典型です。豊かな自然が搾取される代わりに補助金が配られる植民地型構造で、地方の中央頼み体質も助長しています」
「太陽光など再生エネルギーは地元の発電会社や家庭でも発電でき、地域ごとに電気を自給自足する小規模分散型。自然の恵みは地域に還元され、雇用も生んで復興や自立を促します。会津電力も五年で発電所が七十カ所に増え、従業員も若い人を中心に約二十人に増えました」
-発電体制の転換が必要ということですか。
「『大規模集中型』は一カ所の発電所が事故を起こすと停電の影響が広域に及びます。『小規模分散型』は地域内の無数の小さな発電基地が送電線で結ばれ、電気を融通し合う仕組みなので、一カ所が事故を起こしても全域での停電はありません。ドイツなどでは送電ネットワーク技術の進展でこれが実現しています。日本では大手電力保護が優先され、世界で当たり前のことをやろうとしません」
-日本では送電線も大手電力の支配下にあります。
「会津電力も当初メガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設したのですが、それ以後は東北電力から『送電線が満杯でメガソーラーの電気は受け入れられない』と言われています。大手の送電線独占も見直しが必要です」
<さとう・やうえもん> 江戸時代から続く大和川(やまとがわ)酒造店の第9代当主。2013年夏に市民有志と会津電力を設立した。会津電力は太陽光を中心に発電し小水力や風力発電にも取り組む。再生エネを発電する飯舘電力(福島県飯舘村)の副社長や全国ご当地エネルギー協会の代表理事も務める。