食品などの放射線基準が、事故後既に7年以上が経つのに全く変わっていません。事故直後の基準値はいわば緊急避難的な暫定値であるのに、7年経過した現在もそのままでいい筈がありません。
22日に放射線審議会総会が開かれましたが、出席者から現行基準の見直しをする意見は出ず、基準を改めることは棚上げになりました。
総会を欠席した吉田浩子・東北大大学院准教授は、事前に提出した意見書で、唯一人「緊急時に設定した数値を事故後の長い期間中、固定して使用することは極めて不適切。適切に数値を変更できるようあらかじめ示しておくことが重要だ」と述べ、「これから帰還を考える住民が、毎時0・23マイクロシーベルトを導入した計算式と条件をそのまま使うことは不適切だ」と断じました。
基準値を変えると現場が困難するからというのが本当の理由のようなのですが、では一体どんな風に混乱するというのでしょうか。
1キロ100ベクレルの物質は、事故前であれば「低レベル放射性汚染物」としてドラム缶に入れて原発敷地などの所定区域内に厳重保管されていました。
それが今では食品の安全基準とされているだけでなく、専門家たちの間で「安全すぎる」基準だと言われているということです。
まことに変転ただならないというべきで、放射線専門家たちのいい加減さが疑われる話です。
産経新聞が食品の放射線基準の問題を取り上げました。
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【原発最前線】
「現行基準見直し」の声ない放射線審議会 福島の教訓を提示へ
産経新聞 2018年6月26日
国の放射線審議会で行われている原発事故後に策定された食品などの放射線基準についての検証と議論が、基準は状況の変化に応じて見直すべきだとする「次の事故を見据えた『福島の教訓』の提示」を目指していることが、6月22日に行われた総会で明らかになった。現行基準の見直しは「現場の混乱を招く」(事務局の原子力規制庁)として踏み込まず、基準が現在は過度に安全寄りになっていることをデータなどで指摘するにとどめる見通しだ。(社会部編集委員 鵜野光博)
基準値超え「ほとんどない」
6月22日の総会では、事務局が、事故直後の暫定規制値で放射性セシウムが一般食品で1キロ当たり500ベクレルに設定され、約1年後に100ベクレルに引き下げられた経緯などをまとめて報告。最近では基準値を超える食品は野生鳥獣の肉類、山菜など管理できないもの以外はほとんど見られず、食品中の放射性セシウムの検出濃度は時間とともに低下していることが説明された。
また、事務局提出の資料では、除染実施計画を策定する地域の要件とされた「空間線量率が毎時0・23マイクロシーベルト未満ではないこと」とする基準について、4つの行政資料と学術論文から検証した。毎時0・23マイクロシーベルトは、個人の年間追加被曝(ひばく)線量1ミリシーベルトを1時間当たりに換算したもので、1日のうち屋外に8時間、木造家屋に16時間滞在すると仮定し、外部被曝線量は空間線量の0・6倍として算出されていた。結論では、個人線量計を身につけた被災地の住民のデータなどから「基準はもともと保守性(安全寄り)を織り込んだ設定だったが、結果としてさらに相当程度の裕度(許容範囲)があった」としている。
「安全側」のデメリット明示を
総会での議論では、出席した岸本充生・大阪大教授は「暫定規制値では、半減期が8日と短い放射性ヨウ素の場合は、日々基準値を小さくした運用を行うべきだったが、実際の運用は全く違っていた」と事故直後の問題点を指摘。また、「基準値を安全側にするのは一見非常にいいことに聞こえるが、その裏で別のリスクやコストを増やすデメリットがあることを明示すべきだ」と述べた。
甲斐倫明・大分県立看護科学大教授は「事故後の混乱の中で基準を作ったときに、それをどういったときに解除するかということを議論できていなかったのが教訓だと思う」と述べた。松田尚樹・長崎大教授は「事故直後の急性期から、次の慢性期への切り替えを、誰がどういう根拠に基づいて行うのか。それが明確ではなかったから、今、こういった議論が出てきている。どこかで誰かが意思決定しなければならない。その議論が必要だ」と指摘した。
総会を欠席した吉田浩子・東北大大学院准教授は、事前に提出した意見書で「緊急時に設定した数値を事故後の長い期間中、固定して使用することは極めて不適切。適切に数値を変更できるようあらかじめ示しておくことが重要だ」とした。また、「被曝線量を正確に知るためには個人線量計を装着して評価するのがもっとも有効」とし、「これから帰還を考える住民が、毎時0・23マイクロシーベルトを導入した計算式と条件をそのまま使うことは不適切だ」と断じた。
ただ、総会では、出席者から現行基準の見直しを必要とする意見は出なかった。事故後の基準が現状では過度に安全寄りとなっている認識を共有しながらも、その基準を改めることは棚上げし、「将来の事故」に備えた教訓としてまとめようとしている。そこに問題はないのか。
現行基準は棚上げ
事務局は議論当初から「基準自体を見直すのではない」としていた。その背景には、原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長の「問題提起」と「後退」がある。
更田氏は昨年12月~今年1月に行った福島県内の首長との意見交換で、「放射線のレベルは過剰に低く設定され、それによって失うものがある」と指摘。一般食品の1キロ当たり100ベクレルの基準などについて「極端に低い値」とし、「放射線審議会などでの議論に向けて努力を続けたい」と述べていた。
そして1月17日、規制委定例会合で「事故当初は手探りで実証データも少ないから、非常に保守的な値が設定されるのは致し方ないが、いつまでも改めないのは大きな問題だ」と提起。基準見直しを意図する発言と受け止められたが、同月24日の会見では「基準がどのぐらいの保守性を持っているかを明確にするだけで大きな前進」「基準を見直そうといった意図は全くない」と後退した
事務局は「関係者にも相談したが、基準見直しは現場が混乱し、風評被害も懸念されるとのことだった」と舞台裏を明かす。「この7年の間に放射線審議会として言えるものはあったと思うが、今更時間を元に戻すのは難しい。忸怩(じくじ)たるものはあるが…」
福島の教訓は審議会が昨年まとめた「放射線防護の基本的考え方の整理」の補足に位置づけられる見通しで、次回総会で事務局が原案を提示し、議論される。どのような形で、どれだけの説得力を持てるのか。次回議論を待ちたい。
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福島第1原発事故後の放射線基準
事故から1年後の平成24年4月から適用されている食品の放射性セシウムの基準値は、1キロ当たり一般食品100ベクレル▽飲料水10ベクレル▽牛乳50ベクレル▽乳児用食品50ベクレル。一律1200ベクレルの米国などより大幅に低いほか、食品の50%が汚染されていると仮定しており、現状とのずれも指摘されている。また、除染の目安とされる毎時0・23マイクロシーベルトについては、外部被曝線量は空間線量の0・6倍とした算出根拠に対し、住民の個人線量計による計測で0・15倍とする研究結果などが発表されている。