2018年6月13日水曜日

再処理工場 ずさん点検、完成延期…核燃サイクルの未来は?

 産経新聞が、6月8日に公開された、青森県六ケ所村で使用済み核燃料再処理工場などの施設について報じました。
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 【原発最前線】
日本原燃が六ケ所村「再処理工場」を公開 
ずさん点検、完成延期…核燃サイクルの未来は?
産経新聞 2018年6月12日
 日本原燃は6月8日、青森県六ケ所村で、使用済み核燃料再処理工場などの施設を報道陣に公開した。再利用可能なウランやプルトニウムを取り出す再処理工場は、国の核燃料サイクル政策の中心となる施設。原子力規制委員会の審査が大詰めを迎えているが、これまで24回もの完成延期を繰り返し、昨年には周辺施設を含めて長年点検がおろそかにされてきた実態が発覚するなど、トラブルも続いている。(社会部編集委員 鵜野光博)
 
「雨水侵入」現場も
 想像以上に広い。そして建物が多い。敷地内を走るバスで、窓外の景色に目をこらした。残念ながらバスからの撮影は許されていない。すでに施設では核物質が扱われているからだ。
 「工場は左から右まで約1キロ、幅は約500メートル。そして地下20メートルまで建物が入っています」と原燃の担当者は説明する。数多く見える建物は、地下でつながっているのだという。
 「左側に、黄色い作業服を着た人がいます。あのあたりの地下で雨水が浸入しました。あれが現場です」
 
 再処理工場では昨年8月、非常用電源建屋に雨水約800リットルが流入。これをきっかけに、施設内に一度も点検されていない“開かずの間”があったことなど、ずさんな点検体制が発覚した。
 規制委から保安規定違反を指摘された原燃の工藤健二社長は「核燃料を扱う企業として、プラント全体の把握が不足していた」として、規制委の審査対応を先送りして屋内外の全設備を把握し状況を確認する「全数把握活動」を実施。工藤氏は今年4月、規制委の定例会合でその成果を強調した。窓外に見える建物の多さは、会合では大げさに思えた「全数把握活動」という命名を、ある程度は納得させる光景だった。
 
鬼門のガラス固化
 敷地内には、低レベル、高レベル双方の放射性廃棄物を埋設、または一時貯蔵する施設がある。低レベル放射性廃棄物埋設センターは平成4年から操業し、現在までに約30万本の200リットルドラム缶を受け入れた。原燃の担当者は「低レベル放射性廃棄物は、原発などで使われた金属が放射化(放射性物質に変化)したものだと考えていい。コバルトは半減期が5年で、50年はしっかり管理しなければならない」と話す。
 
 一方、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターには、将来は最終処分場に移送されるガラス固化体が中間貯蔵されている。ガラス固化体を説明するには、再処理の工程に触れなければならない。
 再処理の工程は、まず原発から運ばれてきた使用済み燃料をプールで貯蔵し、冷却。燃料を切断、硝酸で溶かし、ウラン・プルトニウムとそれ以外の核分裂生成物とに分離し、さらにウランとプルトニウムも分離する。次にそれぞれを精製した後、硝酸を除いて粉末にし、「ウラン酸化物粉末」と「ウラン・プルトニウム混合酸化物粉末(MOX粉末)」として製品貯蔵する。分離の工程で生じる高レベル放射性廃棄物を、ガラスと混ぜ合わせたものがガラス固化体だ。再処理工場ではこの「ガラス固化」も重要な工程となる。
 
 6月8日にはガラス固化技術開発施設も公開された。原燃によると、平成9年に完成予定だった再処理工場が24回も延期された主な理由は、(1)初期の仕様変更(2)プールからの漏水(3)ガラス固化の技術開発(4)安全性向上-の4つ。特にガラス固化では、ガラスに溶け込みにくい白金属元素の扱いで試行錯誤を重ねたことが延期の原因となったという。ガラス固化は25年に社内試験を終えているが、さらなる技術の高度化を目指して設けられたのがこの施設だ。
 施設ではガラス固化の開発以外にも、遠隔操作の試験と教育訓練が行われている。なぜ遠隔操作が必要なのか。担当者は「原発では人間が近づけない機械はないが、再処理工場では高レベル廃液が工場の中を回っているため、近づけない機械はいっぱいある」とその理由を説明した。
 
見通せない未来
 公開前日の7日には、規制委が現地調査を行った。点検漏れなどのトラブルと対策を踏まえた調査で、参加した田中知(わたる)委員長代理は原燃の安全管理体制について「さらなる改善が必要だ」と指摘したという。
 
 再処理工場の現時点での完成予定は33年上半期となっている。ただ、将来の視界はあまり開けていない。核燃料サイクルの中心施設に位置づけられてきたが、サイクルで重要な役割を果たすはずだった高速増殖炉は、原型炉「もんじゅ」(福井県)の廃炉が決定し、実現への道は絶たれた。生産するMOX燃料を消費する原発の再稼働のペースも遅い。また、ガラス固化体が移送される最終処分場は、経済産業省が昨年7月、候補地となり得る地域を示した日本地図「科学的特性マップ」を公表したものの、地域選定の見通しは全く立っていない。
 六ケ所村の広大な敷地で本格稼働を待つ施設群。未来を開けるかどうかは、原燃のトラブルを未然に防ぐ取り組みと、国の原子力政策の展開にかかっている
 
 日本原燃本社・青森県六ケ所村。核燃料サイクルの商業利用を目的に設立された株式会社で、主要株主は電力会社で構成。ウラン濃縮▽原発などから生じる使用済み核燃料の再処理▽高レベル放射性廃棄物などの一時保管▽低レベル放射性廃棄物の埋設▽混合酸化物(MOX)燃料の製造-などの事業を手がける。